亀戸梅屋敷寄席33(上・「初天神」楽太がバケた)

2日前に出かけたばかりだが、12月上旬にいい席が見つからないので今のうちに聴いておく。
10月に続き、11月末日も亀戸へ。そして江戸川区での買い物絡み。
トリは好の助師。他に萬橘、王楽といういい顔付け。
後ろの楽屋こそ開放してなかったが、満員だ。
なので開演前にお膝送り。客が椅子を抱えて前に進むという。
50人超えてたのでは。

初天神 楽太
堪忍袋 兼太郎
不孝者 王楽
(仲入り)
出来心 萬橘
百人坊主 好の助

前座の楽太さんは受付からずっとニコニコしている。
高座に上がってもニコニコ。鯉昇師みたいに無言でにっこり。
楽に太い、で楽太です。
もう、元の師匠や今の師匠の話などはせず、小児は白き糸のごとしから、初天神。
これがもう、いきなりのハイレベルで驚いた次第。
とうに二ツ目の腕である。二ツ目の多くと勝負になる。
喋りは小気味いいし、構成も見事だし、クスグリもいちいちウケる。悪いところがない。
もともとセンスあるなとは思っていたのだが、それでもこんなすごいのは初めて聴いた。化けた、と言っていいでしょう。
けろよんという図抜けた人がいて、げんきというユニークな人もいて、円楽党の前座、創設以来今がピークなんではないかと思った。

こんな初天神。

  • 親父が羽織を着て、かみさんが金坊も連れてってやれと言うが、断る
  • 帰ってきた金坊に、医者に行くんだと伝えるが見抜かれている
  • 遊び行ってこい。もう行ってきたよ。子供は風の子なんだからまた行ってこい。じゃあ、おとっつぁんの子じゃないのかい
  • かみさんが、言うこと聞かないと川にほっぽりこまれるよと伝えている
  • 親父がほっぽりこんじゃうぞと言うと、泳げるもん。河童はない
  • じゃあ、山で狼に食わせちまう。ニホンオオカミは絶滅しました
  • じゃあ、熊に食わせる。今、クマが街に出てきて大変なんだよ。そんなタイムリーな話題を古典落語に放り込むセンスがね
  • よーいよーい。無邪気でかわいらしいね
  • 飴屋で指をちゅぱちゃぱするのをとがめられると、俺は指をなめてるだけだ。飴をなめるってのはこうやるんだと本当になめてしまう。それを金坊にやる
  • 親父にも殴られたことないのに! 俺が親父だ!
  • 落っことした。おなかの中
  • 団子屋はなく、凧が欲しい。ダメ
  • 正月にみんな凧上げてるのに、あたいだけないからみんなのを見てる。大人がその様子を見て、かわいそうにあの子だけ凧がないよ、ってなるとおとっつぁんの立場がない
  • 脅しやがって。一杯やろうと思ってたのにトホホ
  • あの大きい凧がいい。あれは看板だ。いえ売りますよ
  • その後はわりと標準的(しんみりさせたりはない)

熊のメタギャグは笑ったが、前座に似合わぬやり口はここだけ。
あとは、既存の初天神を実に上手く編集している。いろいろな落語を聴いて、楽太さん自身活かしたい部分を取り入れたのだろう。
言ってしまえば、削った部分は彼の感性にそぐわなかったのだと思う。団子のなめかたみたいな重要な要素までも。

ギャグだけが味ではない。
親父と金坊は、最初からずっと仲の良さが漂っている。お互い、ここまでは言っていいんだという安心があるのだ。
だから表面的な対立すらない。
そしてすごいのは、凧を買ってもらう際、金坊は実力行使(泣き叫ぶ)ではないのだ。
凧を買わないことが親父のマイナスになると理路整然と攻めてくる。
真田小僧の金坊っぽいのだが、初天神の世界の中で違和感のないところが見事。
それはそれはウケておりました。大きな拍手で退場。

いったい誰から教わったのだろう。原形が思い浮かばない。
ひとつのスタンダードになりそう。もちろん語り口もよくてこそだが。
楽太さん、もう前座を4年近くやっている。そろそろ昇進だろうな。
名前は「萬太郎」か「萬楽」だと思っている。楽太郎の可能性もあるけども。

楽太さんが盛り上げた高座、二ツ目の兼太郎さんはやりやすかったようである。
これだけお客さんが集まっていただいて。つい先日までコロナだったのに。
マスクして落語聴くの慣れました? こちらは慣れないんです。
地方の落語会に行くと、袖に「マスクの下は笑顔です」なんて貼ってあります。その隣に「注意。高座はすべります」。

洗濯を巡るウソマクラ。今日からは仕事が全国であって忙しいというウソマクラ。
どうマクラを回収したか忘れたが、堪忍袋へ。
これは三遊亭遊雀師があちこちに広めた噺だが、出どころは円楽党の竜楽師。兼太郎さんのものはそこから来ているのだろうが、でも梅干しのくだりなど遊雀師っぽくもある。
遊雀師の場合、夫婦の間に子供が9人もいるのだが、そういう設定はなし。
堪忍袋が縫いあがり、二人で交互に悪態をついてすっきり。
そこへ大家が二度目の仲裁にやってきて、二人に大声で怒鳴る。大家さんも(堪忍袋)どうぞという、実に珍しいサゲ。

盛り上がってきた亀戸、続きます

 
 

作成者: でっち定吉

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