カメイドクロック落語会6(三遊亭兼矢「桃太郎」)

昨日も更新休んでしまいました。
月の終盤に来て3日休んでしまったが、アクセスが減っていないのはありがたい限りです。そして、記事の個別アクセスはむしろ増える傾向がある。

今日はカメイドクロックへ。
このところずっと三遊亭好二郎さんを聴いていたが、今日は弟弟子の兼矢さん。
前座のしゅりけん時代はよく聴いていた人だが、二ツ目になってからは初めてだ。
なぜか東京かわら版には載っていない。すっかり定着したので、載せる必要がなくなったものか。
あるいは、電車で遠くからやってきて、会の運営実態を世間にチクる面倒くさい落語好きを呼びたくないものか。
キレイでいい館ですよここは。
ヨイショしたりなんかして。

午前11時からの1部を聴いて、2部(午後1時)開始までにブログ書いてアップしている。
ごくらくらくごは、でっち定吉が会のもようを詳細に書きすぎるので、録音してるんじゃないかと非難した。
しかし、録音を再生して確認し、わずか1時間で2,000字ほど書けるわけがない。
録音を文字に起こす仕事(以前、数回やった)に対する冒涜でもある。
どいつもこいつも、自分基準で人の能力に蓋をしやがって。

などといらんことを書いていたらすでに500字を超えた。

桃太郎
転失気

待ってましたの声が掛かって兼矢さん登場。
今日はマイクが切れたりはしなかったが、出囃子がなかなか鳴り止まない。
演者が声を掛けてようやく止まったかと思ったら、なおも小音で流れていたりなんかして。
でもスタッフ、スマホいじりはそこそこに、今日はちゃんと聴いていた。偉いえらい。

出囃子が止まらないハプニングのおかげで、顔と名前だけでも覚えていってくださいと二度言う羽目になってしまう。
ショート落語をいくつか。
「鳥がなんか落としたよ」は「ふーん」じゃなくて「ことり」だった。
子供に落語の小噺を教えてもらった話題から、子供の話へ。
桃太郎である。

親父が金坊に昔話をする、昔の子供バージョンを、笑いを入れずにじっくり語る。
うーん、前座の頃のなかなか達者なイメージだな。でも、二ツ目になっても前座の感じなのかなと思い掛けた頃、今どきの子供バージョンから大逆襲が始まるのであった。
立派な二ツ目さんです。しかも、前座時代から周到に二ツ目プランを練っていたと思われる。

序盤で、通る声に似合わない低いトーンで我慢した分、後半の弾けっぷりが凄まじい。
だが面白いことに、トーンは変えないのである。登場人物は跳ねているが、演者はそのまま。
なるほどね。
最初に演者のトーンを完全に確立してしまうので、あとはなにをしても噺に無理がなくなるのである。
よくいますでしょ、ギャグが面白ければいいんだと勘違いして、落語全体のトーンを破壊する二ツ目が。
世界観を破壊してしまうと、ギャグをどんなに頑張っても決してウケないのに。

私が感じたその事実を、兼矢さんはセリフで再現してみせる。
面白い話してやるという親父に金坊、「おとっつぁん、いいの、勝手にハードル上げて。そうやって自分を追い込んでしくじった落語家が何人いるか」。
もちろんあなたは、そんな噺家ではありません。

桃太郎を若手がやると、だいたい紋切り型の生意気子供ができあがるものだ。
紋切り型過ぎて、共感もない。そんな子供いねえよと思う。
だが、ギャグを入れないシーンと同じモードで語り続ける兼矢さんの場合、あらゆる状況が許されてしまう。すごい工夫と思う。
このあたりにどことなく兼好イズムが感じられる。表面的には別に似てない師弟だけども。

金坊、桃太郎の話を語る親父に、「おとっつぁん、この話の眼目はなんなの」と難しい言葉を使う。
生意気な子供だな、という紋切り型の感想ではなくて、踏み外してくるなと感じる。
親父に辞書を引いて調べさせたりして。

他にも難しい言葉を使うなど、細かいギャグが無数に散りばめられている。
もちろん、そこでウケてやろうなんてテンションではない。だからこそ実に楽しい。
聴いたはしから忘れていくのが残念だ。

最前列のおばちゃん、声を上げて大笑い。
ちょっと笑い過ぎだが、気持ちはわかる。

頭を下げずに、「桃太郎という話でございました」。
自然と2席目に行きたかったようだが、やはり手は叩いたほうがいいのでは。
楽しい一席、手を叩かないと客もフラストレーションになるから。

もう1席やりますと、知ったかぶりを振って、木魚を叩くシーンから。
小言念仏? そんなわけはなくて転失気だったが、噺を止める。
「すみません。この前に入れる説明を忘れました」
と、和尚が医者の先生に来てもらった話を振り、転失気はございますかと訊かれたことを地で説明する。
そしてお経に戻る。

うっかりしても動じないのは偉いけど、これ、全部アドリブで、和尚のセリフで説明できたんじゃないかと思う。
できると思うけどな。

転失気は比較的スタンダードな演出。
だが、無用に高いテンションには移らず、実に聴きやすい。
珍念の復讐心を強くしてもいいのだけど、そうした方法論は取らず、できるだけ平たくする。
ただ、珍念が転失気の謎を和尚に語る際、一度「訊いてきませんでした」と嘘をつく。
すぐに本当の嘘を語るのだが、和尚「泳がせよって」。

楽しい30分でした。
終わって後ろを振り返ったら、満員で驚いた。
ああ、これならかわら版に載せる必要はない。

30分で書き上げたので、昼飯を食う時間もあります。
続きます。

(追記)

先ほど2部の「花色木綿」を聴いた。
決して悪くないんだけども、1部と同じ落ち着いたトーンのまま、ハネなかった印象。
24分で終わっちゃった。振るべきマクラを忘れでもした?
とにかく、1日のネタは書けないため、続かないでこれで終わります。

作成者: でっち定吉

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