亀戸梅屋敷寄席31(上・三遊亭好志朗「ちりとてちん」)

また更新サボっちゃった。なまじアクセスが減ってないのでサボり癖がつきかねない。
途中まで書いたのだけど、仕上がらなかった。
禁演落語について。いずれ出します。

さて現場に行ってる限りはネタ不足はない。
水曜に続いて今日金曜は亀戸へ。今日は亀戸梅屋敷寄席。
兼好師をはじめ、円楽党の精鋭揃い。
ちなみに今月、7たび出かけて木戸銭は4,500円。ビンボー自慢。

悩んだ木曜も好楽、萬橘という顔付けだった。
円楽党、最近明らかに底上げが見られる。

兼好師なので早めに行くが、後ろの楽屋も開放していて、席は十分あった。

孝行糖げんき
ちりとてちん好志朗
悋気の独楽鳳志
(仲入り)
宗論愛楽
百川兼好

兼好師の5番弟子、三遊亭げんきさんは初めて。
兄弟子のけろよんさんも受付を私服で手伝っていた。
げんきさんはマッシュルームカット。
大きな声ではきはき喋る。どことなく愉快なムードを醸し出す、得難い個性。
師匠にいちばん似てるんじゃないか。
師匠の作りあげた個性に、天然で近い人。

ネタは孝行糖。
円楽党ではよく掛かる噺だが、前座がやるのは珍しい。
体をよく動かす人だ。これも前座ではあまり見ない。
といっても、じっとしてられないという感じではない。
早いうちから、所作ワンセットで噺を覚えているのではなかろうか。きっと師匠も直さない。
ぐるぐる回って、なんだかデンプシー・ロールみたい。
いずれ体のねじりから生み出される、破壊力あるパンチが飛んでくるに違いない。

「食べてみな、おいしいな」というフレーズは初めて聴いた。
普通は「おいしいよ」だと思う。
もちろん意識して替えてるのだろう。

今日の客は拍手早い。
拍手早いのは好きじゃないが、孝行糖のサゲをみんな知ってるんだと結構驚いた。

二ツ目は三遊亭好志朗さん。
先日鶴見で聴きたかったのだが売り切れていて、今日は目当てのひとり。
聴けて嬉しい。
袖でニュースを見てましたと最新ニュースの話を続けて。
運動会の熱中症とか、中秋の名月の話とかしてた。
いずれもしっかりウケる。
大学のキャンパスにヒグマが現れたというニュースについても。
捕まったからいいけど、逃がしたらあのクマ、「大学出てる」って言われてますね。

本編はちりとてちん。
9月も終わりだが、今年はまだまだ出せそう。

これがすばらしい一席で、本当に感動した。
最近今日のトリ兼好師の「湯屋番」を聴き、噺の作り方について「ラジオ焼き」という名称を付けた。
ラジオ焼きとは、古典落語のガワだけ活かし、中身をそっくり作り上げる手法のことである。
タコ焼きの元祖、ラジオ焼きは今では自由に中身を作っていいはずだ。牛スジを使うという決まりがあるぐらいで。
好志朗さんのちりとてちんが、まさにラジオ焼き。自分で中身をこしらえている。
いつも書いてることだが、古典落語にも絶対に創作力は必要なのだ。

可能性としては、教わったスタイルがすでに珍しいものだったかもしれない。それこそ兄弟子の兼好師だったり。
でも、誰から教わったにしても(なんとなくだが落語協会の師匠の気がする)、自分で徹底的に手を入れているのは間違いない。

なにしろ、冒頭がいきなり、旦那と女中・お清のセリフで始まるのだ。
お清が喋るちりとてちんなんてほぼ存在しないのだが、実に自然でそのことにも驚く。
主従のリラックスした他愛のないやり取りが、噺に立体感を生み出している。
さらに面白いことに、ヨイショのうまい勝っつぁんのことをお清、「あたし、あの人嫌いです」。
ヨイショが行き過ぎてて、いちいち嫌な気持ちになるんだと。
これで一気に世界が膨らむ。

といっても呼ばれた勝っつぁんが別に影を持った嫌な男だというわけではない。この人は気持ちいいヨイショに励む。
私のバイブル「五代目小さん芸語録」にも書いてあるのだが、小さんによると旦那は愛想の悪い男のほうが好きなんだと。
そういう了見を入れたかったものと思われる。

ヨイショの勝っつぁんはところどころとぼけている。
鯛の刺身に「たい焼きもかなわない」とか、うなぎの蒲焼を飲み込んで「どじょうみたいな」と評し、旦那に褒めてるんだかなんだかわからないねとツッコまれている。
いちばん面白いのは、うなぎにスッと箸が入ったものでビリビリしびれる勝っつぁん。電気ウナギじゃねえすかと。
鰻屋に電気ウナギを導入したのは鯉昇師だが、ちりとてちんに持ってきた人は本邦初でしょう。

そして愛想の悪い男を呼んできてもらう。
名前は吉っつぁんだったかな?
この吉っつぁんが、実に魅力的で驚いた。
灘の生一本から鯛、うなぎ、みんな貶めるのに、聴いていて実にいい気分。
客がそう思うのだから、旦那もきっとそうなんだろう。
悪態をついても、ねちっこくなくて、カラッとしているのだ。
そして最初から旨い顔で酒を飲み、うなぎを食うので、旦那も喜んでいるみたい。
うなぎについて、「箸の刺さりようだけはいい」「噛みごたえだけはいい」「味だけはいい」と三段階で褒めていく。

ちりとてちんは台湾名産。
円楽党では長崎のイメージだ。だから落語協会から来ているのかなと思ったのだ。
もっともちりとてちん一気食いは、長崎名産でやっていた楽大師から聴いたのと同じ。

いや、見事なラジオ焼きの実践。感激です。
好志朗さんは、一度出ているNHK新人落語大賞が取れる人だと思う。

続きます。

 
 

作成者: でっち定吉

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