落語における「寄席」とは(下)

拡張版の寄席

東京では永谷の演芸場(上野広小路、両国)に、神田連雀亭、梶原いろは亭なども寄席といえる。
いずれも定席興行をしている。
初心者など、このあたりが寄席四場(あるいは五場)とどう違うのか、どう区別されているのかがわからないのではないか。
実は、差は大してない。規模は違うが、寄席四場のひとつである池袋演芸場だって結構狭い。
寄席四場は組合を作っていて、顔付けのルールなどもすべて異なるのだが、それ以外もやってることはほぼ一緒。
上野広小路亭では、芸協の披露目だって行われる。
なのだが、このあたりで一応の区切りを入れておかないと、この先どんどんカオスになっていくこともご認識を。

微妙なものもある。
「らくごカフェ」「ばばん場」「道楽亭」「墨亭」「にっぽり館」「ひらい円蔵亭」「駒込落語会」など。
毎日やってるらくごカフェなど、寄席と考えて差し支えはないかも。
ただ、中身は全部落語会や講談、浪曲の会。
施設自体は、みな寄席みたいなもの。
「寄席小屋」「演芸場」といえば間違っていないと思うのだが、定義をことさらに増やしてもいけない。

落語協会直営の寄席もある。土日にやってる黒門亭。
ここは施設の名称は付いていない。「落語協会2階」としか呼ばれない。平日は稽古場だ。
落語会(所属会員の自主公演)も開催されるが、その場合は黒門亭とは呼ばない。

東京以外にも寄席はある

落語用の常設の施設であり、かつ定期的に落語をやっているなら立派な寄席。
この意味では、東京以外にも寄席がある。
横浜にぎわい座も寄席といえるが、定席は月の7日ぐらいまでしかやっていない。
あとはすべて落語会。ここには小ホールののげシャーレもある。
ここの定席は、落語協会と落語芸術協会混合なのが珍しいのだが、両協会の公式サイトではなぜか無視されている。
数が少なくても、寄席における定席は極めて大事な存在だと思う。

それから仙台に、これは落語芸術協会の施設である花座。
2021年に「水戸みやぎん寄席」ができている。常設の施設のようだ。
これで「定席」が実施されれば、100%寄席といえるが、現状は独演会のみ。
たくさん東京から呼ぶわけにはいかないので仕方ないだろう。

大阪には天満天神繫昌亭と、米朝事務所の運営する動楽亭。
神戸新開地に喜楽館。
天満天神繫昌亭は、大阪に復活した待望の寄席であった。この場合の寄席は、施設の意味。
では繁昌亭の前はどうしていたかというと、教会(協会の間違いではない)で「島之内寄席」をやっていた。
これはもちろん、興業についた名前。
興行の名称である寄席は、施設の寄席ができると消滅することも多いのだった。

(追記:名古屋の大須演芸場が抜けていました。毎月7日までは定席があります)

常設でなくても寄席がある

寄席とは、施設名称であり興行名称である。この点がややこしく、混乱の元となる。
施設自体は多目的なのに、運営している中身が寄席という不思議なものも存在する。
前述の、繁昌亭開業前の「島之内寄席」もそう。ますます寄席の定義が難しくなる。
今あるのは、こんなの。

  • 亀戸梅屋敷寄席(会場は亀戸梅屋敷の「文芸館」内ホール)
  • 四の日寄席、巣ごもり寄席、立川流すがも寄席(会場は「スタジオフォー」)
  • 立川流日暮里寄席(会場は「日暮里サニーホール」)

亀戸梅屋敷なんて、寄席の実績により最近は落語会が増えた。独演会によく使われている。
寄席の貸公演みたいになってきているが、でも施設は別に寄席ではない。

歴史を振り返ると、「寄席発祥の地」は下谷神社であって碑まで設置されている。
初めて生まれた寄席は、施設名称ではなかったわけだ。ここからすでに混乱が始まっていたのだった。

他に、常設の寄席小屋内の、ひとつの興行に名称が付いている場合もある。
円楽党の「両国寄席」(毎月15日まで夜席のみ)なんて、施設名称である「お江戸両国亭」と別に名称が付いている。
貸席である落語会のために「お江戸両国亭に行った」というのと、定席に出る三遊亭兼好師が聴きたくて「両国寄席に行った」とは、だいぶ意味合いが違うのであった。

寄席ではないけど寄席っぽい

「草津温泉らくご」は、芸術協会の二ツ目主体で毎日実施されている。
マクラでもよく聴くところ。
落語の会場は、「湯もみショー」をする湯である。
落語のための施設でも何でもないし、落語の定席が行われているわけでもない。
でも毎日やってるのだから落語会場として無視はできそうにない。
毎回ひとりが出てくる(独演会といえる長さではない)。

「こまむ亭」は横浜の上星川の居酒屋。
秋葉原の「やきもち」と同じような、落語会をたびたび開催している飲食店。

草津温泉もそうだが、このようなたびたび落語を催している別の目的を持つ施設は、だんだん寄席っぽくなるようだ。
だが、施設も中身も、寄席とは到底言えない。
でも寄席に含めるべきという気もする。不思議だ。

雑司谷拝鈍亭は、本浄寺というお寺にある立派なホール。
たびたび落語や講談、浪曲の会が催される。
個人的にはこれだって寄席の一種の気はするが、ただ名前のとおり本来は音楽堂なのである。
ハイドン先生にちょっと遠慮。

落語以外にも寄席がある

吉本や松竹の劇場も寄席と呼んだりする。
落語が出ても出なくても、寄席。
東京では、浅草演芸ホールの上にある東洋館も寄席。正月だけ落語協会の興行がある。
浅草にある、浪曲の寄席は木馬亭。たまに落語会も催される。
講談が常にかかっている寄席小屋はない。以前は「本牧亭」があり、落語でも使っていた。
神田伯山先生も、もっぱら落語芸術協会の興行において聴くことになるわけだ。

まあ結局、余計なんだかわからなくなったのではないでしょうか。
調べ物でやってきた方にお詫びします。
それだけ「寄席」は多義的だということだけご認識いただければこの上ない喜びです。
まあ、ぜひご自分の目でお確かめを。

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投稿日:
カテゴリー: 寄席

作成者: でっち定吉

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