カメイドクロック落語会5(下・三遊亭好二郎「徂徠豆腐」またしてもマイク切れるの巻)

第一部開始直後、パーテーションがないため、舞台の上手袖からふらっと入り込んでくる男がいる。
立ち止まって会場を見まわし、またフラッと出ていった。好二郎さんマクラを中断し、いらっしゃいませ、どうぞ席へと声を掛けてるのだが、スマートイヤホン入れてて聞いてやしない。
落語の掛かる場所というもの、演者と客席が一体の空間を作っている。いつも聴いてる人には当たり前。
ところが関係ない人にとっては、「奥に向かってしゃべっている人」と「こっちを向いてる多くの人」との別個の組み合わせでしかない。だから、全然フラッと入ってこれるし、自分が邪魔な存在だとも思っていない。
その構図がなんだか面白かった。
KITTEグランシェ落語会でもって、喋っている昔昔亭喜太郎さんの横で、物販ブースで話をしている人もいた(鬱陶しいが非難できる性質ではない)。
これも今さらだが腑に落ちる。関係ない人にとっては、ただのぽっかり空いた空間に過ぎないのだった。

そういえば先日、スマートイヤホン入れてるアンちゃんが、救急車が突っ込んでくる青信号を渡り始めた場面に遭遇した。
聴覚は確保したほうがいいですよ。

4階フードコートで食事し、館向かいのベローチェで昨日のブログをほぼ書き終えると、ちょうど午後1時で、二部の開始。

二部はお客が増えて大盛況。
先日仕事で栃木の佐野に行きまして、と好二郎さん。
佐野で切符を失くした話と佐野ラーメン。
このマクラはイマイチ。いや、栃木だから今市。
栃木は東京から見たらなにもないところですが、大分の私からすると都会です。
師匠が大分に来てくださったとき、高速から見える小さな集落を指さして、「あんなところに人が住んでるんだね」と言うのですが、そこが私の実家です。

東京落語は、東京に出てこないとやれません。
私は福岡にいた頃、落語会に来た師匠・兼好に3回弟子入り志願しました。でも断られました。そういうものです。
これはもう、上京しないとダメだなと。
仕事をやめて、上京してきました。まず師匠の家を突き止めないとなりません。
これはYou Tubeの動画で言ってましたので、足立区の町名まではわかりました。
動画を師匠のご自宅で録ってたんですね。窓の外の景色であたりをつけて、突き止めました。ほぼストーカーです。
改めて、東京に越してきましたと言って師匠に挨拶しにいったら、採ってくれました。
断ったら、自宅も割れてるしなにされるかわからないと思ったんでしょう。

弟子入りの話は面白いね。
福岡にいた大分出身の青年が、なにかに突き動かされて東京までやってくる。さすがにそこまでしたら、弟子に迎えないわけにはいかない。
ちなみに幼少から落語を聴いてるうちの息子に言わせると、「大人になってから落語に出逢った人のほうが、衝動的に動きやすいよね」だって。そうかもしれない。
「小さいころから落語聴いてる俺は、たぶんプロにはならないと思う」とも。
そうなんだよな。三三師みたいな大きな例外もいるけれど。

江戸時代の身分制度を振って本編は、田舎から出てきた荻生徂徠の側から語られる、徂徠豆腐。
まだ暑いけど冬の噺。ただ、寒さの描写は特になかった。
豆腐屋・上総屋からでなく、冒頭は徂徠の側から描かれる徂徠豆腐は初めて聴く。
円楽党で聴いたのも、竜楽師からだけだ。こんな型だったかどうか。
ただ、忠臣蔵とリンクしている(このため、出世した徂徠が上総屋の前に姿を現すのに時間が掛かる)のは、竜楽師から聴いたのと同じ。

いつもの感想だが、好二郎さんはさむらいがいい。固い人を固く描くと、味があっていいのだ。
空腹の荻生徂徠、毎日豆腐を一丁いただいて食いつなぐが、ついに「細かい持ち合わせがない」の言い訳ができなくなる。
私の知ってる徂徠豆腐と違って、上総屋が先生に尽くしてくれる直接の理由は、「しがない豆腐屋ふぜいに頭を下げてくれた」こと。
もちろん、学問に挑む先生に男惚れもしたのだろう。

上総屋が寝込んでしまい、先生の行方が知れなくなってからはスピーディ。
もらい火で焼け出された上総屋に、10両が届けられる。
このあたり、いくらでも深掘りできるところだが、先を急ぐ。

いよいよ肝心のシーンで、マイクが切れる。
交換はスピーディだったが、そういうところ褒めても仕方ない。
「前もあったんですよ」と好二郎さん。前のマイク切れはレポートした。

しかし遊んでいると本編がぐずぐずになっちゃうのでちゃんと復旧して、人情噺としてちゃんと決着する。
徂徠豆腐の行列は、芝から亀戸まで伸びたと申します。

終わってから好二郎さん、今度は、前の席に座る方は皆さんマイク持参でお願いしましょうかだって。

結構人が集まってるイベントなんのだから、スタッフもちゃんとして欲しいものだ。
ちなみに前回のスタッフは、公演中ずっとスマホ見てたが、机に水平にかざしていた。それが免罪符かのように。
今回のスタッフは、もう堂々とスマホ見てた。
スマホとマナーについて語る以前の話。あんたたち仕事中なのに露骨にサボってるよね。
客席をずっとチェックするとかいろいろ仕事はあるんじゃないですか。

ブログで苦言を呈すると改善されるかというと、だいたい次回ヘンな形でフィードバックされるんだ。
スタッフをパーテーションの中に隠すとか、付け焼刃。
多くのスタッフは落語なんて興味ないかもしれないが、オトナとして一度ちゃんと聴いてみる気はないのかね。
定番学校寄席マクラを思い出す。不規則発言の児童に先生が、「我慢して聞きなさい」ってやつ。

まあ、また来るけど。
タダだから、本気で怒ってるわけじゃないのだ。
次回は恐らくだが、弟弟子の兼矢さん。二ツ目になってからは聴いてないので楽しみだ。

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作成者: でっち定吉

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