国立演芸場24 その3(瀧川鯉昇「餃子問答」)

仲入りは瀧川鯉昇師。
謝楽祭の日に、雑司が谷拝鈍亭で鯉昇師の会があった。
2年連続で出向いていたので今年も行くつもりだったが、直前にやめた。なのでここで取り返したいなと。

例によってようやく口を開くと、時候の(?)挨拶。
ようやく徐々にすごしやすくなってはまいりましたが、年を取ると疲れが抜けません。
おととしの忘年会の疲れがまだ抜けません。

故郷、浜松の餃子の話。
浜松はこのところずっと、宇都宮と餃子の消費量で闘っています。どちらも大陸から引き揚げた人が始めたようで。
浜松にはキャベツがあり、宇都宮には白菜があったのもよかったのでしょう。
浜松のほうが人口が多いので、餃子の消費量は多くなるのです。ですが宇都宮の人は、いや、人口ひとりあたりの消費量はこちらが上だと。
非常にレベルの低い争いをしています。
最近はここに宮崎が加わりました。また低レベルの闘いが続きます。

文字に起こすとするとなんだか嫌みにも思えるのだが、全然そんなことはない。むしろレベルの低い争いをほほえましく見守る感じになるのが鯉昇師の人柄か。
さて、餃子の話題ということは「餃子問答」らしい。
録画も持っているのだが、こういうヘンな改作はあまり好きじゃなくて、ちゃんと聴いてない気がする。
だが今回、ちゃんと聴いたらまさに鯉昇ワールド。すばらしいものでした。
ただ、こんにゃくを餃子に替える意味は、正直よくわからない。ちょっとはクスっとするけども、ほぼ一緒だもの。
なぜこんにゃくでやらないのだろうか? 想像に過ぎないが、蒟蒻問答だと土地のものになってしまうからではないかな。上州安中という具体的な。
餃子という、昔はなかったアイテムに替えることで、普遍性をもたらせたいのだと思う。

餃子の件はさておき、中身はほぼ蒟蒻問答なので、そのつもりで味わう。
蒟蒻問答はダレ場がわりとある噺で、編集をうまくやらないと胃にもたれがち。
本来のストーリーは、こう。

  1. 江戸を逃れてきた八五郎、地元の顔役である蒟蒻屋に厄介になる
  2. これからどうする。空き寺で坊主でもやってみるか
  3. 坊主になった八五郎、寺で権助とやりたい放題
  4. 問答の坊主が訪れる
  5. とりあえず帰ってもらうが、逃げる準備
  6. 蒟蒻屋の親方がやってきて、助けてくれる
  7. 問答

鯉昇師、1、2がとてもスピーディ。上州安中にハイライトを当てると、ここを入念にやらないとならないが。
八五郎(名前出てなかったと思う)は目的もない旅をしていて、病気でダウンしたので、抜けた髪の毛が生えそろったら旅に出たい。そこを親方に止められる。
3はわりと普通。般若湯とか天蓋とか、楽しい隠し言葉ワールド。
5もまた、ダレ場になるところ。バッタ屋が来ていると間延びするが、バッタ屋の前に親方が訪ねてくる。

これだけコンパクトにすると、展開がどんどん先を行くのでとても楽しいではないですか。でもせわしい感はない。
なるほど、鯉昇師は誇りを持って餃子問答にしているのだな。

問答の様子はまったく一緒。ただ、手で作った形がいかにも餃子なんだそうで。
実に心ほぐれる楽しい一席。
ところでこの日の客、拍手が早いなあ。「俺は噺のサゲを知ってるんだ」という客が複数よってたかって競っている感じ。それだけ残念。

ヒザ前、桂米福師は、大谷選手の活躍だけが毎日楽しみですとのこと。
甲子園も盛り上がったが、休憩タイムを作るぐらいならドームでやったほうがいいんじゃないですかねと。これは私も賛同する。
さて米福師が始めた噺は、「しびん」または「尿瓶の花活け」というもの。
東京では初めて聴いたが、笑福亭生喬師で一度聴いている(テレビで)ので存在を認知している。
公開ネタ帳には「花瓶」とあった。ソフィスティケートされてますな。
もともとは田舎侍の多かった東京でできた噺なんだと思うが、イメージでは上方落語である。
実際、上方から来たみたいだ。先代文楽の得意ネタというが、上方落語は芸協のほうが親和性が高いと思う。

これ、面白いのだ。
この日出てた桂鷹治さんも、珍品好きだからやって欲しい。落語協会の珍品派もぜひ教わりに行って欲しい。
汚い噺に抵抗の少ない上方でもあまりやらないのは、おさむらいが主人公だからではないかな。

国元に帰る侍が、江戸土産に道具屋で花瓶を求める。
妙な形の花瓶を気に入って、言い値で買ってしまうが、これはしびん。
さむらいはしびんを知らなかったらしく、喜んで5両の言い値で買い求め、花を活けておく。
そこへ出入りの商人が訪ねてきて、言いにくいですがそれはしびんですよ。
田舎侍は激昂し、おのれ道具屋、目にもの見せてくれん。

欲に目のくらんだ道具屋も別にそんなに悪いやつではないが、ずる賢く命ばかりは助けてもらう。
田舎侍も、江戸っ子の嫌いな造型でもない。
楽しい噺でした。

続きます。

 
 

作成者: でっち定吉

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