馬遊・喬太郎落語会(下・ファインディング馬遊by白鳥)

らくごカフェの熱い会に戻ります。
喬太郎師の次は、ゲストの三遊亭白鳥師。
今日は馬遊が大きな声で喋っていて本当によかったです。
本人と話をしましたけども私より3つ下、58歳ということで(Wikipediaによると57歳だが)、それにしては見た目が川柳川柳みたいですけど。
なぜ私がゲストに出てきたかという話をいたします。
私と馬遊はもう長い付き合いです。一緒に前座修業し、二ツ目になってどちらも仕事がなかったんです。
なにしろ私は変な新作ばっかり作ってましたから。

このあたりのエピソードは、白鳥師「富Q」からなんとなくうかがえる。
それにしても白鳥師、この日だけの漫談をさっと作って出してくるのはすごい。
一度You Tubeでもって、予定していた噺を引っ込めて仲間たちにどんなひどい目に遭ったかという話をしていたのを聴いたが、生で聴けるとは感激。

コロナ禍の際は、馬遊と会うことはまったくなかった白鳥師。
だが最近、柳家喬之助と楽屋で会ったら、大変ですよ、馬遊師匠が倒れましたと聞きまして。
なんでも、エチカを歩いていてひどい腰痛で倒れて救急車で運ばれたそうなんです。
本人に電話したら、さすがに元気ありませんでした。なんで出かけてたんだって訊いたら、アニさん、ぼくだって忙しいんですよと。
その後、寄席で馬遊に会った三遊亭金八から報告がありました。馬遊師匠から死臭がしましたと。
これは大変だと、自宅を訪ねることにしました。
昔一度だけ、馬遊のアパートに行ったことがあるんです。その際は、2階の左右どちらかの部屋だということだけ知ってたんですね。
あたりを付けて選んだほうの部屋をノックしたら、ガイコツみたいな男が出てきて怒鳴られました。それ以来です。
喬之助と、それから柳家三語楼を連れてアパートを訪ねました。三語楼は奥さんが「いがぐみ」やってるけど自分の旦那は会に呼ばないという人ですね。
もう、どちらの部屋かわかってますからちゃんとしたほうをノックして。
そうしたら、いないんです。出かけてるのかなと。
でも、ガチャガチャやってみたら開いたんですね。
馬遊はいません。ただ、もう一間あって、戸が閉まってるんです。
三語楼に、お前開けてくれと言うんですけど拒否されまして。
とりあえず落ち着こうと、いったん部屋を出て飲みに行ったんですね。知ってる店はみな満席でした。空いてるお店は、文蔵の色紙が飾ってあったのでやめて。
落ち着いたのがまずいもつ焼き屋です(名前出してた)。
そこで気を落ち着けてから、もう一度アパートに行ったんですよ。
今度は恐る恐る奥の部屋を開けてみましたけど、不在でした。
そこで安心して、3人で記念撮影したりなんかして。
でもやっぱり心配なので、帰るまで待とうということになりまして、もう1回まずいもつ焼き屋に行きました。
頃あいがいいころに、もう一度行ったら明かりがついてるんです。そして、鍵が閉まってます。

この後どうなったんだっけ? 忘れちゃった。まあ、思い出さないと気持ち悪いということもないけど。
確かもつ焼き屋には、もう1回か2回行くのだ。
とにかく、白鳥師の仲間に対する熱い思いはしっかり伝わってきました。
そして馬遊師の顔を見るため、ゲストとして俺出るよと言ったのだ。そして袖でずっと話をしていたと。

仲入り後の一席は、釈台が出ている。喬太郎方式。
メガネを掛けていない馬遊師が登場。
長い噺で、さすがに正座が辛いのでという釈明。
やる噺は富久ですとのこと。
年末年始の噺はいろいろありますけど、富久嫌いで、ずっと掛けなかったんですね。
主人公は芸人の久造です。この人が酒でしくじって仕事がなくて、ずっと自分自身に被るんで、それで避けてきたみたいです。
ただ、いつも来てくださるお客さんに、師匠は富久持ってますかと訊かれて。それでやってみることにしました。

これが70分か、75分ぐらいあった。
客も疲労困憊。つまり、富久という名の、耐久。
この後予定されていた、白鳥、喬太郎のトークも、2分で切り上げる羽目になる。夜の会もありますのでと。
二人の師匠も、まだ終わらないのかとびっくりしたようである。
蔵出しなので、もたついてしまったのだろう。

しくじった旦那の町内が火事だと駆け付ける場面でもってすでに、「この後浅草に帰って長屋を焼け出されて、それで富の場面があって悪態ついて、最後に富札が見つかって」と考えたら正直うんざりしてしまった。
教えてくれた人間国宝・雲助師であれば、場面場面に久造の悲哀やちょっとした喜びが漂うだろう。だから持つけども、いかんせん馬遊師ではそういうムードはなにもない。
確かに、芸人の悲哀と屈折は漂ってきたが、しんどかった。

なのでもう来たくないかというと、決してそうでもないのだった。
最後のほんの2~3分のトークからも、二人の師匠の仲間想いが伝わってきて、グッと来たのです。
それだけ、馬遊師に人間的な魅力があるということでもある。それはわかる気がする。
この不思議な会が続いている理由も、語られなくてもよくわかった。そして馬遊師の喬太郎師への感謝も。

喬太郎「先ほど白鳥師が語ったことは全部真実です」
白鳥「馬遊も、もう見られないかもしれません」
喬太郎「まあ、我々も還暦なんで同じことですけどね」

というわけで、2月はこの会ないけど、またなんとか潜りこみたい。

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作成者: でっち定吉

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