柳家花緑弟子の会10(下・柳家花いち「宿へゴースト」)

仲入り休憩終えてもう一席。

花いち師、食べられる花「エディブルフラワー」の話題を振っていたが、どこへどうつながったんだっけ。
名前に花が入ってますのでということだったが。
そして、ちょっと2分で終わる落語をしますと断って、「寿限無くん」を語りだす。
先週聴いたばかりのフルバージョンではない。本当に2~3分でサゲがあっておしまい。

ちょっと正月にこれ喋るもので。
初席は、本当に時間ないんですよ。今年も浅草で、おさん、緑君と交互出演です。
私が一番下なんで、出る日を任せられてますが、3年連続で初日に出してもらうことにしました。

花いち師、たびたび聴いていても、その人間としての内面がうかがえない人。
といって、プライベートを入念に隠しているという気配もまるでなくて。
私生活のマクラもあまり振らない。結婚しているのも、エアコン設置していないのも、トークで他の噺家から明かされていて初めて知った。
といって、他の噺家から私生活を明かされうろたえることも一切ない。不自然なぐらい自然体な人。
そこがまた、面白い。

山奥の宿に、ひとり旅の男が山道を歩いてやってくる。
やっと着いたと思ったところで女に声を掛けられる。女は手を重ねていて、幽霊であることが一目瞭然。
あたしは10年前、この宿でカップルで一泊した。喧嘩して、帰ると言って山道を下りていく途中で転落死したのだ。
宿に未練があって成仏できない。どうか一緒に一泊して欲しい。
なにしろこんな山奥に、一人で来る淋しい男の人はそうそういない。あなたしかいない。

もう、最速で幽霊登場。いかにも東京の新作落語。
幽霊がいる世界を最初に提示してしまう。
こういう世界、大好物。
未聴の噺で嬉しい。タイトルはなんとなく知っていた。

男は断るが、とり殺すと脅迫されて同意する。同意もまた、早い。
宿のババアは、宿帳をめくるのにやたらと指をなめる。落語の客の思いが不自然のピークに達したときに、男が尋ねる。そんなに水分がないんですか。
いやいや、今までハッピーターン食べてましたからな。あの魔法の粉はやめられませんな。
幽霊の女の名前を訊くと、亀田せいか。

花いち師の抑揚のない語りは、独特の新作落語に非常にマッチしている。
たまりません。

食事にするが、幽霊の女がいちいち、食材の霊を見てしまうので食欲をなくす。
活け造りの死んだ瞬間まで実況する。山奥になぜ活け造りが出てくるのかはさておき。

コウモリバタバタで夜が更けて。
今度は男の幽霊も登場。10年前に女が一緒に泊まった相手。

カラスカアで夜が明けて。
人間の男は幽霊のバカップルに追い出され、廊下で寝ている。

実に楽しい一席。披露目では出したのだろうか。
バカな登場人物がわちゃわちゃやっているが、それをツッコむ視線もあまりちゃんとしていない花いち落語。
実は八っつぁんとたぬきの会話の延長線上にある。
そして、災難に遭う男、まるで気の毒ではない。
こんな経験したら楽しかろう、とかそういうことでもない。「こういう目に遭う人」にしか見えないのだった。
そして花いち師は、男が旅館にひとりでやってくる理由とか、そういうあまり意味のない部分に力を注がない。
これ、創作の参考になると思うけど。

頭を下げた花いち師、圭花さんを呼ぶ。
すでに私服の圭花さんが登場。

「先ほどは見事な山崎屋で」
「この季節にやる噺かわからないですけどね」
「あの着物、好きだよね」

来年は、花ごめの真打披露もあります。花緑弟子の会、今後にもご期待くださいと。
その後、次々真打になっていきますからね。このあたり弟子が固まってますから。
緑太、花飛、吉緑です。
圭花さんはその後ちょっと空いている。

最後に皆さま方の健康を祈り、三本締め。
いい感じに締めた。
今後もこの会、真打二ツ目のどちらも好きな人のときに狙って来たいものだ。

5階から階段を下りる。もう4時だが、2階のボンディへ行列ができていることはわかっている。
この狭い階段に巨漢の男が列を作っていて、通り抜けができず困った。

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作成者: でっち定吉

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