朝枝の会(中・爆笑「転失気」珍品「六郷のたばこ」)

前座もなく、いきなり春風亭朝枝さんが登場。
この会は9回目です。野球だったら最終回なんですが。でもまだまだ続きます。
前回までは日本橋人形町の社会教育会館が会場だったんですが、なかなか予約が取れなくなりまして。
今回と次回(8月19日)はここ赤坂会館でやることが決まっています。
こちらはアットホームでいいですね。

自分の会ではここ赤坂会館は初めてなんですが、「味のれん」という会ではここが会場です。
柳家の先輩たちに混ぜてもらっている会なんですが、この会は楽屋が楽しいですね。まあ、うっかりするとお客さんより多いんですが。
今日はひとりなんで寂しいです。楽屋が10畳敷の和室で、ひとりでいると独房みたいです。

終始にこやかで、そして楽しそうな朝枝さん。イメージをまた変えさせられた。
それから、どう持ってきたのか忘れたが、一朝一門について。
一朝一門は、上から下までみんな一生懸命です。まあ、はるかぜ(一刀)のアニさんだけはちょっと別ですけど。
あの人はマイペースです。

そして出物腫物から、屁の話へ。ブースーピーの違いなど。
屁の噺なんて、転失気以外にない。飽きた噺の筆頭であるが。
マクラの振り方からすると、菊之丞師に教わったのでしょうか。
朝枝さんが菊之丞師に転失気の稽古つけてもらっている姿を想像すると笑うね。

昨日書いたとおり、この転失気の「笑い」の質・量に圧倒された次第。
表面的には入れ事の芸なのに、本寸法の皮を被っている。

和尚が珍念に、転失気を借りてまいれと命じるくだりは、スピーディだ。
朝枝さん、なにげに刈り込んだほうがいいシーンを刈り込んでいる。そうしないと、延ばしたい部分を延ばせない。
門前の2商店では転失気の正体がわからない。なので、先生に訊いてまいれと。
その際、いいか、お前の肚から出た「ピュアな気持ちで」聴いてこいと。爆笑。
古典落語に「ピュア」とか入れてどこが本寸法なんだ。でも、骨組みがしっかりしているからこんなことでは崩れない。

そして、仕掛けがもうひとつ。
珍念と医者の先生の、ボケツッコミ合戦がいきなり始まる。

「転失気とは、放屁のことだ」
「ああ、掃除のときに使う」
「それは箒だ」

ここまでは普通だが、いきなりエンドレスシャレ尽くしワールドに突入。
「火をつける?」「それは放火だ」
「頭の皮?」「それは頭皮だ」
「北区?」「それは王子だ」
「お茶みたいな飲み物」「それはコーヒーだ」
「(珍念、唸る)」「そりゃ、ホーミーだ」
このボケツッコミが10種類超えるぐらいあったと思う。
別にひとつひとつのネタが面白いのではないけど、いきなりのカオス振りが最高。
ホーミーは相当に教養が必要。

こんなのだったら私も作れるぞ。
「無駄遣い」「浪費だ」
「工藤静香の娘の」「コーキだ」
「佐々木」「ローキだ」
「ダイアナさん」「王妃だ」
「福岡ソフトバンク」「ホークだ」
「スポーツ」「報知だ」
「このやり取り」「狂気だ」

「放置」とか「包皮」とかもあるけどシモっぽいので上は書かない。
私のネタはいいや。それに、朝枝さんが採用しなかったのだろうし。
医者の朝枝さん、続けて言う。「この間これ鈴本でやって、怒られたんだから」。

笑いのハイライトはこのあたりだが、客のモードがちょっと変わり、終盤までずっと面白さが続くのであった。
そして、後半はわりと駆け足なのも、借り物くだりと同様。
シャレ尽くしをしたからって、さらに爆笑ネタを被せなきゃいけないルールにはなっていない。これが昨日述べた風呂敷の効能。
地味に珍念、「転失気とはお盃でございます」のネタバレを引っ張っているなど工夫もあり。

転失気を終え、そのまま次のマクラへ。
独演会で出すようなネタじゃないですけど。でも最近、妙にこの噺好きでと振り返る。
あと、好きな噺といいますと「牛ほめ」とか「紙入れ」とか。
私、今51席持っています。キャリア的には少ないほうですね(そうかな)。
好きな噺から覚えるもので、どうしても偏ってきます。
好きな噺というと、夫婦の噺がやたら多いです。
今からやる噺は、お客さんに合わせたものじゃないので。

と振って、東海道を品川の先、大師へ向かっていくショートトリップの旅人の話。
ちなみに夫婦の噺ではない。夫婦の噺はトリで出てきた。

大変な珍品である「六郷のたばこ」。
そこそこ珍品に詳しいつもりの私も、まるで知らない。
仲入り休憩時に「タバコ 落語」で検索掛けたら最初にこの噺(演題は「煙草好き」)が出てきた。JTのサイトに。
そして朝枝さん、珍品を普通に語る。
珍品好きの噺家、他にもいるけど、こんなに軽々語られると他の噺家の立場がないななんて思う。
実に困った人である。

ストーリーはあってないようなもの。
小間物屋かと思ったら実は背中に背負っているのはすべて刻みたばことキセル。
長いキセルで旨そうに一服する職人に、このタバコ箪笥を背負った男が声を掛け、ぜひどうぞと利きタバコをさせる。
この利きタバコがいつまで経っても終わらない!

続きます。

 

作成者: でっち定吉

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