国立演芸場24 その4(春風亭昇太「不動坊」)

ヒザは東京ボーイズ。3年振り。
子供の頃からテレビで楽しんでいたボーイズ。リーダーご存命中はトリオだった。
現在はたまに浅草お茶の間寄席で拝見しております。

もう、オープニングで「さーよおーなーらー」はやめたのかと思っていた。
だが、二人揃ってこう歌い、頭を下げていったんハケようとする。
79歳と75歳でも、実に進化をやめない芸人。頭が下がります。
六郎先生が、袖の前座に止められた体で、また戻ってくる。「ダメだって」。
「一度このまま帰ってみたいですね」

なぞかけ問答から、3年前に末広亭で聴いた、デューク・エイセスの「おさななじみ」をフィーチャーした「初恋の思い出」ネタ。
3年前は楽しみつつなにも覚えていなかったが、脳裏には薄くこびりついていたようで、今回合わさって記憶に残った。なんだか嬉しい。
ナカハチ先生の初恋の思い出ときたら、「犬のハチを飼っていた(ハチ、来い)」とか、「麻雀で大三元をテンパった(發、来い)」とかそんなのばかり。
ナカハチ先生はウクレレ担当だから、ときに「明るく陽気に行きましょう」を入れて、ツッコまれる。「ダメだよ仲間のネタやっちゃ」。
実際にぴろき先生と同じ日の寄席に出るということは、それほどないと思う。

東京ボーイズ、超ベテランにして出番増えるんじゃないですか。あるいは、増えてるからこの精鋭を集めた番組に入っているのだろうか。

トリは「デイビー・クロケット」に乗って春風亭昇太師。待ってましたの声が飛ぶ。
寄席というものは、高座の声が客席によく届く作りになってましてね、逆に客席の声はこちらにあまり聞こえないんですよ。
だから今、待ってましたって聞こえなくて、叱られたのかと思いました。
東京ボーイズ先生が下りる際に鳴ってた出囃子がありますでしょ。あれ、私の師匠、柳昇のなんですよ。
この国立演芸場は、師匠が尽力してできた小屋ですから、感慨深いですね。

先ほど(クイツキ)講談の紫先生は、「出世の馬揃え」ですね。
講談と落語って兄弟のような芸ですけど、まるで違うんですよ。
講談のほうはいい話でしょ。父から預かった金子を大事に奥さんが取っておいて、旦那の危機に使うという。
共感できますか?
できませんよね。旦那のためなんかより、自分で使いたいですよね。これが落語です。
落語は欲望に忠実なんですね。

そんな、落語らしい人の代表として、このたび笑点勇退が発表された木久扇師の話題。
あんなお爺ちゃんなのに、「われわれは宇宙人だ。ぼよよよーん」とか言ってるんですよ。すごいでしょ。
「われわれは」ってなんなんですかね。「私は」にして欲しいですよ。一緒になっちゃうんでね。

ニュース観てると考えられないことが起こりますね。あの「オートバックス」。
「・・・違います。ビッグモーターですね。オートバックスはぼくがコマーシャル出てるほうでした」

本編は不動坊。古典だろうとは思っていたが。
昇太師の古典落語、たまに日本の話芸などで聴くだけだが、いたく感心するとともに、なんだか違うなと思うことも多い。
なにしろ新作でもそうだが、昇太師の登場人物はみな躁病。
「なんだか違う」のは、主人公が躁病なのだからある種当然。違う中に、見事な演出が見え隠れしたりする。
だが、今回聴いた不動坊はもっと違う感想。この噺の演出として、これがベストでないのかと思った。
マクラで落語とはなんなのかを語る昇太師だが、不動坊の嫉妬に狂う男ども、昔から惚れてた女房を手に入れた八っつぁん、そしてほとんどなにも考えてない前座、すべてが落語の世界に似つかわしい。

主人公は、八っつぁん。講談師不動坊火焔の後家は、おみつ。この名前でやるのは初めて遭遇。
吉っつぁんが八っつぁんでもいいけれど、後家はおたきさんじゃないのと思う。まあ、なんでもいい。

一目惚れしたおみつさんが後家になった。八っつぁん大喜び。
不動坊という噺、そもそもこの嬉しさを描くものだと思うのだが、地に足のつかない八っつぁんの喜びがすばらしい。
湯屋に出向いて「あつーい」だの「つめたーい」だの「水くさーい」だの大騒ぎ。
でも、長屋の三人衆の悪口は言わないんだ。たぶん、昇太師がそういうの好きじゃないんだろう。悪口を言ったらしいというのは、カットバックで軽く描かれる。

だから、三人衆の描写も長くない。チンドン屋のホラ万さんがちょっと目立つぐらい。
アンコロをわざわざ隣町まで行って買ってくるくだりだけは省略しない。

幽霊になる落語家の前座は、物覚えが悪いとか、肝心なところを質問しないとかいう造詣が普通。
だが、この男に詳しく教える描写自体を省略してしまう。実に軽い。
面白いことに、おみつさんも幽霊を見にやってきた。別に重要な役割を果たすわけじゃないんだけども。

軽くて、ちょっと例のないぐらいの編集上手で、すばらしい一席。
昇太師も機会を見つけて聴かないとなと思った次第。
国立を締めくくる楽しい席でした。

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作成者: でっち定吉

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