梶原いろは亭4(上・金原亭馬久「臆病源兵衛」)

月曜日、神田連雀亭ワンコインが好みの顔付けだった。

  • 柳家小はぜ
  • 三遊亭仁馬
  • 金原亭馬久

行こうかと思ったのだが、マスク着用が面倒くさくなってやめた。
神田連雀亭は、費用も掛けて実現したコロナ対策がやめられなくなってしまっている。
民間のハコだが、一度始めたらやめられない、役所の発想。役所だってとっくにやめているのに。

そろそろ現実レベルに戻さないと。
巣鴨のスタジオフォーなども、ピークのときはいろいろ頑張っていたが、今は普通に戻っている。
演者のほうも、この寄席から離脱する人が出てくると予想します。
あたしゃ別に、ピークのときにマスク不要を唱えていた痛い連中の仲間ではない。念のため。

黒門亭もいまだにマスク着用義務がある。こちらはまあ、仕切りもないしわからないでもないが。

そんなことをいろいろ考えて、水曜の梶原いろは亭へ。1時間で千円だから、ちょい高くはある。
聴き損ねた馬久さんと、三遊亭鳳月さんの二人会。
前日の火曜日は、立川笑二さんの会だった。これも考えたけども。
馬久さんも鳳月さんも、昨年は聴いていない。久々のほうへ。

珍しく、都電に乗って梶原へ。
車内でもって、梶原いろは亭の案内が流れていたので驚いた。

客はつ離れしていた。

臆病源兵衛 馬久
蒟蒻問答 鳳月

冒頭のトークコーナーは2分ぐらいしかなかった。
お客さんがいらしててホッとしました。
今日は馬久アニさんが譲ってくださったので、私がトリを取らせていただきます。ネタおろしなんですが。
口では後輩に、なんでもやっていいよなんて言いながら、ホントはやりたい噺があったりします。噺家ってそういうところがあります。
先輩も後輩も、両方気を使うんです。

すでに羽織(黒紋付き)を着ている馬久さん、一度引っ込んでから再度登場。
そのまま上がってもいいんですけど、なんだかリセットしたくてですね。

昔の暗闇の噺。
ということは、臆病源兵衛。
う〜ん、時季だけど。そして、決してキライな噺じゃないが。
6年間で5席めとは、ちょっと遭遇しすぎるぞ。そんなメジャーな噺じゃない。
ちなみに、うち3席が馬久さん。前回は3年前。
夏が来るたび聴いてる「お菊の皿」と同じ頻度ってのはね。
軽くガッカリしたが、でも素晴らしいデキでした。

なにがいいか。
目の動き。
そして見事なタイミングで放たれる臆病な源兵衛の絶叫。
この上ない臆病なのに、とてつもないスケベの源兵衛を、目で表現し尽くす。

過去の2席を詳細に覚えているわけじゃないが、間違いなくバワーアップしている。
たぶん、ムダが消えている。
源兵衛が人並み外れた驚きを見せるシーンは、源兵衛という変わった人間を描いているとともに、笑いどころ。
ただ、ウケるからといって、ウケのために源兵衛をいちいち驚かせていては、いずれダレてしまう。
馬久さんの驚きは、すべて必然性を持っているように思った。

源兵衛が誤想防衛で八っつぁんを殺してしまうのも、死に装束を着せて捨てにいくのも、同様にムダがない。
「どうしてこのアニイは、弟分の八五郎が死んだのに、平気で捨てにいかせる人なんだろう」などと考えてしまうと、おそらく先に進めない。その前に、噺を覚える気にならないと思う。
だが、馬久さんの描くアニイは「こういう人」。
こういう人だが、弟分たちの信頼もあるらしい。とにかく、演者が疑問に思わなければ聴いてるほうも大丈夫。

どんどん楽しくなってくる。
本来マイナーな噺なのに、ストーリーは非常に楽しいという、不思議な噺。

死体を捨てにきた源兵衛が人とぶつかり、つづらを落っことす。
息を吹き返す八っつぁん。やはりムダがない。

以前聴いたものをかすかに思い出した気がする。
面白いのだけど、不忍池から根津の地獄へ歩いていく八っつぁんの行動が、なんだか不自然だなと。
そりゃそうだ。冒頭で仕込んでいる「地獄」の地に寄っていくのだから、ご都合主義にならざるを得ない。
今回の一席には、まるで不自然さは感じない。
死んでしまった事実は受け入れつつ、八っつぁんは心底、ここが地獄か極楽かが気になっているのだ。
このあたりも演者の肚の持ちようだと思う。

そんな語りからは、「この人たち馬鹿じゃないの」とか、犯罪はよくないねとか、そういう常識的な感想は湧いてこない。
噺にのめり込むのを阻害する要因は、語りようでカットできるのだった。

聴き終わったあとで、疑問がひとつ。
八っつぁんも、根津の地獄には出入りしているはずなのだ。アニイにそう言っているもの。
なのに、どうして不忍池から根津に向かっているのがわからないんだろう。夜とはいえ。

演者のほうはこの噺のウソに先刻気づいている。
でも、これもまた肚の持ちようなのだと思う。うろたえた八っつぁんの気持ちを表現していれば、客にも気にならないのだった。

続きます。

 
 

作成者: でっち定吉

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