隅田川馬石独演会@棕櫚亭(上・柳亭市若「饅頭こわい」)

平日昼間の生田寄席を今年の初動にしようと思って電話したら満席で、祝日の鶴光一門会に出向いた次第。
だが結局キャンセル待ちが取れたので、中1日で出かけます。
生田寄席のスタッフは、なにからなにまで親切です。

生田寄席は年5回やっている。
1月は隅田川馬石師。
この師匠のねっとりした口調が、最近妙に脳裏に浮かぶ。
ねっとりってあんまり褒めてないかもしれない。「粘っこい」でもないし、なんて言ったらよく聞こえるだろう。

ちなみに生田寄席、3月は扇遊、5月が寿輔、9月が文菊と、先まで決まっている。
会場の、古民家を改造したカフェ「棕櫚亭」は小田急読売ランド前駅からすぐ。
棕櫚はしゅろ。
駅の改札の前に、知った顔が。
着物を着た、柳亭市若さん。知らなければ相撲取りに見えなくもない。
一緒に立っているのは、後で知ったがお席亭。
二人で馬石師のお迎えに上がったらしい。馬石師、この電車には乗っていなかった。
棕櫚亭の列に並んでいたら、次の列車でやってきた馬石師が到着。
高座では語らなかったが、棕櫚亭はたぶん初めてだと思う。

棕櫚亭は3度目、生田寄席は一昨年5月の小せん師に次いで2度目。
開演まで30分近くあるのに、大盛況。まあ、詰めに詰めた感じ。詰め放題。
狭い会場の後ろまで目一杯使って、70人近く入ってたんじゃないだろうか。
これでキャンセル待ちが取れたって、一体どういうことだろう。
席亭も挨拶して開演。

饅頭こわい市若
鮑のし馬石
(仲入り)
井戸の茶碗馬石

柳亭市若さんは地元の人。
昨年こちらで、落語協会の二ツ目の会、「五十歩百歩」にも寄せてもらった。
今日は勉強に来たわけではなく、恐らく馬石師の希望で、前座代わりに顔付けされているようだ。
馬石師にも弟子がいるのだが、昨年のばばん場にもこちらにも連れてきていない。

市若さん、人の会なのにいきなり30分やっていった。楽しいので全然いいけれど。
客席を見回すと、おなじみのみなさんがいらっしゃいますと常連にご挨拶。
でも、自己紹介はしっかりする。
柳亭市若です。前座、二ツ目、真打の階級の、二ツ目です。
市若が初めてという方、手は挙げなくていいですけどね、そう言うと9割上がって凹むんで。
階級社会ですので、ひとつ違うと身分がまるで違います。でも、馬石師はとても優しい師匠です。
モノマネで、会を頼まれる経緯を語る市若さん。
もっと強く言ってくださっていいんですけどね。
私の師匠市馬も優しいんですけど、厳しいときは厳しいです。
師匠に訊いたんです。前座は虫ケラということになってますけど、では前座見習いはどういう存在なんでしょう。
「ミトコンドリアだな」。
なんでもミジンコと間違えたみたいです。

入門する前は会社員でした。コンブのネバネバ成分を活用する研究をしていました。
スベるものの研究をしていたわけです。
市若さんは、落語界唯一のオランダ出身。師匠には「いいところだな、五反田は」と言われる。
そして職務質問のネタ。

若い衆が集まっている。兄貴の手伝いをした手間賃として、いなり寿司が大量にあるから食えと。
ただ、酒がない。兄貴も言ってたよ、お前らは酒飲むと喧嘩したりロクなことしねえと。
そこへ、真っ青になった鉄っつぁんが駆け込んでくる。
寄合酒かと思ったら、饅頭こわいだった。最近、やたらと出くわす気がする。
結構好きな噺ですがね。
ここから「怖いもの」の話にまっすぐ入る。だから好きなもの、嫌いなもののくだりはない。

マクラ長めとはいえ、どうしてこれで30分になるのだろう? 不思議だ。
市若さんは基本的に、語りがふざけている。
ふざけ過ぎているぐらいなのに、既存の落語体系に収まるふざけ具合という、実に絶妙なバランス。
これはもう、神のバランス。

きゃあろ(蛙)の嫌いな男。
あの、ゲロ、ゲロという声を聞くと、二日酔いの朝を思い出す。ウップ。
パブロフの犬、というツッコミ最高。

ワイガヤ噺はキャラを深掘りしなくてもいいわけだが、あえてする。
長短でおなじみの長さんを仲間に加える。
長さんがゆっくり語るアリのエピソード、空気が変わって実に楽しい。

鉄っさんがすでに登場しているため、嫌味な男は源さん。
源さんが四つ脚ならなんでも食うと豪語するので、ならコタツ食えるかと吹っかけるのも、先に出た長さんだった。

そば饅頭、くず饅頭、10円饅頭に、どら焼きも。
どら焼きは市若さんが和菓子屋さんに義理立てしたみたい。
「熱い茶が怖い」のあと、実に自然に噺は続く。
すぐに作ったサゲを迎えるので、軽いシャレだ。

市若さんは新作や三題噺で頑張っているが、最終的にはおもしろ古典で売れる人だろう。
それも、ギャグ路線でなく、今のスタイルとちょっと違うユーモア路線で収まる気がする。

続きます。

 
 

作成者: でっち定吉

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