2023NHK新人落語大賞のいろいろ(下)期待の新作派桂三実は吉本がネック

あまりよく考えず、序盤の東京3人について触れたところで昨日を終えた
でも、4番手5番手は結構すでに放送当日に触れてしまっているではないか。しくじった。
でもなんとかまとめます。

番組冒頭、東京と大阪の予選に「名古屋・鳥取からも」参加したと触れられていた。
名古屋は登龍亭の一門で、獅鉄さんなんでしょう。
鳥取というのは、桂小文吾さんで間違いない。
小文吾さんについていろいろ書きたいこともあるが、いずれ。
興味ある人は調べて、でっち定吉の感想を想像しておいてください。

桂慶治朗「いらち俥」

レベルの高い大会だったのに、優勝者である慶治朗さんのニュースはあまり大きくない。
ヤフコメも極めて少ない。
この大会、「優勝はしたけれど」の人が過去多数いるのも確か。正直、そんなニオイも。
「慶治朗」で検索すると、横浜FCのサッカー選手が引っ掛かるし。

でも、見事なラジオ焼きの実践を見るだに、一発屋には思えないのだけどな。
改めて観なおすと、やはり素晴らしい。
オリコンのニュースを読むと、面白いことが書いてある。

<お笑いはフリとオチになっていることが多いと思います。お客さんにこう思わせておいて実はこう!というところが面白さに繋がるのでそういうところを随所に込めました>

とのこと。
なるほど、この仕掛けは濃厚だ。そしてこれは、お笑いの手法。
俥屋の劇中妄想も素晴らしい。メタ落語の一種。
笑福亭羽光さんの活躍がこんなところに流れ込んでいるのかななんて思う。そうでなく、コントのほうからの導入かもしれないが。

特に関西のお笑い好きには、このいらち俥におけるボケ・ツッコミのやり取りは大好物だと思うのです。
ただ、落語として考えたときは、ツッコミ役の客のほう、もっと柔らかくツッコむほうが面白いんじゃないかと、ふと思った。
私の採点で彼が優勝でないのは、このあたりかもしれない。観なおして気づいた。

馬生師の「顔が落語家にちょうどいい」という論評は、本音ではないかな。
いろいろなジャンルができるだろうから人情噺も、とは話が飛躍している気はするが。でも上方でも人情噺増えてるから、まんざら的外れでもない。

桂三実「あの人どこ行くの?」

慶治朗さんが見台を出していないのは演目的にわかるが、三実さんも出していない。
場面転換がないからだろうか。

ラストの三実さんの開始時点で、私は微差で吉緑さん優勝としている。
しかし、三実さんのマクラの段階で、すでにこちらを高く評価した。
古典とか新作とか、そういう区別の前に、マクラの穏やかな語りが非常に噺家っぽくて好きなのだ。
しかも、上方落語の。
マクラで描く登場人物自体は勢いがあるのに、演者が全部吸収して、穏やかにしてしまっている。
マクラの内容はそんなに面白かったわけではないが、これはタダ者ではない。
先に出た慶治朗さんこそ、この穏やかな語りだったらベストの気がする。

名古屋出身なのに、本当に言葉が上手いなあ。三重でも上方言葉の習得に苦労するというのに。
自分の自然な言葉遣いを作り上げれば、細かいアクセントなんて問題にならないのだろう。

ユキちゃんの「あの人どこ行くの?」はラジオではわからなかったが、所作がついていたのだった。
いい感じ。

ラジオで聴いた「あの人どこ行くの?」も楽しかったのだが、中身が相当に違っていたことは書いた。
別バージョンが用意できるなんて人は、東西の誰にもいません。

文枝一門からは新作派が次々出てくるが、「落語が上手いなあ」と感嘆したのはこの人が初めてである。
この上手い人、吉本だからラジオでもそうそう聴けないだろう。
吉本の噺家は、吉本落語会に出るのがもっぱらなので、それだけ残念。
東京にも来るのだろうけど、「方正、三度、三四郎、三実」だろう。そういう会には行かないし。
東京の新作の会に呼ばれることを期待する。

採点について

人の一生を運命づける審査、審査員にも肚をくくって欲しい。
結果と違ってもいいから、優勝だと見込んだひとりにだけ10点を付けて欲しい気がするぞ。
昨年の堀井憲一郎氏はそうやっていた。

広瀬和生氏は、3点幅の点数。結果的にこの人だけ、優勝と準優勝(昇羊)に10点を付けたことになる。
日高美恵氏も文珍師と同じく3人10点だ。点数は10点と9点だけ。これは審査じゃないな。
東西バイアスはなさそうだが、女性バイアスが掛かってしまったのではないかという気がする。
鶴ちゃんも、10点が2人。9点が3人というのもどうなのか。
今年から加わった馬生師は、すでに審査員としての爪痕を十分に残したようである。
10点満点を付けていないのはこの人だけ。まだ、なんとなくの作法をわきまえていないようだ。
9点が2人なのは、同じくどうか。一花さんが9点だし。
でも、点数幅を2点にしているから、わりと審査員らしい点数。
文珍師は昨年と同様の審査放棄。

うーん。
でっち定吉の点数は7、9、8、9、10。
10点を一人だけにして、幅を3点にする。一番、審査員らしい点数の付け方だと思うのだが。
日ごろ東で落語を聴いてるけど東西バイアスもないしね。もちろん逆に、西を持ち上げてしまうのもダメだ。

ともかくNHK新人落語大賞こそ、最も権威ある賞であることは間違いない。
優勝した慶治朗さんだけでなく、みなさん頑張ってください。

初日の記事:NHK新人落語大賞・優勝は桂慶治朗

 
 

作成者: でっち定吉

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