スタジオフォー巣ごもり寄席7(上・立川吉笑「何時(いつ)材」)

水曜日は鶴見サルビアホールに行こうと思っていた。ご無沙汰している円楽党の三遊亭好志朗さんの会へ。
だが前日に公式を見たら、完売だって。昼間からそんなに集まるものなのか。
捨てる神あれば拾う神あり。巣鴨スタジオフォーの巣ごもり寄席があった。ちゃんと見てなかったのだな。
立川吉笑、柳家小ふねという、二ツ目の中でもキャリアが大幅に違う組み合わせ。

そういえばかわら版読み込んでなかったおかげで、事前申込の必要なタダの会を見過ごした。
今度の3連休、東京都水道歴史館で茶光、晴太、音助だって。9月2日締め切りだった。行きたかったな。

巣ごもり寄席は満席。予約しててよかった。まあ、予約なくても入れてくれそうだけど。

何時材吉笑
真柄のお秀凌天
金明竹小ふね

吉笑さんは半年ぶり。
立川流の席に行かない割には以前からそこそこ聴いている人だが、この人の魅力はつい忘れがちな気がする。
創作力はもちろん最大の魅力だが、それ以外、特に話術の部分を。
しかし、行くとたちどころにその魅力的な話術を思い出す。毎回こんなのが続いている気がする。
猛スピードでもって、情報豊富なマクラを軽々語り切るそのワザ。
マクラも稽古してそうなのだけど、こういうものは稽古しすぎるとアドリブの高揚感が失せるはず。骨組みだけ喋ってみたうえで、現場で乗せてるんだと思う。

真打トライアル中ですと。
立川流、やらなきゃやらないでいいんですけど、トライアルの結果真打になるのがよしとされてまして。お祭りですね。
毎回、師匠談笑が出てくれて、さらに豪華ゲストです。
第1回はもう終わりましたが、志の輔師匠です。
第2回は昇太師匠で、第3回が白鳥師匠。そして最後が立川流を代表して談春師匠です。
第1回では、志の輔師匠も、うちの師匠も高座でもって、もう吉笑は真打でいいと言ってくださいました。トライアルやる意味あるのかなと。
ただ、安心できません。最後11月に出てくれる談春師匠が、「俺は認めない」と言ったらおしまいですから。
12月に独演会があるんですが、これが想定では真打が決まって初の会です。でも、「また来年頑張る会」になってるかもしれません。

豪華ゲストは、すべて自分でお願いしています。これもいい経験です。
昇太師匠なんてお忙しい人ですから、直接お願いに上がるとスケジュールがなかなか合いません。
仕方ないのでSWAの会に寄せていただきました。SWAは遠慮してたんです。ネタおろしの会で、師匠方みなさん緊迫状態ですから、ものを頼みに行く雰囲気じゃないだろうと。
でもここしかないので出掛けました。
楽屋に案内されると、6畳か8畳かの狭い部屋の四隅に着物が置かれています。新作四天王のみなさんのものです。
彦いち師匠が楽屋にいらしたので挨拶しました。彦いち師には、昇太師匠にご相談があるという話をしました。
次に昇太師匠がやって来ました。出演依頼はできれば1対1でしたいものです。
でも彦いち師匠が席を外してくれません。気を遣ってくれてもいいのに。
そうこうするうちに白鳥、喬太郎の両師匠もいらっしゃいまして、相談できません。
昇太師匠は珍しく、前に回っていいよと言ってくださったので、SWAを客席から勉強させていただきました。

終わってからまた楽屋に挨拶に行きました。昇太師匠は、このあと打ち上げもないし、帰ってもらって構わないよと言います。気を遣ってくださっているのです。
でも頼まないといけないので、四天王の前で昇太師匠に会の出演をお願いしました。
昇太師匠は、「そうかあ、やっぱりこの中ではぼくかあ」。
白鳥師匠や喬太郎師匠は、「吉笑は昇太さんを選ぶんだあ」なんて冷やかします。それが嫌で1対1で相談したかったのに。

ラストの談春師匠は先に決まり、あと1回どうしようかと。志らく師匠だと立川流の色が濃すぎるし。
結局楽屋で経緯を聴いて知っている白鳥師匠にお願いしました。これは時間がないので電話で失礼しまして。
白鳥師匠、「喬太郎や彦いちはいいの」とご機嫌で、快諾でした。

噺家の楽屋の様子が浮かんできて、実に楽しいマクラ。
第1回の打ち上げで志の輔師匠が箸を割らないので、しくじったかと思ったが、翌日人間ドックだったという話も。
酒はいいんだ。

本編は初めて聴く、「何時材」。ボードに「いつざい」とルビが振ってあった。
八っつぁんと熊さんは、剣術の高倉流の道場、朝稽古を見に行くのが好き。
高倉流の弟子は精鋭揃い。わずか7歳の子供もいるが、これが強い。
あれは10年に1人の逸材らしいよと。だから5年に1人の逸材も倒してしまう。

八っつぁんは剣士の内情に詳しい。
あの人は15年に1人の逸材だ。こっちは30年に1人だ。
だいたい、年数の多いほうが勝つ。
◯年に1人、はだんだんややこしくなってくる。47年に1人の逸材と、53年に2人の逸材が対決したらどちらが勝つか。

要は数学好きな吉笑さんが、「◯年に1人」のたとえをほじくりすぎた、頭のおかしい噺である。
15年に1人の逸材が2人いた。2人は幼なじみで一緒に修業してきた。
つまり30年に2人の逸材だったが、1人が剣術を辞めてしまったので、30年に1人に昇格した。
なんで約分されるんだ。

頭のおかしい噺を、江戸時代の枠組みの中でスラスラ語る、やはり吉笑さんこそ真の逸材。

続きます。

(追記)

誰がトライアルのゲストが抜けてるなと思ったのですが、思い出しました。一之輔師も出るそうで。
昇太師の次。

作成者: でっち定吉

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