KITTEグランシェ落語会2(下・昔昔亭喜太郎・ショート新作三連発)

台湾にいた頃は、蒋介石と日に三度ちりとてパーティをやったなんてクスグリもあった。師匠っぽい。

一席終わって、約束通り撮影コーナー。
兄弟子A太郎と違い、「撮らない人は意地でも撮らないですね」といういじりはない。

ただいまは古典落語のちりとてちんでした。
そして隣の物販コーナーで客の気が散ることについて触れる。触れないと変な感じになるだろう。

私はうちの師匠、桃太郎を選んだのは新作落語をやりたかったからというのがありまして。
古典落語は先人の積み重ねがあるのでいいんです。
新作は自分で作るものなので、怖いです。
歌丸師匠がご存命の際、前に出て、新作でびっくりするほどスベッたことがあります。
それこそ、歌丸師匠の吸引機の音が聴こえるぐらいです。
歌丸師匠からは「それでいいんだよ、やり続けなさい」と言ってくれた、気がしました。実際には目も合わせてもらえなかったんですが。
まず短い新作落語からやりましょうか。

残り時間は30分。
新作を1席やるのかと思っていたら、なんと3席。
特に前半の2席は本当に短い。
小噺サイズの新作を持っているとは。

新作派と認識している喜太郎さんだが、実際に新作を聴いたことは実はあまりない。
将来は新作の経験を糧に、古典で羽ばたく人ではないかと思っている。兄弟子もそうだし。
ただ3年前に国立定席で聴いた「個室らくご」は面白かった。

なお、小品でも演題は一応あるはずだが、調べません。こんな3席。

  • ハラスメントの噺
  • 現代版与太郎とネギの噺
  • なりたいものになる中学生の噺

ハラスメントの噺は本当に短い小噺。
女性社員にちゃん付けした上司がつるし上げられる。
親しみを込めたってちゃん付けはだめなんですよ。セクハラでありパワハラです。
いつになくヒートアップする女性に上司が、どうしたんだ薬物でもやってるのかと訊くと、そんなことを訊くなんて、キヨハラです。あるいはマキハラ。
さらには、出身地を言ってくださいと女性。
神奈川県の伊勢原だ。
ほら、イセハラじゃないですか。

1席終わり、この噺を明日浅草で掛けようか検討中なんですけど、だって。

2席目は、ちょっと下品な噺ですがと断って。
故郷からネギを送ってもらった与太さんが、喉が痛いのは首に巻くと直ると言われてそうするが、方法論が間違っている。
次に熱が出たので、肛門にネギを刺すといいらしいよと言われ実行するが、抜けなくなる。
与太さんの天然の被害に遭うのが、八百屋の親父。

与太さんの描写が、演者そのままでなんだかとても楽しい。

3席目が一番長い。性的多様性がテーマだが、それにとどまらない。
この噺が最も、具体的なストーリーを書くのがはばかられる気がするな。
ネタバレを避けたいだけでなく、世界観を薄っぺらく紹介するのを躊躇する次第。

修学旅行で東京に来た中学生たちが、自由時間に蔵前の八幡様(笑)で願掛けをする。
すると、その際のみんなの希望がそれぞれ、なんらかの形で半分実現するという。
たとえば、主人公は実は女の子になりたい男の子。

私の内心のツッコミ。「あしゅら男爵か!」
なんのことかわからないでしょう。すみません。
喜太郎さんも、世代ではないがあしゅら男爵知ってるのかな。

非常に面白かったのだが、反応はどうだっただろうか。
隣の女性は寝てたしな。
寄席でできるのかな、というと? 個室らくごだったら全然いいけども。
まだまだ先だが、真打の披露目の一席で、ショート新作3連発をやってみて欲しいな。

噺ももちろん面白かったのだが、見事な古典落語を魅せた後で、バカ新作3連発というその振る舞い自体がとても楽しかったのです。

やはり新作落語っていうものは、落語の上級編だなと改めて思った次第。
日常生活を描く新作落語はとっつきやすそうと感じる人もいるだろうが、そう思うとだいたい違う。
桂文枝、立川志の輔といった師匠方ならそうでもないけれど。
喜太郎さんの新作は、落語自体が好きな人間の感性に斜めに食い込んでくるもの。そしてこれは、東京の新作において顕著なのだった。

来てよかった。タダ落語バンザイ。
来月のこの会は、桂竹千代さんです。

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作成者: でっち定吉

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