神田連雀亭ワンコイン寄席21(上・桂竹千代「宮戸川」)

竹千代 / 宮戸川
小太郎 / 堀の内
つる子 / 七段目

前日亀戸に行って大いに楽しんだばかりだが、朝からボーッとして仕事が手につかない。
仕方ない。予定外の神田連雀亭に出向きます。
林家つる子さんがトリ。年末に池袋で聴いた「豆腐屋ジョニー」が衝撃的で、その後ずっとこの人聴きたいと思っていた。
芸協らくごまつりのモノマネで散々楽しませてくれた桂竹千代さんもいて、まず損はしないだろう。

開演ギリギリに入場。テケツにいるのはつる子さん。
なんと超満員。外は雨なのに。
竹千代、小太郎の両名も達者な人だが、どう考えても、二人の動員力ではない。
美人のつる子さん目当てのお父さんたちか・・・
年は取っても浮気はやまぬ。やまぬはずだよ先がないと来たもんだ。このスケベども。あ、俺もか。

連雀亭、客席横に二ツ目の噺家の札が、所属団体ごとに並んでいる。
例の前座降格騒動に巻き込まれた立川流の噺家の名前は、そのまま。

ちょっと異様な雰囲気で始まったワンコイン寄席。
前説の柳家小太郎さんは、「いやー凄い入りですね。男性ばっかりですね。皆さんつる子を目当てに来られたのだと思いますが、その前の二人でウケない場合、つる子は出ません。受付だけです」。

桂竹千代「宮戸川」

トップバッターはこわもての桂竹千代さん。
前回が少々微妙だったのだが、とにかくこの人のマクラは鉄板で面白い。
今日はつる子さんのおかげで大盛況ですが、ちゃんとギャラは3分の1で分けるのでこの席にしてもらってラッキーですとのこと。
鼻血が止まらなくなって耳鼻科に駆け込んだ話。血圧が急に高くなったせいだろうと。
鼻粘膜を焼いてもらう痛い話だが、医者も看護師も、落語の登場人物みたいな愉快な人たち。
看護師、竹千代さんの潰れた餃子耳を見て、「柔道やってたんですね」と。今、そういうシーンじゃないだろう。

そして宮戸川。つる子さん狙いの浮わついたお父さんたちに合わせたのだろうか。
でも、私もこの噺大好き。
好きな噺を、竹千代さんが見事に演じてくれてとても嬉しい。

いにしえから続くクスグリと、自分で入れるものとを同列に扱う。
半ちゃんに逃げられても足の速いお花だが、先回りしているというのは初めて聴いた。
もっとも、オリジナルクスグリでウケてやれなんて一席ではない、すべて、古典落語らしい世界の構築に貢献するギャグばかり。
このお花は、結構最初から積極的なタイプ。半ちゃんをぐいぐい押してくる。

竹千代さんの、流れるような気持ちのいい宮戸川を聴き、この噺はつくづく人情噺だなと思った。
おかしいですか? でも、人情というもの、笑いの多少とは別の要素と思う。
男と女が、偶然を媒介にして結び合うというのは、まさに人情。
そして、若い頃を思い出す老夫婦にも人情が漂う。竹千代さん、若くして人情が語れるのだ。
そして、爆笑マクラを活かした見事なサゲ。

ちなみに以前も感じたのだが、古典落語なのに、どこかに師匠竹丸の語りを彷彿とさせる。
不思議だ。

柳家小太郎「堀の内」

続いて愛嬌溢れるフェイスの柳家小太郎さん。この人は、ここで聴くのは初めてだ。
ちょっとしつこい芸だなと最初は思っていたが、だんだんしつこさが癖になる。
いつものようにVサインから。数人の客が一緒にVサイン。
トリのつる子さん、今日は大ネタやるかもしれませんよとアオる。
芝浜かもしれませんよ、夏だけど。
落語ファンは、マクラを聴いたらただちに、イントロでその噺がわかりますよねと。
噺がわかったら、すぐメモ取る人もいますよね、で、安心して寝ちゃったりなんかして。

マクラでもって本題をメモする落語ファンというのは、白酒師や百栄師がネタにしている。
私は「ネタ帳ドレミファドン」と呼んでいる。
まあ、やめたがいい。実にみっともないから。
それから小太郎さん、つる子さんが「お前さん起きとくれ」に入ったら芝浜ですからと。

ここから本編に入って、なんと「お前さん起きとくれ」。客、爆笑。
「なんだ? 芝浜かい」「堀の内だよ」
なんというアクロバティックな技。

続きます。

作成者: でっち定吉

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