国立演芸場24 その1(桂鷹治「目黒のさんま」)

最近妙に仕事がはかどる。午前中にやっつけたので、落語に行きたくなる。
前日にカメクロの無料落語会に行ったばかりだが。
1週間ぐらい先まで、改めてかわら版を当たってみる。面白そうな会もあるにはあるが、パンチに欠ける印象も。
ならば寄席。
国立はいよいよ定席がラスト。9月は芸協、落協とも日替わり番組でご機嫌を伺っている。
当日木曜の顔付け見たら、トリが春風亭昇太師。
行ってみよう。幸い、空席あり。
ブログを2016年に始めてから、昇太師は一度も聴いていない。
会長なのにあんまり寄席にも出ない印象。出ても主任。
国立出ることなんて、正月の名人会と真打の披露目ぐらいじゃない?

国立では私はたびたび、3割引きの仲入り後を狙ってくるのだが、この顔付けなら開演時から入ってもいい。
最初から入れば東京かわら版で2,200円から200円割り引いてくれる。仲入り後入場との差額は、実はわずか460円。
仲入り後から入る際はつまり、前半に460円の価値を見出していないということなのだった。
この芝居は精鋭しか出ていない。

ただ、鯉八が問題。
売れっ子なのは確かだ。お盆はついに、師匠から池袋の主任を譲り受けた。大変な出世だ。
ああ、あの会(ばばん場)に行きさえしなければなあ。たぶんキャンセル待ちで席が取れてしまった不運。
あの席にいさえしなければ、私は間違いなくずっと鯉八のファンだった。その結果、末広亭や池袋の主任の芝居に行ってた可能性も非常に高い。
だいぶイヤになってしまいはしたが、よく考えれば鯉八はA太郎のように「客を拒絶」してみせたわけではない。大谷翔平を(さしてウケもせず)disっただけだ。
まあ聴いてみるか。
鯉八を避けるがゆえに、鯉昇師や鷹治さんを聴けないとなると、それは違うと思う。

新聞記事 伸ぴん
目黒のさんま 鷹治
若さしか取り柄がないくせに 鯉八
ぴろき
餃子問答 鯉昇
(仲入り)
出世の馬揃え
花瓶 米福
東京ボーイズ
不動坊 昇太

 

国立は、早めに出てもだいたい遅刻する。
かわら版出して当日券買ってたら、前座はもう上がっている。
やたら上手い前座だ。誰だろう、と思ったら6日前に小平で聴いたばかりの桂伸ぴんさんだ。
11日からは二ツ目で、銀治。
流れるようなオーバーアクションが持ち味。
新聞記事でもって、アニイに先に「アゲられたんだろ」を言われ、ここで大きな笑い声。
ウケる理由はよくわかる。ウソ話を披露したいが間違える、八っつぁんの了見がよく出てるから。
八っつぁん別に、面白い言い間違いで落語の客を笑わせたいわけじゃない。青菜やつると同じく、一生懸命なのだ。
その気持ちに客がシンクロしてくる。
新聞記事、前座もやるけども難しい噺だと思う。人の生き死にの話でウケを取るという、無理な出発点から始まるからだ。
落語を素直にできない人が、考えすぎて迷走していくのだろう。そういう意味で噺家を切り分ける、怖い噺。

前座としては破格のデキだが、二ツ目になると同じスタイルではウケなくなる。
みんな工夫を始めるからだ。
でもたぶん、伸ぴん改め銀治さんは大丈夫だと思う。なにか隠し持ってそう。

続いて目当ての桂鷹治さん。
成金に比べてもうひとつパッとしない芸協カデンツァではあるが、好きな人はいる。
鷹治さんは、香盤が下のほうにも関わらず、このユニットの中心メンバーになりつつあるようだ。
芸協には珍しめの、本格古典派。師匠とも違うスタイル。
ただ、最初からこの路線に進みたかったのではなくて、いろいろやってみてこのジャンルがハマったということではないか、そう想像する。

桂鷹治と申します。決して悪気があって出てきたわけではございません。
今の落語を聴いておわかりのように、落語というものは実にバカバカしいものでして。
登場人物はみなバカです。そして落語を喋ってる私どもも、楽屋に帰るとバカばっかりです。
それを聴いてるお客様も…(アッという顔)失礼しました。

イヤミを言い切らないところが好き。
士農工商を振って、下肥掛けてまいれと、桜鯛。
これを振れば、目黒のさんま。時季ですねえ。
今週は目黒のさんま祭りもある。タダの落語会もあるが、しんどいから行かない。

目黒のさんまは、季節ものにしては結構聴き飽きた感がある。
演者のほうもいろいろ考えるのだろうけど、ギャグを入れてもだいたい不発に終わるのだ。今どき大竹しのぶなんて出してる場合じゃない。
だが鷹治さん、ほぼギャグなくして進める。これが新鮮で、素晴らしい。
ライトな落語ファンは、有名な古典落語のそれも基本形が聴け、嬉しかったと思いますよ。

先日、しばらく寝かせておいてから出した鷹治さんの「青菜」を激賞した。これもまた、スタンダード演目にギャグを入れない方法論。
目黒のさんまも同じ。古典落語に宿った面白さをしっかり描き切る。
セリフで進む落語の場合、登場人物の肚を描くことでこれが可能(なんだろう)。
でも、地噺の目黒のさんまの場合、どこを描いたらこういう楽しい落語になるのだろう。
コツは「決してやりすぎない」だとは思うのだけど。

例として、さんまを10匹食いつくした殿さま、「骨はそのほうらに下げ遣わす」「ははあ、ありがたき幸せ」。
この後、ぐずぐず「別にありがたくもなんともない」など補足説明を入れないあたりか。
いや、入れてたかもしれないけど、とにかく軽いのだ。

すばらしい一席。

続きます。

 
 

作成者: でっち定吉

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2件のコメント

  1. いつも楽しく拝見してます。次回、鯉八師の噺をどう斬るか楽しみ!
    鷹治さんはカデンツァの世話役?なのかな。
    カデンツァが今回のミュージックテイトの破産にクラウドファンディング絡みで出したお金の件でもいろいろご苦労をされてるらしく?
    宮治師の披露目の時も番頭で頑張ってたようなので、ある意味若手の中で頼りになる兄貴分なんですかね。小痴楽師とは違う意味で。

    1. いらっしゃいませ。
      鷹治さんはカデンツァの活動もいいですが、もうちょっとスケールでかそうです。
      受賞よりも、寄席のクイツキに繰り返し抜擢されそうなイメージです。
      鯉八師匠については、明日改めて。

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