国立演芸場22 その5(笑福亭鶴光「戦国大名の荒茶」)

ヒザはボンボンブラザース。
この芸ほど、寄席の初心者に楽しいものはない。

ヒゲの繁二郎師匠は、御年80歳(!)なのに今日もパワフル。戦中のお生まれである。
ちなみに堺正章のいとこだそうで。中学生にはマチャアキもピンと来るまいが。
ステージからはみ出て、客席で紙を鼻に乗せる芸を久々に観た。もともと寄席では場内一周まではやらないかな。
国立の舞台の下手(しもて。舞台用語で、客席から見た左)に階段はないのに、そこから器用に客席に下り、再度後ろ向きに登る曲芸。

できたくんと同様、この舞台にもお土産がついていた。
英語の先生なのだろう、白人の先生を舞台に上げて、帽子投げをやらせる。
ちなみに、身バレが嫌で当ブログには書かなかったが、私も一度やったことがあります。帽子はおもりが仕込んであり、そこそこ重い。
フリスビーの要領で投げると上手くいく。
英語の先生、帽子を一発で見事に引っ掛け、やんやの喝采。
そして今度は繁二郎師匠の投げる帽子を受けるほう。
先生、ちょっとしたヒーローである。
さすがに学校の先生は堂々としていて物おじしませんね。

(※ ボンボンブラザーズ、って書いちゃったけどボンボンブラザースです。すみません。実にやりがちな間違い。タグまで間違っちゃった)

国立演芸場は色物の前後には必ず一度幕を閉める。
また開くと、トリの高座に見台と膝隠しがない。
見台が会場にないのでなしで務めた一席は観たことがあるが、鶴光師は見台を必ず使う人だと思っていた。
2席も見台ありの上方落語が出たから、もういいということだろうか。
見台なしでは「クローズアップ見台」のギャグは使えないが。

そして鶴光師ひとりが、まったく中学生を意識しないモードだった。
いつもの「ほんまに高齢化社会でんな」なんて、中学生が多かったらやめそうだけど。
ネタとして彼らをいじることもしない。
60代以上にとっては伝説のヒーローである鶴光師だが、中学生にとってはまるで縁がないだろう。
師も学校寄席は何度も呼ばれているはずなので、中学生をいじらないのには理由があるはずだ。
以前鶴光師、喬太郎師の番組で語っていた内容を思い出す。

もう7年も前に書いた記事。ということは、番組が流れたのはもっと前。

落語にまつわるいい話《笑福亭鶴光師匠編》

あまりにも印象に残ったので、この記事はその後繰り返し引用している。
鶴光師の語る、先代春團治である。
春團治はどんな客の前でも、一線を引いて変わらない高座を務めた。それることもあるが、時として絶妙の一体化が生まれることがあるのだと。
それを狙っているのだろうというのが私の想像。
別にこの日の中学生が悪い客ということはない。ただ、羽光師の言うように、ターゲットにしづらい子たちではあったのだろう。
だから無理に合わせない。

ともかく、一般的な落語好きをターゲットにして、マクラを進める鶴光師。
師匠・松鶴への入門について。
入門志願を往復ハガキでする。入門させてくれるなら〇、させてくれないなら×。
返事は来ない。
なので直接角座を訪ねていくと、師匠に叱られた。お前の宛先は「松福亭松鶴」になっとる。入門したい師匠の名前間違えるボケがどこにおんねん。
いきなりしくじったが、上の弟子が辞めたので獲ってもらえる。

師匠は、惣領弟子の仁鶴がテレビで活躍しているのが気に入らない。
こいつはテレビ出とるさかいに落語の腕が上がらんのじゃと楽屋で不機嫌な松鶴。
そこへ関西テレビの偉い人が訪ねてきた。師匠、今度のうちのドラマ(西郷輝彦主演の「どてらい男」)に出ていただけませんか。
二つ返事で承諾する松鶴。その日はとてもご機嫌。

と、そんなことが本に書いてますと宣伝で締める。
まあ、売れ残ったら弟子が引き取るんでっけどな。

見台なしでやる噺はなんだろう。
地噺の「荒茶」だった。別に見台あってもできると思うけど。
演者のセリフで進める噺を地噺という。じばなし。

鶴光師は地噺を数多く持っている師匠だが、地噺というものも、羽光師の新作と同様、メタなものだ。
登場人物だと思っていたら、いきなり演者のセリフになっている。
これに付いていけてない子はいるはず。
それに中学生だと、戦国大名オタクになる子もまだ少ないと思うのだ。まあ、ごく一部好きな子にはたまらないかもしれない。

しかし、鶴光師が目論んだように一線を乗り越えて高座を訪れる子にとっては、十分楽しめる要素があったろう。
戦国武将なのに、揃いも揃っておっちょこちょいである。
茶の作法がわからないので、唯一利休の弟子である細川忠興のマネをさせてもらうのだが、ピントがことごとくズレている大名たち。
あまり掛からない「本膳」と同様、バカな大人を笑う楽しい噺なので、ついてこれる子なら小学生でも十分楽しいと思うのだ。

フォーマットに載ってしまえばあとは一直線である。
茶に浸かったひげをしごき、指でしごく加藤清正。
加藤茶というぐらいで。

5日間にわたって、中学生団体と一緒の国立定席の模様をお届けしました。
寄席は万人にとって面白いところです。
この日をきっかけに落語好きになる子が一人ぐらいいるかもしれないし、当ブログを読んでそうなる子だっていないとは限らない。

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作成者: でっち定吉

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