仲入りは三遊亭王楽師。
2年半振りである。円楽党に通っているわりには、そしてご本人が兼好、萬橘と並ぶ売れっ子のわりには、それほど聴いていない。
嫌いでもないが、そこまで好きでもないという人。
だが今回、一気に突き抜け、もう大好きレベルにまで突き進んでしまった。
さすがに王楽師ぐらいになると、前座・二ツ目のパワーに乗っかったなんてことではないはずだ。
変なヘアスタイル。トサカみたいな跳ね上げ頭。
我々の世界は、お歳暮は直接持っていくんです。
ちょっとまだ早いんですが、今日はねぎし三平堂へお歳暮を持っていきました。いやなことは先に済ませておこうと思いまして。
落語界のゴッドマザー、海老名香葉子さんと、三平アニキが相手をしてくださいました。
三平アニキ、うちにいるんだなと。やっぱり仕事ないのかしらなんて。
三平アニキ、小学生になった息子さんと一緒に、いろんなところに行った写真を見せてくれました。ああ、やっぱり寄席にも出てないんだなと。
あの人にはよくしてもらってるんですよ。
息子さんが生まれたとき、奥さんと一緒にお会いしたんですね。そのとき三平アニキが子供の写真見せて、言うんです。「どうこの子、王楽さんに似てるでしょ」。
そういうことを、悪気なく平気で言える人なんですよ。
もうちょっと笑点出続けてたら、面白くなったかもしれないですね。
三平ネタは定番だが、まるでイヤミっぽくない!
以前のこの人は、決してそうじゃなかった。ちょっとだけトゲがあった。
三平をイヤミなくいじれるのは、見事なウデ。
二人の王楽ジュニアの話。
坊やたちは落語好き。それこそ、絵本読み聞かせの代わりに親父の生落語で寝ている。
やる噺がもうなくなってしまった。なので大人向けの落語でもいいと子供たちに言われている。
音源も掛ける。木乃伊取りなんて一緒に聴いたりして。
息子は、「権助もきっと帰らないね」なんて言ってる。
あるときは三代目金馬をテープで聴き、「この人は上手い」。
王楽師にリクエストがあった。孝行糖やってと言われたが、持ってない。
なので、子供たちに聴かせるため、わざわざ兼好兄のところへ孝行糖教わりに出向く王楽師。
そんな子供たち、「好楽ちゃん祭り」で高座に上がりますので。
生まれながらのエリート教育か。珍しいね。
あと、一之輔disもあった。こちらも別にイヤミではないが、それほど面白い話でもなく。
親子関係に話を広げ、息子が道楽者だと親父は大変だと振って、本編へ。
大旦那が番頭に、息子はどうしたと尋ねている。
使いにやったのに、飯炊きの権助だけ、先に帰ってきたではないか。番頭さんが大丈夫と言うから出したのに。
よかちょろ、じゃないし何だったかな。
権助に服を脱げと大旦那。これでわかったが、不孝者。
東京では珍しい噺ではある。
以前、正雀師から聴いて以来。
王楽師は、小朝師からだろうか。
上方落語の「茶屋迎い」(たまにテレビ・ラジオで聴ける)が、東京に来て前半が「木乃伊取り」に、後半が「不孝者」になったのだと思うのだが、詳しいことは知らない。
前半は権助に「息子から2分ももらったか」「とんでもねえ1分だ」なんて楽しいやり取り。
大旦那が権助に扮して茶屋に迎えに行ってからは、人情噺になる。
2階で遊ぶ若旦那は権助が迎えに来たと思い、大旦那は物置きで待たされ、燗冷ましの酒をあてがわれてこれでもやっててくれと。
そこに部屋を間違って入ってきた芸者。よく見るとかつて大旦那がパトロンだった女、欣弥。
欣弥はかつて、大旦那から手切れ金をあてがわれて別れた。だが、それには理由があったのだ。
商家の旦那と、かつてのお囲いものの芸者との不思議な邂逅という、いかにも上方の噺。
二人の関係は夫婦でもなければ恋人でもない。所詮はカネのつながりなのかもしれないが、そこは男と女。ちゃんと機微がある。
大旦那は連帯保証人として全財産を失う危機だったが、幸い後ろ盾が現れてなんとかなった。
でも芸者を囲っているわけにはいかなかった。
お互いに未練を残したままの関係。女は捨てられたという思いが強いが、それでもいい旦那だったと。
このくだりの説得力がすごい。
46歳の王楽師、なんでこんなのが描けるのだろう。
この噺で描かれる男女の思いはスケールがでかい。旦那が、昔借金のために手放した女を、余裕ができたから再度囲おうなんてことではないのだ。
大旦那、欣弥には幸せになっていてもらいたいのだ。だからいい旦那が付いていることを、恐らく本心から期待もしている。
でも欣弥のほうは、どうしても前の旦那と比べてしまう。だから別れることになる。
ググっときたところで楽しいサゲ。
見事でした。
仲入り後の萬橘師に続きます。