駒込落語会・金曜午前寄席(下・林家たこ蔵「もぐら泥」)

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死刑囚の人体実験のマクラから、人は思い込みで生きるのだと竹千代さん。
そこから八っつぁんと先生の会話へ。あ、だくだく。

だくだく、近年流行っているみたいでしばしば耳にする。
だが真打からは聴かない。二ツ目さんばかり。だからこそ、最近流行りのネタと思うわけだ。
私はこの楽しい噺を、野ざらし、湯屋番と同じく「爆裂妄想噺」として認識している。

竹千代さん、この噺に結構無理めのギャグを放り込んでくる。端正な状況設定をする人だというイメージが崩れた。別にいいのだけど。
ラジオが戸棚に乗っているというのはよく聴くけども、薄型テレビが乗っているのはこの人だけだろう。いつなんだ時代は。
そして天井にはプラネタリウムを模して、星が描かれている。贅沢に夏のさそり座と冬のオリオン座が同居。さらに流れ星。

八っつぁんが一度飯を食いに留守にするという展開のないパターン。泥棒は夜いきなりやってくる。
「血がだくだくと出たつもり」というのがこの噺のサゲ。それ以外にあるのかよと思うが、なんとこの鉄板のサゲを改変する竹千代さん。
絵を描いてくれた先生が再登場。
改変の必要性はよくわからないが、とにかく工夫がいっぱいだ。

隣の常連のお婆ちゃんが、見かけないお兄ちゃん楽しんでるのかと不安に思ったのか、チラチラこちらを横目で見てくる。
大丈夫です、心配しなくて。

たこ蔵師は、真打昇進前、昨年の謝楽祭で聴いた。手拭いを忘れて高座に上がり、よりによって「狸札」を掛けてしまった一席。それ以来。
狭い席だと癖が目立つのだが、たこ蔵さん、正面を切れない人。下を向いてぼそぼそマクラを語る。まあ、これも味のうち。
本編が始まると所作はダイナミックで、そんなことないのだけど。

マクラの内容が実に不思議。
竹千代さんは昔のことをよく覚えているなと感心する。昨日の夕食も覚えていない本人は、あくび寄席のことなどすっかり忘れており、今日も竹千代さんに「初めまして」と挨拶してしまったとか。
まるっきり嘘とも思えない。
自身のユニークな、大阪在住の父について。ある日、酔っぱらって全裸で帰ってきたらしい。どうしたのか訊いたら「追い剥ぎに遭った」。
シュールなマクラを語ったあと、膝をはたくたこ蔵師。
なんの所作かと思ったら、「あれ、ホコリかと思ったらカビだった。今日出してきたんだけど、まいったな」。
高座でなにをしてるんですかあなた。

非常に勿体を付けてしゃべるマクラ。小三治か、たこ蔵かというぐらい。やや大げさだが、そんな感じ。
小三治師の「間」というものは、それが個性の肝であるかのごとく評価されがちだが、できる人にはできるスキルの気がする。

昇進後、上方落語に転向したなんて話を聞いたが、江戸落語を止めたわけではないらしい。
もぐら泥である。上方の「おごろもち盗人」ではない。
この噺も、今年早くも3席目。珍しめの噺なのに不思議なものだ。

泥棒に入られる家のほうは、別にそろばんを弾いて勘定が合わないなどとやっていない。ごくあっさりしている。
その代わり、もぐら泥が家の下から手を伸ばす所作をたっぷりと。こんなのは初めて見る。
酔っ払いもわりとあっさりしていて、江戸前だ。

右手を縛られて、犬がやってくる。犬に対して「ワウー」と本気で吠える泥棒。たこ蔵師の動物的な魅力が発揮される。
この会場、時計が噺家さんから見て正面ではなく左にある。
右手を縛られた泥棒からは見やすい位置だ。たこ蔵さん、その態勢でチラチラ時計見ていたが、結局少々時間が足りずに終わってしまった。
なので少々お詫びをしていた。

駒込落語会、実に不思議な空間でありました。
喬志郎、小はぜなど私の好きな噺家さんも出るので、そのうちまた来るかも。
往復交通費が入場料を上回ってしまうので、この日もそうなのだが、ついでの行き先があるときにまた。

作成者: でっち定吉

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