笑福亭松喬「月に群雲」は門外不出の噺

昨日の女芸人THE Wは楽しんで観せてもらったのだが、ブログ1日のネタにするほどでもなく。
唯一話を広げられそうなテーマが、ギャルネタのエルフを観て考えたこと。
落語もそうなのだが、「人の好さ」が発散されている舞台っていうのはいいよね、ということ。
ただ、この対極が村本大輔だという話になると、当ブログではいささかマンネリ気味で。まあ、また今度書くかもしれません。

私はハイツ友の会が好きです。
そういえば、やはり楽しんで観たキングオフコントも今年はネタにしなかった。
ひとりで首をひねり続けていることがある。
優勝したサルゴリラなんだけども、魚のネタ、あれ本来漫才でやるもんじゃないのと。
漫才論争というものはあったが、コント論争というものはない。
サルゴリラのネタこそ、漫才という形式でもって、「漫才コント」として披露するものではないのかと。
そんなことを思いました。

さて、土曜に聴いた「ラジ関寄席」で、タイトルの話題が出ていたので、これをネタに。
電話インタビューコーナーが、私が上方落語家で最も好きな、笑福亭松喬師匠だったのだ。
ところで本日日曜、再度聴こうと思ったら、すでに配信が打ち切られている。どういうこと?
ABCのなみはや亭でも、たまにこんなのあるけども。聴取期限のルールがわからない。

なので思い出しながら。
ちなみに、この日の放送で出していたのは「月に群雲」ではなく、「花色木綿」。
これもちゃんと聴いていない。聴きながら二度寝してしまったからだ。
前夜に酒を飲むとだいたい早く目が覚めてしまう。仕方なく活動するのだが、再度寝たいときに落語は最適。

「月に群雲」は、小佐田定雄先生が松喬師のために書いた新作落語で、泥棒もの。
松喬師は言わずと知れた泥棒噺のエキスパート。アテ書きしたわけだ。
上方の泥棒噺はすべてやってしまったそうで、東京の「転宅」なども手掛けている。これにも小佐田先生が協力しているはず。

月に群雲は以前、日本の話芸にも出ていた。実に楽しい噺。
再度聴いてみた。管理が悪い自分のコレクションではなく、手っ取り早くYou Tubeだけど(三喬時代)。
泥棒が、盗んだ品物を換金するための、闇の商売を描いた噺。さすが小佐田先生で、時代劇には出てくるにしても、落語にこの商売は出てこなかった。
換金屋には、豆腐屋という表の商売もある。なので合言葉が必要。
盗人が「月に群雲」と声を掛けると、「花に風」と換金屋のおやっさん。

出てくる泥棒は、馬鹿ばかり。
抜けた弟分と一緒に初めてやってくる泥棒の包みの中は、七面観音像や998手観音、六福神。
数が合わないのは、いずれも仕事の際に落としてしまったから。
傷モンはアカンとにべもないおやっさん。
寝込んでしまった泥棒の女房が交番で訊いて訪ねてきたり。
最後にやってくる泥棒は、観音の手2本や、1福神を持ってくる。

この楽しい噺、稽古つけてくれと頼まれもする松喬師。
だが悩んだ末に、門外不出とすることにする。
古典設定の落語(擬古典落語)でデキのいいものは貴重である。実際、小佐田先生が枝雀に書いた「幽霊の辻」など、東京にも流れてきている人気の演目。
松喬師だって、落語界の財産をよそには教えないと決めるには躊躇もある。
だが、一門の噺というものがあってもいいのではないか。念頭にあるのは、東京落語の「火焔太鼓」。
火焔太鼓ももともと、志ん生から志ん朝に伝わった噺。本来門外不出だったのだが、志ん生に教わった先代春風亭柳朝が、いろんなところに伝えてしまった。
志ん朝は嘆いていたという。なにしろ、兄の先代馬生だって遠慮してやらなかったぐらいの噺なのに。

松喬師、弟子にも稽古を頼まれたが、師匠の生きているうちは教えないのだそうだ。
死んだらやってくれていいと伝えてある。ただし、弟子だけである。
作者である小佐田先生にも断った。上演許可をもらいたい人がいても、許可しないことについて約束してもらったそうで。

したがって、大阪のみならず東京の噺家がやりたいと言ってもダメである。
やりたい人いるだろうなあ。
ご本人がやりたいかどうかは知る由もないが、柳亭小痴楽師なんかぴったりだが。

まあ、こういうのもあっていいと思います。
むしろ、明確に門外不出としておくことで、噺の価値が維持されるような気もする。

話は変わる。
今日日曜日は、なみはや亭で「喜楽館アワード」の初代優勝者、桂雀太師の高座を流していた。
雀太師、桂二葉さんのNHK受賞の際緘口令を破ろうとした件で大嫌いになったのだが、でも落語は上手い。
演目は、上方では珍しい「粗忽長屋」である。
ご承知のとおり、実に難しい噺。
客の頭に疑問を浮かばせず、爆笑を呼ぶあたりはすごい。感心しました。

(2023/12/18追記)

毎日新聞に松喬師の記事が出てました。

「武器は一つ」笑福亭松喬さん、盗人噺への思い 門外不出のネタも

 
 

作成者: でっち定吉

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