国立演芸場22 その4(笑福亭羽光「俳優」)

仲入り休憩時には、ロビーで笑福亭希光さんが鶴光師の本を売っている。
売れないと、弟子の買い取りになるとかなんとか。
そんなはずはないが、現金をほぼ持参していない私には買えません。いつも持ってないわけではないが。

クイツキ(休憩後の出番をこう言います)は、あまり中学生向けではないザ・ニュースペーパー。
さすがにこの人たちは、中学生には合わせていかない。なにしろ、最初に出てくるのが麻生太郎だもの。
麻生太郎が、ときどき口を歪めながら、べらんめえでモノマネ漫談を披露する。
最高裁の隣でこんな芸をやらせてくれる国立演芸場は貴重だって。

麻生さんが紹介して、今度はゼレンスキーが登場。
これは中学生でもわかったんじゃないかな。
ゼレンスキーは大金を用立ててくれた日本政府に感謝しつつ、岸田総理をちょくちょくdisる。
disる論法が面白い。ニュースペーパーのやったネタそのものじゃなくて、私が中学生向けに作ってみるか。

 

「3年生の中村くんは、なぜ急に成績が落ちたのでしょう」

  • 彼女ができたから
  • 中学受験のために勉強していた頃の貯金がなくなったから

「恐らく、後者でしょう」

 

先日の横浜にぎわい座のコント青年団と同様、岸田disのたびに手を叩く最前列の客がいる。鬱陶しい。
ニュースペーパーはあんたの思想を裏付ける芸をやってるわけじゃないし、寄席はあんたの思想の発露の場所じゃない。

最後にもう1回麻生太郎が出てきて締める。

ヒザ前は、鶴光師の弟子の笑福亭羽光師。
私がこの席で、最も楽しみにしてきた人である。
まさか中学生の前でエロ落語はすまいが。でもちょっとだけ期待したりなんかして。

終演後、私も本売りますので。売らないと買取りですから。
楽屋で話してたんですが、今日は中学生と高齢者で笑いのツボが違うそうですね。どっちに合わせたらいいんでしょう。
中学生のみなさん、重いって言われてますよ。重いというのは、あまり笑わないということですね。
私にはどちらにでも合わせる噺があるんですけど、今日はどちらでもない45歳ぐらいを攻めてみます。
ちょっとメタな噺です。
メタが分からない人は、ツイッターやフェイスブックやってますのでそちらで質問してください。

この噺は中学生にはわからなかったんじゃないか。
中学生ぐらいになれば人の話は一通り理解できるけども、本来あるべきまともな構造を歪ませると、世界の理解が突然難しくなると思う。
ところが大人は、よほどアレな人でもない限り、すんなり食いつく。
中学生の皆さん、わからなくても気にすることはない。落語というものは、古典から入ればいいのです。
新作落語は、古典落語が好きになると、いずれ必ずわかるようになるものだ。

NHK新人落語大賞を獲ったペラペラ王国と同じ、メタ構造、マトリョーシカみたいな入れ子の噺を持っていたとは知らなかった。
帰る際にネタの名前を見ると「俳優」。そんなシンプルな演題なの?

友達と話している男。
自分は、親父と折り合いがあまりよくない。親父に相談する練習をしてみたいから、親父やってくれへんか。お前俳優やろ。
羽光師は、自分の落語でおなじみ本名中村好夫であるが、友達は田中。
中村と田中が出てきたときに、中学生の席から笑いが起こる。
羽光師受けて、「中村も田中も、だいたいひとりくらいはおる」。

友達が酔っ払っている親父に扮し、中村の相談を受ける。
親父、相談がある。
実は会社で部長とあまり折り合いがよくない。部長への相談してみたいので、親父、部長やってくれるか。

ちょっと待てと、晩酌で酔って親父になり切っていた友達が素に返る。
それやったら、最初から部長役で俺が登場すればええんちゃうか。
いや俺は、部長役をやる親父が見たいんや。
最初から頼むわ。

酔っ払った親父に息子が相談し、親父が依頼に応じて部長になる。
息子が相談する。部長、今度の忘年会でぼくと漫才コンビ組んでください。
部長には、この役をやって欲しんです。

また田中は素に返って。それなら漫才シーンから始めたらええやんか。
いや俺は、親父が演じる部長の演じる漫才の役が見たいんや。

羽光師自ら説明する、マトリョーシカ構造の噺は、最後段階的に元に戻るどころか、さらなる衝撃。

高座の模様を残らず覚えてくる私といえども、実はあんまりよく覚えていないんだけど。覚えられぬ。
ともかく、やたらと楽しかったことは確かだ。

羽光師もっと聴きたいんだけども、どこ行ったらいいのかな。

続きます。

 
 

作成者: でっち定吉

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