VIVANTの面白さと、ちょっと落語

VIVANT面白いですね。家族揃ってハマっています。
私が落語とキャッシュレス(本業)のネタを常に探しているGoogleポータルも、VIVANT情報だらけだ。
カネ掛けすぎるだけ掛けたわりには視聴率がイマイチだなんて揶揄も見られるが、なに、何年掛かったにしても、費用は必ず回収して余りある、それだけの大作と思いますよ。
「あー、カネ掛けてるなあ」と感心しながら観るなんて、ずいぶん久々の経験である。

ジェットコースター的展開に驚きながら、またひとつ感心していることがある。
これだけ風呂敷を広げるだけ広げた作品、評価の問題とは別に、どこかに辻褄の合わない部分が生まれるとしたものだ。
この伏線、回収してないんじゃないとか。
でも、そんなエンドの予感は現在、カケラも感じない。
最後は、伏線を全部回収するのではなく(そんなことしたら、むしろ白ける可能性も)、回収できない伏線をしっかり描写して終わると思う。
続編の含みにもなるが、そのためだけでもない。
実際、続編やスピンオフを作る際は、回収されなかった伏線をつつき、当初まったく想定していなかった展開に再利用する。そういうものでは。

物語がそこそこ複雑だが、それゆえに脱落したという人は少ないんじゃないかな。
現代、まとめが盛んで、重要なシーンを見逃していても誰かがフォローしてくれるし。

ここ(第5話)に来て、スターウォーズ的父子の物語になってきたようだが、スターウォーズとの共通点はすでに感じるところだ。
場面場面のアクションでしっかり楽しませていること。
エンターテインメントの求められるシーンは、しっかり描写を心掛ける。そして、たっぷり楽しませた後で軽い違和感をしっかりと残しておく。
軽い違和感は、できればその回のラストまでには解決しておく。ただそれによってさらに生じる大きな違和感は、やはりしっかり描いて次に持ち越し。

まあ、これもすべて役者がいいからできていることではある。
堺雅人は、日曜劇場の次の番組、日曜日の初耳学に続けて出演していた。
噺家さんも、観ていたらきっといろいろ啓発を受けたに違いない。
堺雅人は、アドリブを入れたりする方法論ではないという。
ドラマに携わる多くの人たちのいちばん最後に自分がいるのだから、自分のエゴで壊してはいけないのだと。

これはアドリブ入れるのが正解か不正解かではあるまい。
堺雅人の場合は、期待される自分自身を、期待のまま出したいということなのだろう。
アドリブ多用の役者が、エゴが強すぎるとも言い切れない。そういう人も間違いなくいるだろうが。
落語の場合はちょっと違っていて、アドリブが自然と出てくるのはほぼ全面的に肯定される。
登場人物が動き出すというやつ。
噺家の場合は、プロデューサーも監督も演者も全部兼ねているから、それでいいわけだ。

堺雅人が長セリフを覚える際、カラオケボックスに入るという。
画面の前で俺もそうだと同意していた噺家多数(想像)。
噺家みたいに、とは言わなかったが、ブツブツ稽古していても大きな声を出すシーンでセリフが飛んでしまうことがあるという。
だから一度、しっかり大声は出しておかないとならない。
これ、噺家でも同じ失敗をした人、いるのでは。
ただ、落語では急には啖呵切らないからそれはないか。

これは堺雅人が語っていたわけではない。
役者の場合、セリフは出した後いかに忘れられるかも重要なようである。
次を入れなきゃならない。

堺雅人が、「屠る」(羊などを、ほふる)、「傾いでる」(建物が、かしいでる)などちょっと雅な言葉をスラスラ語ることに、国語の専門家である林先生がいたく感心していた。
私も感心したのだが、これをもって彼をインテリだとあがめるのはちょっと違うなとも思った。
それより、「モンゴル現地の臭い肉」と、「磯臭い日本の魚貝」とをパラレルに、比較文化論として自分の言葉で語り切っていたことのほうが、ずっとインテリの資質。

VIVANTの初回でもって、一緒に観てた家内が言う。
堺雅人、阿部寛に食われてるじゃない。阿部ちゃんが主役みたいだけど。
私はたしなめた。こうやってしばらくやり込められておいて、後で徐々に主役らしさを出してくるんだよ。そのほうが効果が高いんだ。
これについては、私が正解だったな。

バカっぽい主人公が超人というのは、神話以来普遍の伝統。
堺雅人はドラマでも、登場人物皆に侮られている。まあ、今後は正体も明らかになったし、もう使えないけれど。
落語の場合、こういう展開はないな。
落語の場合、与太郎だったら最後まで与太郎だ。
侮られている人が知恵とスキルを駆使して逆襲するのが田能久だが、これもむかし話だから落語っぽくはない。
昔の時代劇「三匹が斬る!」で、小朝師演ずる「たこ」が実は殿さまだったみたいな落語はないな。
あ、そういえば三匹のうちの一匹は役所広司だった。

落語についてちょっと申しわけ程度に語っただけで、ほぼドラマで1本作ってしまいました。

作成者: でっち定吉

落語好きのライターです。 ご連絡の際は、ツイッターからメッセージをお願いいたします。 https://twitter.com/detchi_sada 落語関係の仕事もお受けします。

2件のコメント

  1. 面白いドラマですよね。お金をかけて撮ってる分はキッチリ回収できるようにネット配信のスピンオフドラマやもしかしての映画化、さらに幾らかの足しにしかならないでしょうがグッズ販売。

    ちなみにお盆帰省のお土産に「別班饅頭」もらいましたw
    結構、嬉しいww

    1. いらっしゃいませ。
      私も落語界の平和を守るため、身分を隠して戦おうと思います。
      ヴィヴァンのヴァンは香盤のヴァン。

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