国立演芸場24 その2(瀧川鯉八「若さしか取り柄がないくせに」)

真打のトップは瀧川鯉八師。
出囃子は「悲しくてやりきれない」。
いや、俺だよやりきれないのは。せっかく聴きにいった落語会で、何の脈略もない大谷disを聴かされて、ひどく嫌な気持ちになってさ。
国民的英雄をただ貶めるのがギャグになるという発想、いまだにわからない。
その反対もある、三遊亭天どん師がやる小三治disは私は大好きだが、これを嫌がる人の感覚はよくわかる。
少なくとも天どん師は、その感性と闘ってはいる。闘う必要性はさておき。

マクラは尿管結石の話。
人間、痛みのベストスリーがある。1が出産、2が尿管結石、3が再発した尿管結石。
飲み屋で尿管結石の話しているおじさんがいると意気投合し、乾杯する。あの痛みに耐えた戦友だもの。
まあ、一番よくないのが酒なんだけど。
尿管結石は必ず再発するから、その日を恐れながら生きている。
出産も大変だと言うが、でもあとでちゃんと結果が出る。尿管結石で出てくるのは石だけだ。
出産と尿管結石、両方やった女性がいたら尊敬する。なにしろ痛みの三冠王だ。

面白いじゃないか。
国民的スポーツ選手を脈絡なくいじるより、ずっといい。
救急搬送されたため、栃木の落語会には行けない。なので先輩の小痴楽アニさんに替わってもらう。
小痴楽アニさん、代演を務めてくれただけでなく、ギャラをそっくり現金書留で送ってきた。
体を気遣ってくれる丁寧な手紙も付いている。そして、昼食代として1割だけもらったよと。
手紙を読んで思いました。メシ食うんかい。

面白いんだけども、こういうネタでもってウケるから、勘違いしやすくなるんだなとも思った。
いい話をしておいて結論を裏切れば確かにウケる。でも実は、客の共感を逐一切り刻んでいるわけだ。
古典落語は客の共感を得るのをよしとするが、新作は逆、そんな法則はどこにもない。

二ツ目になって披露目で新作出したらダダすべりだった。
楽屋で寿輔師だけ励ましてくれたという。続けることだよと。
てっきり寿輔師をサゲるのかと思ったら、そうではなかったけど。

本編は、前回の嫌な思いをしたばばん場で聴いた一席。ばあちゃんとマー坊の連作のひとつ。
国立はネタ帳公開しているので「若さしか取り柄がないくせに」とわかるが、演題にさしたる意味はない。

婆ちゃんはフラダンス教室に出かけて、いつものトークでみんなを楽しませたい。
だが孫のマー坊に話をせがまれる。
婆ちゃんは、悪い話してやろうかと。

ストーリーが無意味な噺のストーリーを書いても仕方ないが、偏見なく聴けばなかなか面白かった。
悪い人のちょっと悪い話を続けた後、最後にいい話をしてくれる婆ちゃん。しかしそれが迎えに来た人にメタ的にくっつくという。
この日、国立にいた人の大部分は、まるで内容覚えていないのではないだろうか。
私は二度目なので、かろうじてちょっと覚えられている。まあ、覚えていてもいなくても、大した違いはない。

この一席を、クスリともニヤリともせず聴いていた。
これは演者への反発心からではない。「なんか言ってるな」モードで聴いたほうがこの人、実は楽しいことを発見。
なにしろ、最初から客の共感を拒絶している芸なのだ。なら共感しない体でたっぷり距離を取って観察しながら聴けばいい。
どのみち、戸惑っている客も多いことだし。
鯉八落語は難しいのではない。聴くにあたっての客の態勢構築が難しいのだ。
ただ、でかいハコだから真面目な顔で聴いていてもいいけど、狭いところでは嫌みな客になってしまうな。

鯉八師の技法については、前回すでにほぼ見切ってしまったと思ったが、追加。
カミシモの入れ替えが早いのだが、再度よく観察するとカミシモではなく、別人のセリフを切れ目なく続けてしまうという手法。
で、これは師匠・鯉昇の影響もあるが、もっと直接的には三笑亭夢丸師が使っている技法である。ここから来ているのでは。

ともかく、覚悟して聴いたが楽しかった。そりゃまあ、好きだった時間のほうがずっと長かったわけで。
今後トリの芝居に行くかというと、行かないと思うけど。

続いてぴろき先生。
新たなギャグを開発しており、これが楽しい。
「♪明るく陽気に行きましょう」以外に、もうひとつジングルを作ったものと解する。
ギャグの切れ目に「あー、よかった」というセリフを発し、ウクレレのネックを持って底部で自分の大きなお腹をポンと叩くのだ。
客の気持ちが、この「ポン」という音で一体化するのである。
これ一発で、いつものネタが劇的に楽しくなっていた。本当だ。
以前はちょっとだけ、客に対する嫌みな角度もあったと思うのだ。いまやヘンな生き物としてできあがり、実にナチュラル。

続きます。

 
 

似ている別人です

作成者: でっち定吉

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