新作落語せめ達磨 その3(林家きく麿「童謡づくり」)

落語協会は今年で市馬会長も勇退し、次がなんとなく正蔵師の雰囲気になってます。
でも今回のニュースで、また違った動きもあるんじゃないですかね、ときく麿師。
人間国宝が会長をすべきという価値観か。
それとも、協会のトップじゃない人が国宝になった以上、後付けでもふさわしい待遇をしようということか。
でっち定吉は、雲助師が会長をやりたがるとはちっとも思わないですけども。でもそうなっても別に構いません。

今日のネタおろしを最後にもう一度稽古したかったが、急な代演があって浅草と池袋に出たとのこと。
きく麿師、童謡の「あめふりくまさん」を聴いて感心する(本当は「あめふりくまのこ」です)。
実際に歌ってみた歌詞も適当。
あの歌は、シンプルな言葉から、情景が目に浮かぶでしょう。
落語の名人が、高座から消えて情景だけ残っている、そんな感じに映りますと。それをヒントに作りました。
歌が多い噺ですと聞いて、拍手する客。

名作「寝かしつけ」の方法論かなと思ったら、確かにそんな感じだった。
といって、二番煎じ感がないのはすごい。こりゃ鈴本のトリも取るわという充実ぶり。
そして、新作ならではの世界を攻めていながら、妙に古典落語っぽくもある。
きく麿師と駒治師は新作専門だけども、古典を切り捨てているわけではないといつも感じる。やらない古典落語を隠し持ったうえでの新作だなと。
小ゑん師だってそう。

ほぼ二人の男の会話だけでできた落語。
失業中の男と、コミュ障の男。
二人は交通調査のバイトで知り合った。コミュ障は失業男にアドバイスを求める。
「どうやったらお金持ちになれますか」
失業中の男に訊くな、働けと。あるいは宝くじを買え。
働くのはイヤなんですと妙に主張の強いコミュ障。
いろいろ相談しているうちに、童謡を作って一発当てようという話になる。
童謡は、思うままに作ればいいんだとコミュ障。相談してるくせになんでも自分で決める。

「外見的には成立しているのにシュールなやり取り」がきく麿師の真骨頂なんだと思う。
ズレズレなんじゃなくて、常にまっとうなラインに引き戻されながらの細かいズレがずっと続くのだ。
完全に脱線してしまわない、繊細なコントロールが働いていてこそのズレ。

「ぞうさん」などの唄は思うまま作ったものだろうとコミュ障。唄を作ったことはないが、できるはずだと。
失業中の男は、コミュ障よりもまっとうな世間に近い。「やぎさんゆうびん」のやぎさんの手紙にはなにが書いてあったんだろうねという疑問に行き当たるが、コミュ障はそんなことに目を向けてはいけないと。

この部分、月曜日に書いているのだが、土曜日に聴いた内容、かなり忘れちゃった。
でも実に楽しかったから、いい。
そもそもきく麿師の新作、結末が思い出せないもののほうが多数。それもすごいが。

仲入り休憩を挟んで、柳家花いち師。
私の期待するこの若手真打は、まだ寄席のトリがない。いずれ池袋下席のトリを取ると思ってるのだけども。
トークコーナーでは、今日はねっとりした落語をしますということだった。ねっとりというか、しっとりなんでしょう。

後半開演前に、アナウンス。
「間もなく後半開演です。一席終えてホッとしているきく麿です。この後は花いちの爆笑落語をお届けします」

ハードル上げられても、意外と動じない花いち師。
先日、ごはんつぶ君と打ち上げに行きました。
一緒の会に出て高座で、「ごはんつぶ君は25歳です」って紹介したら、お客さん大騒ぎでした。まだ顔も見てない状態で。
私は40歳です。
これだけ年が離れてると、後輩は気を遣います。
好きなもの頼みなよと声を掛けましたが、やはり気を遣います。では漬物をということでした。
もう漬物が似合う年に見えるんでしょうか。

先日いろは亭に出て、昇羊くんと近所のおそば屋さんに向かったんですね。
そうしたら昇羊くんが歩いている途中で、「あ、アニさんすみません。ぼく電池が切れました。失礼します」と言って帰ってしまいました。
そんな、歩き出したところで言わないでよ。人の電池ってどうやって交換するんだろう。
仕方ないので、昇市くんと二人でそば屋に行きました。
よく考えたら、ぼくは若手の頃先輩の誘いをよく断ってましたね。だから今ブーメランなんです。

マクラとはあまり関係なく、しっとりした噺に入る。
花いち師の新作の中でも、かなり方法論の異なる噺だった。
実際にしっとりしているのだが、実に楽しい。

続きます。

 

作成者: でっち定吉

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