亀戸梅屋敷寄席10(上・三遊亭鳳志「庖丁」)

まん坊 / 堀の内
鯛好  / 鳳笑点(漫談)
鳳志  / 庖丁
(仲入り)
萬橘  / 道灌
好楽  / 三年目

6月3日(月)は、年に一度の寄席の日で、寄席は半額。
国立演芸場は3割引。鈴本は今年から割引やめて、お土産付き。
安い寄席大好きの私、春風亭一朝師の新宿か、むかし家今松師の国立か、どちらかに行こうかと思ったのだが、結局止めてしまった。
前の週の芸協らくごまつりが実に楽しく、お腹いっぱい気味だったためもある。
その代わり、ちゃんと仕事をしてから6日木曜の亀戸へ。
円楽党の寄席。こちらはいつも千円。
時間は2時間で短いが、それがいいというところもあるのだ。疲れないし。
この日の主任は三遊亭好楽師。
クイツキが萬橘師。仲入り前が、前回初めて聴いて注目度急上昇の鳳志師。
なかなかの顔付け。

開演直前に行ったが、さすが人気者、好楽師の席だけあって満員。
開口一番、萬橘師の弟子、まん坊さんは、粗忽小噺。
「ばか。お前のおやじだ」でやたらウケる。そういうお客。
初心者に近いのだろうが、好楽師のお客さんは結構いいお客が多い気がしている。品もあるし。

それから堀の内。お祖師さまに出かける当日の朝からスタート。
落語協会でも芸協でも、前座がやるのを聴いたことはない。それでも、どことなく前座噺らしさが漂うので、きっとどこかで前座が掛けていそうな気がしていた。
亀戸で、初めて前座の堀の内を聴く。前座がやっていけない噺ではないと思うのだけどな。
うちに帰ってから湯に行くくだりのない、つまり金ちゃんが出てこない堀の内。
湯のくだりは面白いけど、極度粗忽の八っつぁん、子供がいないほうがしっくりくる気もする。
まん坊さん、3度目だがこの一席がいちばんよかった。
どんどん口が回るようになってきている。

次が三遊亭鯛好さん。主任の好楽師の弟子。
40歳で入門し、はや50歳になったそうで。
なんと漫談だけで降りてしまった。
結構ウケてたし、漫談で別に構わないのだけど、亀戸でも両国でも、漫談だけの一席というのは聴いたことがない。
そういえば円楽党には、漫談メインの人っていないな。鯛好さんがそういう路線を目指すわけじゃないと思うけど。
兄弟子兼好師に、両国の砂被りに連れていってもらったエピソードから。
そのマクラを終えて客に、「あ、相撲噺には入らないですよ。持ってないですから」。
続けて、先輩の変人、鳳笑さんのエピソード。兄弟子と言っていたが、兄弟子ではない。
いつも眼を剥いている鳳笑さん、話してはいけないことを、つい話してしまう人なんだそうで。
松之丞さんのラジオにシークレットゲストで呼んでもらった鯛好さんだが、オンエアまで喋ったらいけないのに、ツイッターで発表してしまう鳳笑さん。
鯛好さん、この日のように客とピントが合うとすごく楽しい人だ。

三遊亭鳳志「庖丁」

続いて、前回の亀戸で着目した三遊亭鳳志師。鯛好さんの漫談に出てきた鳳笑さんの兄弟子でもある。
前回聴いた「試し酒」はとてもよかったのだが、なんだか楽屋がガヤガヤしていて気が削がれ、ややがっかりであった。
もちろん演者のせいではない。再度ちゃんと聴きたい師匠だなと思っていたのである。
高座に上がり、「まさか噺やらないで終わるとは」と鯛好さんをチクリ、というか崩れ落ちる。
マクラを聴いて噺を聴いて、自分はなにを掛けようか考えるものだが、今思いつかないんだって。

とはいえ、やる噺は早々に決まっていたようで、マクラをすぐに切り上げ、酒のマクラからトリネタの「庖丁」に入る。
大ネタだ。なるほど、マクラを振っている暇はない。
圓生から来ている、三遊亭ならではの演目である。

いやいや、鳳志師、本格派のすばらしい芸。
徐々に徐々に酔っぱらっていくとともに、意図的にセクハラを仕掛けなければいけないという難しい噺。歌も入る。
あまり聴けない大ネタだが、見事なスタンダードナンバー。

速記で読むならこの噺、これほどリアリティに欠けたストーリーもない。
女房を追い出すために、久々に偶然会った弟分を使って狂言を仕掛けようという、設定のあり得なさ。
おまけに、先ほどまでセクハラを仕掛けていた男と一緒になって、旦那を追い出すことにするという、さらなるあり得なさ。
ストーリーは陳腐なのだが、部分部分を丁寧に描くことにより、この上ない落語リアリティを放つ。
鳳志師の、嘘を真実として語る能力の高さのおかげである。
ご都合主義この上ない噺の中で、最終的には大団円。スカッとする不思議な噺。

円楽党、次の萬橘師みたいな面白落語から、鳳志師のような超本格派まで実にバラエティに富んでいる。
寄席は落語協会しか聴かないなんて人も、いつまでも偏見を持ってないでぜひ一度亀戸、両国に出かけていただきたいものである。

続きます。

作成者: でっち定吉

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