亀戸梅屋敷寄席31(中・三遊亭鳳志「悋気の独楽」)

好志朗さんのニュースマクラをひとつ思い出した。
アルツハイマー治療薬承認の話。
この薬は売れて仕方ないんだって。飲むと脳に血が通って「薬飲まなきゃ」と思い出すので、飲み続けるんだそうだ。
別に爆笑ネタでもないのだが、なんだか実に楽しい。

仲入りは三遊亭鳳志師。この人も目当て。
先の好志朗さんがかなり沸かせて去っていった後だが、慌てず穏やかに始める。
途中の方法論こそ違うが、最終的にはやはり客席は沸くのであった。

学校寄席についていろいろ。
「なにを食べてるところでしょうか」「手ぬぐい」「・・・正解」
今月芸協の雷門小助六師を聴き、定番の学校寄席ネタをちょっとだけズラしてくるやり方に感服した。
最近までユニット「七人の侍」で鳳志師も小助六師と一緒だったが、その際にもやり方が似ているのを感じていたところ。
学校寄席のマクラは空気調整のために掛けているものであってウケ狙いではない(はず)。だが、あまりにも決まりきった小噺だとダレてしまうわけで。

先の好志朗さんは古典落語を作り変える「ラジオ焼き」。
鳳志師はもっとさりげない。噺の編集が圧倒的に巧みで、同業者すら気づかないうちに噺を刈り込んでしまう手練れ。
ムダを切り詰める芸風。
旦那の白髪と黑い毛を抜く小噺から、悋気の独楽へ。
女性の好きな噺。

旦那が寄席(亀戸梅屋敷寄席だって)に出かけるくだりから、おかみさんが定吉を呼んで後をツケさせる場面へと、流れるようにスムーズ。
「旦那がおかしい」のくだりもさらっとやる。
ただひたすら刈り込むのかと思うと、番頭さんが一瞬出てくるのが大きなアクセント。定吉の帰宅時にも出てきた。
妾宅でもって、いい男の声で挨拶する定吉。じっくり進めてきた噺がハネ出す。
妾宅でもぐずぐず時間は掛けず、辻占の独楽をもらってすぐ帰る。

定吉が独楽を回すシーンも、普通はもう一押しするのを切り詰める感じ。
ここまで来ると、もう客席も大爆笑。
あるいは久々に出したのか、口慣れない場面もちらほら。でも、気にならないな。

仲入り後は愛楽師。
兼好師匠の日はいっぱいですね、と両手を広げる。
ありがたいんですよここはワリですから。お客さんが多ければ取り分多いので。
なんて言ってるけども、50人入ったとて総入場料は5万円。いくらにもならないが。それが寄席。

この師匠も学校寄席について。ちゃんと「鳳志さんも話してましたけども」と一言付け加えておけば被った感じはない。
ただ主軸は学校寄席ではなく、幼稚園寄席だった。
幼稚園児はパンツ破けたよ、で爆笑し、またかいではシーン。まあ、よく聴くネタだけども。
それでも寿限無をやる。ところがこの園では子供たちに寿限無の言いたてを覚えさせている。
なので噺の途中、言いたての場面で毎回声を合わせて大合唱。

本編は、まるで中身のない宗論。面白かったけども。
円楽党では貴重な人だと思う。
芸協だと該当する人が結構いるが、落語協会だと林家しん平師のタイプか。

大旦那と若旦那のシチュエーションコントにする。
処女マリアのくだりは白百合女子学園に進まず、「それじゃたばこ屋のみい坊と同じじゃないか」だった。
「お父様、あの父親は建具屋の半公であります」

宗論は最近聴くのがほぼ遊雀型。讃美歌が里の秋になるもの。
あとは玉の輔型があるのかな。
愛楽師のものはどちらでもない。
それにしてもこのポジション、クイツキ兼ヒザであるが、客を沸かしてかつトリにつなぐという実に高度な仕事が求められる。
どちらも満たしている見事な高座。

そして早くもトリの兼好師。黒紋付。
今年は結構兼好師を聴いていて、5席目。

後で考えたら、貴乃花結婚のニュースをマクラで振ってもよかったわけだが、違う。
兼好師の故郷、会津若松の会津祭りの話。
このところ毎年、大河ドラマ(八重の桜)で主演を務めた綾瀬はるかが呼ばれている。
私地元ですが呼んでもらったことないですと。

綾瀬はるかは行列のところどころで立ち止まり、地元の婆さんも使わないような古い会津弁で挨拶する。祭りの客大喜び。
祭りの最中は人がひしめき合うので地元の商店街も商売ができない。でも誰も困らない。もともとシャッター商店街なので。

綾瀬はるかが来るおかげで、姫役に選ばれる地元の女の子がかわいそう。
みんな地元水準ではそこそこはかわいいのだけど、相手が悪い。客にも邪魔者扱いされる。
ほか、いい歳こいて白虎隊を知らない木久蔵アニさんの話など。

続きます。

 
 

悋気の独楽/陸奥間違い

作成者: でっち定吉

落語好きのライターです。 ご連絡の際は、ツイッターからメッセージをお願いいたします。 https://twitter.com/detchi_sada ブログコメント欄でのご連絡でも結構です(初回承認制)。 落語関係の仕事もお受けします。