柳家花緑弟子の会10(中・柳家圭花「山崎屋」)

義眼の酔っ払いを語る際に圭花さん、「花いちアニさんは酔っても決して乱れません。唯一尊敬できるところです」だって。
続いてその花いち師。

昨日は久喜らくごでお世話になっている、馬太郎、ふう丈、白浪の4人でお寺に掃除に行ってきました。
仏像を磨いて、お墓も掃除して。だから今すごく徳を積んでいます。
特にふう丈さん、今坊主ですから、なんだかぴったりでした。

今日は圭花さんと二人で。圭花さんは私よりひとつ上ですね。だから先輩です(トシの話)。
よく一緒の会に行くんですよと、夏に屋外でばんばん虫が当たる会の第1回に行った話。
世話役が最後に、客に向かって「面白かったですか。面白かった人は拍手をお願いします。そうすれば来年以降もありますから」と二人がいる前で言う。
一番手を叩いていたのは演者の二人。でもおかげで続いている。
毎年二人で30分ずつやっていたが、今年は趣向を変えて20分ずつにして、残りの20分を謎掛けにする。
ぼく謎掛け得意じゃないよというが、圭花さんは大丈夫ですアニさんと。
本番が始まると、圭花さんは司会だと言い張って、客から拾ったお題をばんばん花いち師に解かせる。

この後、ちょっと変則ですが圭花さんがもう1回出て、それで仲入りです。
仲入りありますので。先月、仲入り入れたらお客さんがふたり帰っちゃったんですよ。
仲入り休憩ってよくわからないかもしれないですね。お笑いライブなんて行くと仲入りないですしね。

ペットの話を振る。ぼくはインコを飼っています(オウムだったかな)。可愛いですよ。
肩に乗るんですけど、ぼくが落語の稽古を始めるとよそに行ってしまい、終わると戻ってきます。

ペットの話だから新作かと思ったら、元犬。
先週いろは亭で立川幸弥さんが元犬を掛けていた。
俺のほうが面白いと思った? そういうタイプの人じゃないと思うけど。
花いち師の古典は終始力が抜けていて面白い。
文法は落語で、そして改作でもなんでもないのだけども、なんだか違うものに聴こえてくる。

人間になったシロ、やたら走り回る癖があるのが工夫。
他の元犬より、動物的要素強め。すぐに口にくわえたり。
シロの二人の兄は、裸でもって縁の下をうろうろしてるんだそうだ。

独特の語り口と、顔をゆがめる所作が面白いのだけども、展開はわりと普通。
と思っていたら、ラストに強烈な改変が待っていた。
ネタバラシはさすがにしないけども、三三師の元犬の衝撃に匹敵する。
ギリギリまで書くと、口入屋に奉公人を頼んでいた隠居は、シロの出自に先刻気づいているということ。
そして奇矯な行動を繰り返すシロに、お前さんはここで働きなさい。よそではダメだ、ここがお前さんに最適な働き場所だと。
おもとさんだけでなく、他にも奉公人がいろいろ出てくる。

ラストが強烈なのに、あえて終盤まで骨格自体は普通のものにするんだなあ。
ちなみに語り口はかなり新作っぽいのだが、それでもクスグリを無駄打ちしないのは柳家らしい。
二ツ目さん、誰か教わったらいいのに。

花いち師は30分の高座。
続いて圭花さんが再度登場。演歌歌手から着替えている。

昔、吉原は北国(ほっこく)と言いました。北にありますから。
これに対して品川はなんぴんなんて言いました。
吉原には駕籠で乗り付けてはいけないという決まりがありました。脚抜けとかあったんでしょうね。
駕籠で入れるのはお医者さんだけです。
それから花魁道中。高いぽっくりを履いて歩きます。

駕籠のくだりでは、季節的に蔵前駕籠かと思った。
珍品というほどでもなかろうが、圭花さんが手を出すほどには十分珍しめの噺。
しかし山崎屋。
フリがたくさん必要なのだ。ほっこく、駕籠、道中、そしてサゲの「三分で新造がつきんした」も入れとかなきゃならなくて、やや面倒。

大ネタだ。落語研究会でもって、雲助、さん喬両師が出していたのは聴いたが、これも珍しい噺。
相変わらず、珍しいのばかり拾ってくる圭花さん。
廓噺連続。
しかし、この山崎屋は珍しさで拾ってきたにしても、中身の詰まった立派な大ネタだった。
それこそ、雲助師を聴いているような満足感。若いから持ち味はだいぶ違っているが、その分若旦那に感性が近い。

山崎屋は、大旦那をいっぱい食わせて花魁を妻にしようというピカレスクな噺。
といっても、罪のないウソである。まあ、妾をこっそり囲っている番頭のほうは、業務上横領罪で罪たっぷりだけども。
番頭の作ったストーリーに合わせて、大旦那が見事に引っ掛かるのを楽しむ。
ストーリー上の仕掛けを順に踏んでいくたびに、客から笑いが起こる。この噺を語るのに作為はいらない。
珍品から順に拠っていく方法論だとしても、圭花さんはいい噺を見つけたものだ。

山崎屋で描かれる、人を欺く戦略の数々。

  • 番頭に協力させるための若旦那が握った弱み
  • 若旦那に月末の掛けを取りにいかせる
  • カシラ宅に掛けを置き忘れ、カシラはすぐに追いかける
  • 花魁は身請けをして、カシラの家で花嫁修業中
  • 大旦那にカシラの家にお礼に行かせる
  • ケチの大旦那に、10両の目録とにんべんの切手を出させる。カシラは切手だけ選ぶからご安心を
  • そこに茶を出す花魁。大旦那が気に入ることまで読み込んでいる
  • 持参金にも目がくらむ

段階的に戦略をクリアしていく楽しさよ。
ところで圭花さん、若旦那に「そんなに上手くいくか?」と尋ねさせ、番頭に「ほかにもいろいろ手はあります」と答えさせている。
これはこれでいいけど、もしかしたら「他に手段はない。これが上手くいかないと大失敗」という設定のほうがスリリングかもと思った。

キックバックとか、シンガポールのルフィ(フィリピンだと思うけど)とか、話題のフレーズもちょっとギャグにする。
入れて崩れる芸ではないから立派。もっともその分、入れた効果も薄いのだけど…

続きます。

 
 

作成者: でっち定吉

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