一席の落語は何分ぐらいが妥当だろうか

正月の寄席は10日まで「初席」。
顔見世興行であって、非常に多くの芸人が出る。
たぶんもう、20年近く行っていない。当然、2016年に始めた当ブログでは一度も取り上げていない。
無駄な混雑がイヤなので。
といっても、もう3連休明けの9日、10日は空いているだろう。そろそろ久々に行ってみようかと思ったりもする。
11日から20日までは「二之席」。これも行ったことがない。
ただ、初席よりはだいぶ普通の寄席に近いと思われる。

私は行かないからと言って、正月の席の存在を馬鹿にしているわけではない。
やはり年1回、芸人をずらりショーケースに飾ることは重要だ。地方のプロモーターにとっても。
ただし、持ち時間は非常に短いので、どうしても小噺メインとなる。
小噺だって、上手い人のものは楽しい。これを機に、楽しかった師匠の、今度はトリの席に出向いてみてはいかがでしょう。

さて初席は、持ち時間ほんの数分というのもある。次から次に出るからして。
暮れに二度聴いた柳家花いち師も、初席用に短い「寿限無くん」を作っていて、試しに出したのを聴いたばかり。
古典落語だと、「味噌豆」「からぬけ」「たけのこ」あたりはかろうじてできると思う。
あとは漫談。最近の初席の様子を知らないが、どうだろう。普段の寄席での漫談派(馬風師など)が減っている印象があるのだけど。

正月は特殊だが、通常の寄席の持ち時間はおおむね15分程度である。1時間に、色物さん入れて4人というのが標準。
末広亭はこの基準より短めで、池袋、特に落語協会の席は長めである。
時間によって、どこでサゲるかも変わってくる。

15分あると、マクラをしっかり振って客をあっためた上で本編に入れる。
寄席の定番演目だったら、マクラの後、10分強でだいたいできる。
トリはおおむね倍の30分。芸協の場合、トリの持ち時間が若干短いこともあるが、でも印象はさして変わらないだろう。
30分あると、マクラも大作が振れる。
ちゃんとストーリーを持った噺も出せる。人情噺も当然ここで出る。

30分(実質28分)は、NHKの日本の話芸の尺でもある。
昨年小平に収録を聴きに行ったが、三遊亭竜楽師と柳家権太楼師は、確か45分ぐらい喋っていた。適当に長く喋っているわけではなく、切りどころには配慮しているようだけど。
いっぽうで、テレビでは短めの落語も出る。といっても、NHKの演芸図鑑と、あとごくたまに流れる笑点ぐらい。
演芸図鑑はほぼ12分で統一。二ツ目登場の際は複数まとめられ、1本7分ぐらいだったりする。
こういうものが物足りないかというと、決してそうでもないのだった。マクラを端折ると、寄席の定番のネタもちゃんと入る。
NHK新人落語大賞の場合、11分がMAX。
寄席の普通のネタなら全然困らないのだが、二ツ目の場合、とっておきの噺を大会で出したい。
なので編集に苦労したりする。ダイジェスト落語では戴冠は無理。
NHKは新作が強いが、これも理由のひとつでは。新作だと最初からこの尺に合わせて作れるからムダがないのだ。

いろいろな尺があるが、落語の一席は、何分がいいのだろう。
前座さんは短い印象があるが、でも「子ほめ」「道灌」「牛ほめ」あたりの定番前座噺は、ちゃんとやると意外と長かったりして。
マクラがないから気づかないのだけど。
私は池袋通いが長かったためか、20分弱の落語が一番好きかもしれない。
この尺があると、マクラはしっかり振って、かつ噺のほうは切らないで収まるものが多い。
「替り目」だって、前半は編集しなきゃいけないが、元帳見られたあとのうどん屋のくだりまでしっかりできる。

寄席では、立前座が時間を取り仕切っている。
真打の師匠に向かって、「後の師匠が来ていないので長めに」とか「押しているので短めに」とか。
柳家さん遊師は立前座時代、気に入らない師匠には「短めに」と伝えていたとか。

さて、ひとつ思ったのだが、目安としての時間はもちろん大事。
そして寄席に出る以上、時間に合わせてやるのはプロとして当然。
ただ、別の基準があってもいいのでは。

噺家は高座に上がってから、やる噺を決める。
とはいえ、袖で決めていることも普通。上がってから決めるにしても、すでに2~3本に絞り込んでいる。
そんなときは、「それはわかるけど、俺は今日、これをやりたいんだ」と立前座に伝えてもいいのではないかと。
噺には、それに向いた時間がある。
7分で満足する噺もあれば、18分あればいいところまでやれるのにというものも。
演者の自主性を尊重したほうが楽しい気がするのだが。
立前座だって寄席運営のプロなんだから。

客が多い寄席だと、高座ごとに客がなだれ込んでくるので、前座さんも時間を取らねばならない。
そして、客の反応がいいとつい熱が入って、落語が延びたりなんかして。
実際にそういう寄席は、見事な色物さんのおかげで調整できているのであった。
色物さんにも改めて感謝。

作成者: でっち定吉

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1件のコメント

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