プーク新作落語寄席 その2(三遊亭ぐんま「土底の英雄」)

三遊亭ごはんつぶ「スクキャット」

続いて目当てのひとり、三遊亭ごはんつぶさん。
先日は古典落語の「饅頭こわい」を聴いたが、古典も非常によかった。
頭をちょんまげにしている。

このプークですが、控室がびっくりするほど狭いですとのこと。
舞台は地下にあるが、さらに下に楽屋があるらしい。
そこから、本当に細いらせん階段を上がってここに出るんです。

本編に入り、マイクを持ってインタビューするレポーター。
そして、ヘンな仕草を始めるごはんつぶさん。
猫の描写らしい。猫が自分の頭を両手で支え、立ち上がってやおらスクワットを始める。
猫の名はクロ。スクワットをする猫にテレビの取材がやってくる。動画の広告収入も上がりご機嫌な飼い主。
しかし、近所の人が抗議にやって来る。
うちののりまきを勝手にテレビに出している人がいる。どういうことだと。
それは失礼しました。実は飼い主と言っても、便宜上なんです。この子は野良猫かと思ってました。ただよくうちにやってくるので餌をやってます。
抗議に来た男もトーンダウン。そうでしたか。実は私も本当の飼い主というより、似たようなものなのです。勝手にやってくるので餌をやってるだけで。
クロのタイムスケジュールは2時間置きで、二つの家に1日2回、2時間ずつ計4回滞在していることが判明。
猫の二重生活なのかと。
二人は顔を見合わせる。おや、もしかするともう1軒、しかも本当の飼い主がいるのではないか。

さしたる展開の盛り上がりなくして、たまらなく面白い一席。
前座のときに聴いた新作と同じ、シチュエーション重視の方法論だ。この人以外には考えつかない方面ではないか。
猫のスクワット、猫の二重生活というアイディアを膨らませ、客を引き付けてしまう。

衝撃のラストが待っていたが、別にそこは肝ではないなと。
楽しいのはとにかく状況。いつものようにやってきて、二人の飼い主が話をしているところに出くわし、驚愕するクロ。その様子を描写する。
サゲ付近、再度のレポーター登場で噛んでしまうごはんつぶさん。
「もうすぐサゲなのに」と嘆きながらちゃんとまとめる。

しかし、「スクキャット」ってこれだけ耳にしても想像の膨らまない演題だ。
じゃ、なんて付ければいいだろう。「猫のローテ」なんてどうでしょうか。

三遊亭ぐんま「土底の英雄(どていのヒーロー)」

円丈一門が続く。今度は三遊亭ぐんまさん。弟弟子とは違い、新作落語家っぽい顔。
2022年の池袋新作まつり以来1年振りだ。
あのときも弾けてたが、さらに前、2020年の前座時代、古典落語(たぬき)でいたく感心したものだ。
今日も扇子6本使って大活躍。

マクラを振らずにいきなり本編に入るので驚いた。
新作でいきなり本編に入った人は見たことがないが、この会ならあったまってるからマクラ不要なのか。
穴を掘る作業員とその親方らしい。
一緒に家に帰って、夕食。なにやら麺類を食べているが蕎麦ではなさそう。
群馬名物のパスタかしらなんて。違ったけど。
二人はモグラ。
親方はアズマモグラの棟梁。
人間が好き勝手して、地上をコンクリで固めてしまう中、モグラたちは一生懸命穴を掘って土を活性化させるのだ。
親方の娘は、田舎っぽい弟子と交際している。
弟子は穴を掘るのがなかなか上達しないのだが、親方はじっくり育てている。

そこへ全国統一を目論むコウベモグラたちが、西から箱根の山を潜って攻めてくる。
大陸からやってきたコウベモグラたちは体がでかく、アズマモグラでは太刀打ちできない。
箱根で止まっていたはずなのに、環境変化で土が柔らかくなっていたのを機についにやってきたのだ。
しかしその進出のおかげで箱根の山が動き出した。このままだと噴火するかもしれない。
棟梁は地球を救うために、芦ノ湖の水を地中に流して鎮静化させようとする。

なるべくネタバレを避けて紹介してみました。
どうだこのスペクタクル巨編。
ベタな感動ストーリーを、動物を使うことで活かしきる。
ストーリーからキャラ設定から、まさにこれは白鳥師の系譜。
白鳥師が作っていそうなストーリーを弟子がこしらえ、しかし二番煎じ感のないところがすごい。

古典落語も徹底して下敷きに使っている。初天神と鰻屋。
親方の娘と付き合う弟子は、言葉が権助。

マクラを振らない分、ちょいちょい劇中で演者が解説を(ギャグ入りで)入れる。
モグラの種類であるとか、モグラの死亡原因であるとか。
これもまた、見事な白鳥イズムにして二番煎じ感がない。
ちなみに師匠もやらない、「高座の後ろに隠れる」というワザまで使う。

サゲっぽいセリフを言う。客を騙して手を叩かせる手法かと思ったが、プークの客は騙されない。
その後本当にサゲた後、使った6本の扇子をもったい着けて腰に差し、それから熱演で床に着いた汗を拭ってから、タメたっぷりにハケていった。

ぐんまさんが新作エリートであることは思い知った。
私はまた古典も聴いてみたいな。ごはんつぶさんみたいに日ごろやってるかどうかは知らないが。

続きます。

 

作成者: でっち定吉

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