山崎まさよしグダグダライブ問題に、落語会で歌だけ出した噺家のことを思い出す

自分で喋ったことに「ヘヘヘ」と笑い、泣き出す観客、中年女性は“演説”を…山崎まさよし(51)大荒れカオスの水戸ライブ〈実況中継〉「頼むから歌ってくれ」(文春オンライン)

大騒ぎですな。
感想は人さまざまでしょうが、水戸のお客の皆さんにはとんだ災難でした。
金返してもらえば埋め合わせられるものかというと、どうでしょう。
期待するだけしていたライブで悲惨な目に遭ったのだから、払い戻してもらってもなかったことにはならない。マイナスだろう。
そして、ずっとトラウマになる。
今後水戸でお詫びライブをやったとて、ガラガラでは。

異様な雰囲気だったとさまざまな報告がある。
でも中には、アタシのまさよしがステージにいるならなんでもいいやって人もいるんでしょうな。ジュリーのファンみたいな。
あんまり、アーティストを甘やかしちゃいけないよ。
しかし山崎まさよし、そんなヤバい人だったの? ラリってたの?
オチのつかない話を延々とするというのは、これは三平の大喜利と同じ。暴力としかいいようがない。
失礼な発言も多々あったそうで。
しっかり面白い話ができない事実にも驚いた。そして、そのトーク下手を自覚していなかった痛さにも。
途中でいったん入場料を放棄して、出た人は尊敬に値する。人生に主体性を持って生きている人たちだ。

私がこんな場所にいたらどうしたか。
ブログのネタができたなとは思うだろう。ただ、そのメリットで埋め合わせできるかというと、たぶんムリ。

  • ブログのネタのために会場に残る
  • 精神の健康のためにおん出る

究極の選択である。
ちなみに私は、基本的なスタイルとしては、災難を楽しむことにはしている。船徳の客がモットー。
実際は、ひどい目に遭ったらいつまでも落ち込むほうである。
グダグダトークでは楽しみようはあるまい。

関連報道がいろいろ出た中に、さだまさし、松山千春のトークを称賛するものがあった。
あと、やしきたかじんも有名だった。この人は実質芸人だったが。
ファンがトークを楽しく聴けるアーティストならば、なんの問題もない。
トークだって、カネが獲れるものにするのは大変なんだ。

さて、今回の報道を見てすぐ思い出したネタがある。
故・柳家小三治である。
小三治は、鈴本の余一会において、独演会をいきなり歌の会にしたことがある。
最初から、こういう会ですと銘打ってチケットを販売しているなら、なんの問題もない。
だが、この日行ってみると、小惨事(変換間違ったが面白いからそのままにする)がひたすらピアノに合わせて歌ったのだそうだ。
端唄小唄ならまだ色っぽいが、なんのことはなくて唱歌ばかり。
これはもう、詐欺である。
しかし、特殊な話芸でもって日頃から客を飼いならしていた小三治は、これでもいいなと思ったのだろうな。
甘え過ぎじゃないか。

堀井憲一郎氏だけ、この椿事について書き残している。

落語家・柳家小三治…静かに、さりげなく始まる「異端の高座」の”凄み”を振り返る(現代ビジネス:全体の4頁め)

もう絶版になっているが「青い空、白い雲、しゅーっという落語」でも詳しく触れていた。
今回の山崎まさよし事件が大騒ぎになっているのと比べると、落語ファンは大人しすぎる気がするな。
変わったものを見せられて、果たして面白かったのだろうか。
それとも、小三治だから仕方ないなと思ったのだろうか。

しかし堀井氏だって、この会からは脱出したそうだが、でも振り返ってそういう人だからと書いている。
立腹してはいない。
俺なら、契約不履行で訴訟に打って出るかもしれない。いや、マジで。
「寄席で寝る権利」訴訟よりは、勝てるだろう。

落語を聴きにいったらいきなりコンサートだったなどという経験はさすがにないが、耐えられない会というのはどんなのがあったろうか。
客がひどかったのはいくつか思い出す。最近だと両国で、100回後ろを振り返る客。
演者の責任によるものだと、やはり鯉八の、面白くもなんともない大谷dis。
真につまらない、ひどい高座はいくつか経験している。だいたい落ち込む。

小三治は特殊すぎる人。そのわりには一般論として落語について多くを語るヘキがあり、矛盾が甚だしいのだが。
普通の演者は、客の期待にいかに応えるかをいつも考えている。
そして、ちょっと珍しめの企画の場合、必ず事前に内容を告知している。
柳家喬太郎師なんて、夏に鈴本で「オモクラ喬太郎」なんて企画をやっていた。私も行きたかったのだけど。
これだって、弾ける新作のイメージを期待してやってきた人に、生きているのが嫌になるような暗い噺を聴かせたら申しわけないと思うのだろう。
この師匠の場合、みんなが期待している弾けた新作をやる際にも、常に「古典にしておけばよかった」みたいな架空の意見をカウンターとしてぶつけ、客の最大公約数を掬いとろうとする。

山崎まさよしは、話芸の修業もしてこないでいきなりトークなんてそれはムリ。
うーん頑張ってみるよ、やれるだけ、ではダメなのよ。
この誤った判断は、歴史に刻まれ、歌い手の人生をも狂わすことでありましょう。
One More Chanceはそうそうない。

続編があります。

 

作成者: でっち定吉

落語好きのライターです。 ご連絡の際は、ツイッターからメッセージをお願いいたします。 https://twitter.com/detchi_sada 落語関係の仕事もお受けします。