神田連雀亭ワンコイン寄席22(下・桂翔丸「お見立て」)

桂翔丸「お見立て」

本来トップバッターの翔丸さんが、トリになってしまう。
この人は、私は初めてである。
開口一番、「どうもすみません」。
11時過ぎに笑二さんから電話が掛かってくるまで、連雀亭の出番を忘れていたらしい。30分ぐらいで来れるのだから近くに住んでいるのか。
笑二さんの高座の最中に着いたらしいが、太っちょの翔丸さん、汗が引かないので昇市さんが出番を替わってくれた。
昇市さんのトリを楽しみにしていた皆さま、ごめんなさいと。

落語ファンにもいろんな人がいるだろう。師弟関係について、あまり関心のない人もいるはず。
だが私は、噺家の後ろに必ず師匠の姿を見る。誰それの弟子として、ひとりの噺家を捉える。
初めて聴く人ならなおさらで、それが最初のとっかかり。
で、初めての翔丸さんについて、師匠を間違え、竹丸師の弟子だと思い込んでいた。
「体形からして、師匠に似てるな」なんて。語り口もそっくりだと。
でも、後で調べたら幸丸師の弟子だった。
弟子の名前は、師匠が自分の師匠に付けてもらった独自の字を使って付けることが多い。
竹丸師なら、師匠・米丸から引き継いだ「丸」の字ではなく、「竹」の字を弟子に付けるのが普通。
一番弟子、「竹千代」なら普通の付け方だが、でも次の弟子に「笹丸」がいる。
竹から笹を連想したのだろうけど、字の引き継がせ方としては珍しい。
そういう名前の人もいるので、間違えてしまう。
そして本当の師匠、幸丸師は、なぜか弟子二人が「夏丸」「翔丸」だ。「幸」の字は?

昇市さんの掛けていたちりとてちんを引いて、リアルなちりとてちんの噺を。
You Tubeで春風亭昇々さんがやっている番組に呼ばれ、落語の製法通りに作ったちりとてちんを食わせられたらしい。
と言って、酒で流し込むなんて無茶はできず、なめる程度であったが。
食った感想は、まず「辛えー」。そりゃそうだ、唐辛子ひと瓶入れてるんだからと。

さて、コロコロした体形と顔の翔丸さん、この風貌で廓噺。
マジか。驚いた。
廓噺というのは、先に出た昇市さんのような、シュッとした(関西のおばちゃん風表現)人がやるというイメージである。

だが、廓噺でも爆笑系である「お見立て」は、演者のニンに合った噺のチョイスとしてはベストなのだった。
くねくねしながら喋り続ける喜瀬川花魁も、騙されやすい杢兵衛大尽も、主体性のない喜助も、みないい。

高座を目で見てより楽しいという噺家がいる。入船亭扇辰師などそうだが、翔丸さんの止まらない所作もまた、観客をトリップさせてしまう。
嘘が嘘を重ねて収拾のつかなくなる噺であるお見立てにおいては、嘘を嘘だと気づかせない「噺の中のリアル」が必要だ。
「花魁死んじゃったんです」というあり得ない嘘は嘘のままでいいのだけど、そんな嘘つく花魁いないよというのが、噺の最大の嘘。
絶えず動き続ける花魁を見ているうちに、噺の中の嘘がどんどんリアリティを持ってくるのである。
古典落語ならではのリアリティと言えましょう。

ハプニングによるトリではあるが、かなり満足しました。
新作もやる人のようなので、今後が楽しみだ。また連雀亭で聴けたらいいな。

作成者: でっち定吉

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