亀戸梅屋敷寄席11(上・三遊亭鳳笑「権助魚」)

しゅりけん/手紙無筆
鳳笑  / 権助魚
真楽  / 親子酒
(仲入り)
兼好  / 堀の内
竜楽  / 青菜

今月は2回目の亀戸。すっかり、地元みたいな感覚が芽生えてきました。
この日は主任が三遊亭竜楽師で、仲入り後のクイツキが三遊亭兼好師。
このお二人が揃って出ることはあまりない気がする。見逃せません。
見逃せないといいつつ、らくごカフェでは「花緑弟子の会」が同時間帯にあり、ちょっと気になった。そちらは500円。
まあでも、円楽党のお二人を聴きにいきます。
今月は7回落語を聴きに出かけている。ちょっと多過ぎるな。
ただし、料金は計5,200円。無料の会はなくて、1,000円と500円ばかり。

会場に着くと、なんと超満員。前座のしゅりけんさん、まん坊さんが追加の椅子を持ってくる。
兼好師の力なのかと思うが、主任、竜楽師目当ての人ももちろんかなりいるでしょう。
2年前から竜楽師を聴いているが、この短い間に人気がだいぶ上昇しているのではないかという気もする。実力派なので驚くには当たらないけれど。
ここ亀戸で、竜楽師の主任だった夏の暑い日に「8人」というのも経験したが。
そもそも、亀戸梅屋敷寄席自体、人気と認知が上がってきているようにも思う。

前座はしゅりけんさん。3度目。
「いいんだよ兄貴も読めねえから」で笑いが起きる。なら初心者なのかというと、そうでもない少々特殊な客に思える。
最近は前座噺としては廃れ気味の「手紙無筆」。
アニイが必死でないのがいい感じ。
個人的な意見なのだが、千早ふるの隠居は必死でもいいが、手紙無筆のアニイはさりげないほうが好き。
自分も無筆なのがバレても、まあいいやみたいな。

三遊亭鳳笑「権助魚」

続いて、先日2年振りにここで聴いて、変わらぬ衝撃を覚えた三遊亭鳳笑さん。
母校、常葉学園菊川の話。高校野球好きなのだろう、お爺さんの客たちがほうと声を上げる。
甲子園の常連だが、そのたびに寄付金を集められる。
寄付金は、2回戦を勝ち抜くと追加で集められるのだが、だからといって初戦敗退しても返してくれるわけじゃない。
使途不明金がどうなってるか。グラウンドや寮に使われるならいいのだが、調べにいった人の報告によると、監督のクルマが軽からBMに替わっていた。
「田舎者」の、ごく薄いつながりで権助魚へ。

いきなり目を剥いた、変態権助。マクラの鳳笑さんをスライドさせたキャラである。
面白いのは鳳笑さん、結構うろ覚えでこの噺に挑んでいるらしい。思い出しながらしゃべっている感が濃厚。
それは必ずしも悪いことではない。権助が、おかみさんに網獲り魚の嘘を喋る際、いかにも思い出しながら進めるので、妙なリアリティが湧いてくる。
落語というものは、口からすらすら出てくると楽しいのかというと、別にそうではない。あえてこうする人もいる、高等技術のひとつ。

面白いのは、魚屋のくだりがない。そこを丸ごとカットして、いきなり権助帰ってきて、おかみさんに釈明するのである。
こういう権助魚は初めて聴いた。噺によっては省略してしまったほうがいい場合もあるが、魚屋の場面はウケどころと思うので、勇気があるな。
だが、「お前出てったの2時だよ。まだ2時15分じゃないか」で笑いが起きなかった。
鳳笑さんはそんなことでは全然動じないが、ここウケなかったらもうウケどころないのではないかな。
後で、あ、そうかと思う。魚屋のシーンをカットしてしまったので、権助の行動に時間的連続性がなくなってしまったのだ。
本当に時間が経過していてもおかしくない構成になってしまったために、客の意外性がなくなってしまったのだろう。
噺の演出というのは難しいね。

などと言いつつ、別に不満があったわけではない。うろ覚えがいい感じにハマる、楽しい一席でした。

続きます。

作成者: でっち定吉

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