円丈一門の例外的な常識人であることがよくわかった天どん師も、高座ではやはりおかしい。
26年もやっているのに、今日みたいに香盤が上の人と一緒になると、いまだに出る若手感がねと。
「若えの聴いてやるからやってみな」的なお客さんの目線が気になります。
そういえばトークの冒頭で、「普通の寄席だと思って間違って入ってきてしまった人がいたようです」と喬太郎師が報告していた。
そんなはずあるものか。
トリは柳家小ゑん師。師のやる円丈落語は「フィッ!」「燃えよジジババ」など。
みなさんは普通の落語では満足できない変態なんですね。
今着てるグレーの着物は円丈師の形見です。私はあまり着ない色で、羽織をなんとか合わせてみたんですが、なんだか藤井八冠みたいで。
将棋指しっていうのはどうしてあんなに着物が個性的なんでしょうか。
「悲しみは埼玉に向けて」は、円丈師と交換したんです。
円丈師に、やってみたらって勧められました。
ずっと以前に私のほうから、やりたいと言ったことがあったんです。その際は「うーん、君には向かないと思う」と言われていましたが、そのやり取りを覚えていてくだすったようで。
私から出した噺は、「ぐつぐつ」です。
ぐつぐつの所作は、円丈師はこう、(ワッショイみたいに)上でやるんですね。
地方でウケまくったそうですよ。あるとき円丈師に、君に稽古してやるって言われましたけど。
そういえば白鳥師の3番弟子東村山さんも、円丈師のぐつぐつを聴いて噺家を志したという。
小ゑん師の本家では、主人公はイカ巻きだが、円丈師のものはちくわになる。
さて小ゑん師の埼玉は、一度レビューした。
その際と違っていたところもある。もちろん、進化。
実験落語が繰り広げられた伝説のジァンジァンには、学生時代の昇太も来ていた。みんな私を踏み台にして出世する。
さらに、のちの伊集院光(三遊亭楽大)もたまに前座として入っていたと。これが今回追加。
スカイツリーラインとは世を忍ぶ仮の姿。まこと本名は東武伊勢崎線。
以前は東武日光線と言っていたが、これは伊勢崎線が正しい。今回直っていた。
ただし小ゑん師、「イセザキ線」と濁って言う。濁らないのが正しいのだが、これはわざとだと思う。
円丈師の住む竹ノ塚を「タケノヅカ」と濁って発声していたから。前聴いたときはタケノツカだった気がする。
国会議事堂や成城学園とも一本でつながる北千住、千代田線で行ってはわからない。やはり東武で行くべき地だ。
浅草駅を出発した東武伊勢崎線は、橋の手前でいったん停車する。
滅びゆく街浅草に住む小里ん兄によれば、橋の上に電車を二編成載せてしまうと、重みで落ちるのだそうだ。浅草の人はみんなその事実を知っている。
円丈師の原典で語られた、駅前にビルのなかった時代の北千住と、現在のルミネにマルイ、成城石井まで存在する北千住を二重写しにする。
私は北千住はそこそこ知っている。寂れていると評される街道筋も、今や賑やかなもんだ。
12月にまたPayPay還元があるから、行ってくるつもりだし。
昔と変わらないのはパチンコ屋、ビックリヤパートⅡ。そして駅前のサラ金ビル。
しかしすごい噺だ。
妄想と、地域disを組み合わせただけなのに。ストーリーはないのに、物語はある。
さらに地元だから許された噺を、山の手・西小山出身の小ゑん師がいじる。にもかかわらず変な感じにはならない。
北越谷伝説(北越谷にマイホームを建てた夫婦が、親から縁切りされて心中する)なんてひどいエピソードも、「飛んで埼玉」同様、地元民は喜んでいると思われる。
最後の北千住から東武線の車内で始まる、泣いている女の子への妄想は、非常に小ゑん師らしい。
メールが見えてしまう。男からはもうおしまいにしようと。
女の子は和裁学校に通う、母子家庭の娘。住んでいるのは幸手。
だけどこのエピソードももともと、原典にもある。
しょっぱなに出た稲葉さんと同様、この噺も原作者と演者のWパワーに満ちているのだった。
思えば、円丈師のぐつぐつだってそうだったのだ。
実に満足度の高い小ゑんハンダ付けでした。
三遊亭円丈フォーエヴァー。
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