梶原いろは亭4(下・三遊亭鳳月「蒟蒻問答」)

馬久さんの臆病源兵衛。
いったん八っつぁんが死んだことになっていても、ヘンな感じにはならない。
そこに人の生き死にというシリアスさがないから。
たとえば、現柳家さん花の小んぶさんからも見事な臆病源兵衛を聴いたが、小んぶさんは「源兵衛、実は死んでない」を結構早くバラしていた覚えがある。
その必要性はわかる。客が不安になるのを救いたいのだろう。
だが馬久さん、しばらく引っ張っていた。人が死んだ状態のままで噺を続けられるのだ。

久々の馬久さんはとてもよかった。

続いて、三遊亭鳳月さん。
本格派志向の高座姿からは、漫才師だった過去はまったくうかがえない。
真打になった錦笑亭満堂師の「末高斗夢」時代は知っていても、兄弟漫才の「若月」は知らない。
まあ、爆烈Q(羽光)も、メロンソーダ(昇也)も、名前だけは知っていたヒカリゴケ(茶光)も、みんなよく知らないけど。
そういえば、芸人上がりの噺家って、落語協会にはいない気がするな。誰かいたっけ。

それにしても、鳳月さんはいつもきっちりしている。
固いといえば固いのだが、同時に「強い」という感覚もある。
高座を強く組み立てられる人。といって、客へのヘンな圧はない。
こうした姿を見ると、やはり芸人としての経験がフルに活きているのだろう。

鳳月さん、テレビでは落語やらないのって言われることがあります。
そもそも、テレビの落語が少なくて、早朝やってる程度なのに、私の枠なんかないですからね。
それとテレビでは放送コードの問題があります。言っちゃいけないワードが多いんですね。
だからテレビで出る落語は決まってるんですよ。

なんて言うけど、実のところいまやテレビでなんでも出る(ようになった)時代なんだけどね。
放送コードの問題については、こちらの記事で。

落語「代書」の朝鮮人

あと、高座でフィクションとして語るぶんには別にいいのだけど、落語の番組が少ないって。
私、落語の録画が増えていって困ってるぐらいなんですが。
鳳月さんが念頭に置いている日本の話芸、落語研究会だけでなく、浅草お茶の間寄席はあるし、演芸図鑑も。それからBSでもかなりやっている。

脱線した。高座に戻ります。
この間高座で「おかま」って喋ってお客さんに叱られましたと鳳月さん。
私の父がおかまなんです。
え、おかまなのにお子さんいらっしゃるんですか?
女の好きなおかまなんです。

それから、問答の小噺。最後「権助」でオチになるので、本編と軽くつながる。
問答の噺なんて、蒟蒻問答しかない。
うーん、私、あんまり好きな噺じゃない。
なんで好きじゃないのかを、あまり自分で把握していないので、この機会に考えてみる。
蒟蒻問答のストーリー。

  1. 八五郎が江戸から逃げてきて、安中の蒟蒻屋のアニイに身を寄せる
  2. 暇だったら坊主にならないか。偽坊主誕生。
  3. 八五郎、坊主になって生臭ざんまい。弔いがなくて嘆いている。
  4. 問答の坊主がやってくる
  5. こうなったら逃げようと、本堂の財宝をバッタに売ろうとする
  6. 蒟蒻屋のアニイが見つけて、なにしてる。俺に任せろ。
  7. 無言の行で、なぜか勝つ

だいたいいつも、5あたりで、なんだか間延びする感覚を持つのだ。大ネタならではの落とし穴。
偽坊主のインチキ振りはすでに描かれているのだ。世話になってるアニイに相談せず逃げる相談をして、再度テキトーぶりをアピールする必要があるのかね。
4と6とをつなげられないかな? 逃げ出す相談の前にアニイが出てくると話が早い。
あと冒頭も、3から始めてもいいんじゃないか? むしろ、そうやらない人がいるのが不思議なぐらい。

いろいろ不満のある噺だが、別に鳳月さんが展開上の工夫を加えていたわけではない。
なのだが、高座の力強い鳳月さん、見事に蒟蒻問答を捕まえて、モノにしていたので驚いた。本当にネタおろし?
鳳月さんの、ワルの側面が前面に出ていた。ああ、この八五郎だったら、これぐらいするねよという。
なので、常識をモットーとする客の感性に、偽坊主の行動が変なふうに刺さってこない。
似合う噺があったものだ。

そして、展開は割とスピーディ。
前述の、もたつきそうな場面もしっかり入っているのだけど、でも早い。早くてしっかり。
これは、兄弟子の鳳志師から来ているワザではないだろうか。

最後の手振り身振りの問答も、裂帛の気合い。
蒟蒻屋のアニイの気合によって、見事問答坊主をねじ伏せた。

久々の鳳月さん、気合いにしびれました。
「たがや」は聴いたけど、「岸柳島」もやらないかな。
たがやは、もともとそれほど好きでない噺を楽しく聴かせてもらった。今回の蒟蒻問答と同じである。

鳳月さんに向いた、気合いの噺ってなかったか。
意外なところで「天災」なんてどうか。
普通入らないけど、入船亭扇辰師のものには、紅羅坊名丸先生の裂帛の気合いが入っていた。昔からあるスタイルらしい。

大ネタ2本、楽しい1時間でした。

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作成者: でっち定吉

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