小ゑんハンダ付け「三遊亭円丈作品集」(その1・柳家喬太郎「稲葉さんの大冒険」)

柳家小ゑん師匠の「小ゑん落語ハンダ付け」は過去に参加しているため、定期的にメールが届く。
なので予約しておきました。
今日日曜の池袋夜席は、このたび一周忌を迎えた三遊亭円丈作品集。
東京かわら版では、掲載時すでに完売とある。
実際は立見の当日券も売っていた。
日本橋亭がいったん閉鎖になるためか、ちょっと前から池袋下席、落語協会特選会に場所を移している。
向かう途中の埼京線が渋谷で止まり、焦る。山手線に切り替えて間に合ったし、席もあった。
かつてホームグラウンドを自称していた池袋演芸場、なんと昨年8月以来だ。
別に寄席嫌いになったつもりはないのだけど。
今日も定席ではないけどな。

転失気松ぼっくり
稲葉さんの大冒険喬太郎
トーク:円丈の思い出小ゑん、喬太郎、彦いち、天どん
稲穂のジュウタン彦いち
(仲入り)
いたちの留吉天どん
悲しみは埼玉に向けて小ゑん

ツイッタラーの多いこと。
午後6時開演、8時終演予定とあったが、熱演でもって45分オーバー。得した気はする。
落語協会特選会は、前座は寄席システムで、会の主宰者が呼んだ前座ではなくたまたま上がるらしい。
たまたま上がった人は、初めて聴く古今亭松ぼっくりさん。
非常に上手い。だが、まるで面白くはない。
前座じぶんはそれでいいと思うけど。

医者の先生が、「転失気」を、手でもって「気を」「転び」「失う」と、場所を入れ替えながら説明していたのは珍しい。
サゲは「屁とも思いません」で、たまに聴く型。

松ぼっくりさんが釈台を持ってくる。
いきなり喬太郎師。
新宿の夜トリだから出番が早いのである。
「プーク人形劇場分室へようこそ」

さすがディープな会では、もう釈台スタイルの説明などしない。
とはいえ、劇中でギャグにしていたので、知らない人も大丈夫。
今からやる、「稲葉さんの大冒険」は、円丈師がうちの師匠にアテ書きしたものです。師匠のものは聴いたことがないんですけども。
稲葉さんは、月曜から金曜まで同じ時間に帰ってきて、同じ時間にバスに乗ります。
この稲葉さんが、駅前でティッシュをもらうところから話は始まる。
サラ金のティッシュだと思ったら、風俗だった。
店名は「ファッションヘルスマニュファクチャー」。あ、手工業かとさりげなく教養溢れるギャグ。
マジメで通っている稲葉さん、とてもこんなティッシュを持って帰るわけにはいかない。持って帰ったら通ってるんでしょ、キー!になる。
なんとかティッシュを廃棄しようとする稲葉さんの大冒険。

この噺自体は有名だけど、聴く機会はなかった。
わずかに、二ツ目時代の喬四郎さん(現・喬志郎)から聴いただけ。兄弟子がやると、破壊力がまるで違う。

稲葉さんの大冒険は、災難がエスカレートしていくという、古典落語にもある普遍的な構造を膨らませた作品。
バス停のゴミ箱に捨てたいが子供の目を気にして断念し、トイレに流すこともためらい(詰まるから)、結局公園に埋めようとして大変な事態になる。
喬太郎師は、エスカレートの原因について、逐一きれいな流れをこしらえるところがさすがだ。
きれい、というのは自然ということだが、本当は自然ではあり得ないのだ。そんな状況ないに決まってるんだから。
でも、つなぎ目をギャグにしてしまえば、全部乗り切れるのである。
稲葉さんの捨てたティッシュを、塾に向かう小学生が見つけたらどうなるか、妄想を膨らませた結果、小学生の人生を変えてしまうということで断念する。

公園でもって穴を掘る際、釈台の客側に手を乗り出し、掘ってみせる。
「釈台を活かして、穴の深さを表現してみたぞ(客大爆笑)。脚が悪くなっても悪いことばかりじゃないな」
続けて、みんなから脚直せよって言われるけど、そんな暇ねえんだよ。
今日新宿のトリだけど、ここでがんばっちゃったから新宿では転失気やるわだって。

穴を掘っていると、犬の散歩をする老人が現れる。長谷川さん。
ちなみに稲葉さんと同じく長谷川さんも噺家の名前だと思った。実際、この後梅原さんも登場するし(客はあまりピンと来てなかったが)。
だが長谷川という本名の噺家は、先代文枝ぐらいだった。事務員の名前かな。

とにかく、長谷川さんこそキョンキョン版稲葉さんの大冒険の主役である。
このクソジジイは、喬太郎師の新作によく出てくるキャラである。やたらと悪態をつき、犬にもバカ犬と呼びかける。
嫁の策略で老人らしく犬の散歩をさせられてるのだそうだ。
犬には「ベス」と呼びかけているが、ときに「ポチ」。本名は橘家文蔵だって。
喬太郎師、この噺やっててとても楽しそうだ。

老人を表現するため、扇子を釈台の上に立てるのだが、やたらツルツル滑る。
何度目かにキレて、この釈台が滑りすぎるんじゃと、老人だか喬太郎師だかわからない人が叫んでいた。

噺のストーリー自体は、ネタバレを避けるというほどでもないのだけど、なんとなく書くのが野暮な気がする。
しょっぱなから実に楽しい一席でした。
30分近くやってたから、寄席のトリでもできるわけだ。

高座返しは正蔵師の次男、ぽん平さん。
釈台をずらし、四人分の座布団を敷いて、トークコーナーの準備。

続きます。

 
 

作成者: でっち定吉

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