亀戸梅屋敷寄席11(中・三遊亭兼好「堀の内」)

仲入り前は、まったく初めての三遊亭真楽師。
独特のペースで喋る人。巻き気味に喋って、独特の高揚感を出そうとするようだ。
「こんなところに豚連れてくるんじゃねえ」「犬よ」「俺は犬に言ってるんだ」というおなじみの小噺を、登場人物を当代円楽、好楽、渡辺直美にして語る。
ちょっと寝てしまったのだが、大変ウケた禁酒番屋でありました。

仲入り休憩の際、楽屋に入る三遊亭ふう丈さんをお見かけした。落語協会所属の二ツ目さん。
両国寄席にも顔付けされているから、円楽党とは比較的近いのだろうが、何しに来てるのだろう? しかも着物姿である。
後ろ姿だけだが、ビリケンさんを見間違えることはないと思う。
考えられるのは、兼好師か竜楽師に、稽古を付けてもらいに来たということである。
でも、ふう丈さんはバリバリの新作派。やっぱりよくわからない。
この日は出番のない円楽党の二ツ目さんも2人来ていた。鳳笑さんと私服で立ち話をしているのは、弟弟子、先日梶原いろは亭で聴いたばかりの鳳月さん。それから、兼好師の惣領弟子の兼太郎さん。
この人たちも、もしかすると稽古を付けてもらうのかもしれないと思った。

三遊亭兼好「堀の内」

兼好師、おあと竜楽師をお楽しみにと語るが、亀戸のこのクイツキの出番は、引っ掻き回して大ウケさせても構わないポジションらしい。
このポジションに入ると、多くの人が爆笑噺を掛ける。竜楽師もそうだった。
兼好師は昨日、久々に渋谷に出向いたそうな。東京かわら版によると、広瀬和生プロデュースの、萬橘師との2人会だ。
地下も地上もカオス極まる渋谷は、ほんの少々来なかったうちに、どこをどう歩いたらいいかわからない。
現在住んでいる北千住と比較して、渋谷をdisる兼好師。
北千住も渋谷も治安が心配だが、北千住の犯罪は、腹が減ったとかそういう理由に基づくものなので、ひったくりに気を付ければいいんだそうだ。それに比べると、渋谷は危険性が想像できない。
しっかり北千住もネタにする。
渋谷で迷うのは粗忽ではない。亀戸駅からここに来れなくなると粗忽ですと振って、本編に入る。
「お前さん、起きとくれ」
「ン・・・芝浜かい」
(客、爆笑)

まったくおんなじギャグを、神田連雀亭で柳家小太郎さんから聴いたばかりなので、倍笑ってしまった。
どちらかが先というのではなくて、同時多発的に生まれたギャグではないかと想像する。
その爆笑堀の内は、構造が実にシンプル。
方向を間違えて浅草へは行かないし、人に道を訊くのも一度だけ。
ただし、クスグリは豊富。
この主人公、粗忽が過ぎて同じことを何度もするのが特徴だが、そこを強化する演出。
猫で顔を拭くところまでは普通だが、おかみさんが猫に向かって、「お前も毎日捕まるんじゃない」と叱っている。
カカアの腰巻ぶら下げて怒って帰ってきて帰ってきた亭主、隣の家にも毎回間違えて飛び込んでいるらしい。最近では、隣のかみさんも楽しみにしてるんだそうだ。

非常に新鮮なクスグリいろいろ。繰り返し掛けられてきた堀の内にも、まだまだ工夫の余地があるものだと感心する。
基本的に「そんなバカな」を連続させる噺であるが、そのハイパー粗忽ぶりを追求していくことで、逆に整合性が生まれてくるのである。
兼好師、流れるような語りなのだが、流れ過ぎて頭に入らないということはない。クスグリごとにしっかり笑わせてくれる。
だが、こうした部分だけで面白いのではない。
兼好師はやはり、トータルプロデュース能力に極めて長けた人だ。
数々のギャグをぶつけながら、しっかりと、噺の手綱を緩めることはない。
楽しいシーンが描かれる中で、実に冷静な、全体を俯瞰して眺めている演出家、兼好師の姿も浮かんでくる。

客もまた、部分部分ではなく、全体を俯瞰して楽しませてもらうようである。
とても楽しい一席でありました。

続きます。

作成者: でっち定吉

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