プーク新作落語寄席 その3(古今亭今輔「二人の魔王」)

 

古今亭今輔「二人の魔王」

次がこの日唯一の芸協、古今亭今輔師。
4日間通しても、芸協は3人だけ(あとは鯉朝、枝太郎の両師)である。
プークは基本、落語協会メンバーに芸協も混ぜるという顔付けらしい。最近の芸協の充実ぶりを考えると、ちょっと偏ってるなとも思う。

今輔師はいつもの袴姿。
ほぼ99%新作落語ですが、地方に行ったときだけこっそり古典をやってます。東京ではやりません。

二ツ目の爆笑落語が続いたからであろう。ちょっと違うモードの落語へ。
マクラから混然一体となって始まる本編は、歴史もの。それも地噺だ。
長い噺を寄席向けに縮めたので、整合性が付かないところもあるかと思いますが、そういう事情ですのでと。

まず信長を登場させる。
比叡山焼き討ち等残虐行為で知られる信長だが、やったことにはすべて当時の事情からして理由はあった。
その100年前に、似たような歴史上の人物がいたのだという前フリ。
室町幕府6代将軍、足利義教である。
5代将軍義量が早世したため、後継者問題が起こる。
義量の父で、実権を握っていた4代将軍義持は、後継者を神の意志にゆだねることとする。
くじ引きによって選ばれたのが義教。二ツ目がいきなり大名跡を襲名するようなもの。
義教は武断政治により、反対派を粛清していく。延暦寺も抑え込む。
守護大名たちの領地を取り上げるのもいとわない。

といっても落語なので、義教の強権はマンガとして描かれる。
こいつ嫌いだから遠方へ。こいつとこいつくっついてそうだから離す。
ほりのぶゆきのマンガみたい。

あるときやってくる予言の僧。名をノストラ坊という。
ノストラ坊は、予言の書を手に、義教に未来を伝える。
義教は、イニシャルM.Aの男に殺されるだろう。
なんだイニシャルって。室町時代だぞとツッコむのは、義教本人。
ノストラ坊こと一休宗純は、自分の命が義教に握られている状況で、「ポクポクポク、チーン」と頓智で切り抜ける。

イニシャルM.Aは、後に義教を斃す赤松満祐。
義教の命運は、100年後現れた織田信長の一生と、見事にシンクロするのであった。信長を斃したのもM.A。

面白かったし、爆笑新作が続く中での非常にいい仕事。
だが、この噺には明らかな欠点が。足利義教という人について知る人が少ないこと。よほどの歴史好きならいざ知らず。
私も、テレビで一度ぐらいは触れたかな。それにしたって人気のない時代の人気のない人物だから、そうそう着目されない。
ただ、後でもってこの時代を振り返ると実に面白い。私に知的興奮を与えてくれて、ありがとう今輔師。
演題の二人の魔王とは、もちろん義教と信長である。

それにしても歴史落語というのはいいジャンルだ。
今後芸協から、桂竹千代さんも古代史落語でもってプークに出てきやすいのではないか。

三遊亭天どん「折衷案」

仲入りは三遊亭天どん師。
仲入りの後3席でもいいと思うんですが、こういう番組で。
皆さんもうお疲れのことと思いますが、私が番組作ったわけじゃないので。
確かにもう、客は疲労がピークであろう。

そして天どん師、疲れた客の前で結構スベッていたのであった。この日一番のスベリ。
いえ、面白かったんですよ。でも同時にスベッていた。
客席が引いてくると「引いてきたな」と実況するのが天どんイズム。あんまりいいイズムでもないけど。
まだ下ろしてから間もない噺みたい。

マクラでいつもの師匠の悪口と、そして小三治の悪口も。
小三治のこと、なんて言ってたかな。まあ、私も当ブログでよく書いてる「言行不一致」に関することだったと思う。
もっとも、こんなネタで笑ってるのは私ぐらいだ。そりゃそうだろう、「新作好きだから小三治が憎い」なんて関係性はない。
でも天どん師、言いたいことはとりあえず言うのだ。

常連客がふたり、中華にやってくる。二人は夫婦だが、いつもは別々にやってくるので店主も二人で来たところを見るのは初めて。
夫婦は、「四川麻婆豆腐」か「本格麻婆豆腐」か、どちらを注文するかで揉めに揉める。
あたしは辛い四川が食べたいのよ。俺は辛いのは嫌いだ。辛いからおいしいんじゃない。
喧嘩はいろんな方面に広がり、店の悪口まで言い出すので店主が仲裁に入る。
店主が「半分ずつ出したらいかがでしょう」と折衷案を出すと、「ナイスセッチュー」。

喧嘩の中身の折衷案がテーマの、ヘンな噺。
次に青椒肉絲か八宝菜かでまた喧嘩する二人。

疲れた客が引いていくのをリアルに体感するとともに、いろんなことを考えた。
先に上がった弟子のごはんつぶさんの落語、唯一無二の方面を攻めてるなと思ったが、実は師匠天どんの影響が非常に大きなことを改めて思い知る。
師匠も弟子も、ストーリーでなくシチュエーションを攻めている。

実に楽しい構造を持ちつつ、残念なことに「中華料理でどちらを頼むか、具材にこだわって意見が割れる」夫婦というものは世にいない。
世にいないとなると、あるあるネタにはならないのだった。
でも力ワザの天どん師、共感を得られないまま寄席でウケるネタに仕上げてきそうだから、侮ってはなりません。

続きます。

 

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作成者: でっち定吉

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