国立演芸場寄席@内幸町ホール(上・瀧川鯉橋「笠碁」)

国立演芸場(建替え中、と言いたいが入札自体不調続き)の代替開催は、2月は内幸町ホール。
ちなみに3月は紀尾井小ホールに戻る。花形演芸会(スペシャル)も25日にやるらしい。

21日は芸協の初日(5日間)。主任は三遊亭遊雀師である。
遊雀師、ずっと聴きたかったのだけども2年空いてしまった。
国立ではよく使う手だが、仲入りから入って3割引き(1,540円)。今回もそれで。

2時5分頃にホールに着く。雨だが、新橋駅から地下でつながってるのはいい。
仲入りから入りますと受付で言うと、座って待たせてくれた。
仲入りの三笑亭可龍師の高座が流れている。辰巳の辻占のいよいよ終盤だ。
「娑婆で会ったっ切りじゃないか」のサゲ後、ただちに受け付けてくれる。
国立本場だったら電子マネーやカード払いできたのだが、ここは現金。
ちなみに空席が10席ぐらいしかなくて、驚いた。国立よりは圧倒的に席が少ないにしても、大盛況。
実は内幸町ホールは初めて。非常に利便性の高いこのホール、検討なら何度もしたが、基本落語やってるのは夜だから。
いいホール。

仲入り後のクイツキは、遊雀師の弟子、三遊亭遊かりさん。
遊雀の一番弟子です(拍手)弟子は私だけなんですけどね。
入門時師匠に、前座修業中は清く正しく、妊娠だけはならんぞと釘を刺されました。
言いつけを守り、二ツ目になってからも清く正しく生きております。

内幸町ホール、寄席として使うのは初めてです。
ここは独演会向けのホールなので、楽屋が狭いです。前座さんも通常3人ですけど、見習まで楽屋入りしてて。
なので、今空気がおいしいです。

「女流の落語家は、やっぱり仲悪いんでしょ?」とよく嬉しそうに訊かれます。そんなことはありませんけど。
女性の人間関係で最も緊張感あるのが嫁姑ですと振って、ちりとてちん(嫁姑編)へ。
登場人物すべてを女性に置き換えたもの。遊かりさんの、おそらく初日に出したい勝負作。
調子がいいのが次男の嫁、生意気なのが長男の嫁。
この改作を聴くのは二度目だが、パワーアップしていて驚いた。よりナチュラル。
知らなきゃ、古典落語として聴ける。いやほんとに。
姑である女主人も、もともとクセのある人物。オリジナル古典と異なり、そうならざるを得ない。お清を叱らずにバランス取ってるが。
だがこういう噺もあるよねと、自然に昇華しているではないか。
仕事でスカッと系を手掛けていて、日常生活でも「ママスタセレクト」とか「ウーマンエキサイト」とかコミックエッセイを愛読してる私には、より人間関係が面白い。
最終的にはやっつけられる長男嫁に肩入れして聴く人もいると思う。姑にこんなに逆らえるなんて羨ましいと。

長男嫁は、「灘の生一本」を、昭和の酒ですねとdisる。日ごろは獺祭しか飲まないんだって。
そして腐った豆腐を一気食い。これ自体は芸協でよく見る。
実にウケてた。

ヒザ前は瀧川鯉橋師。この人も目当て。
昨年、「七人の侍」で二度聴いた。
話題は大谷翔平と藤井聡太ですね。八冠を維持したままなのは本当にすごいものです。
将棋教室が大盛況で。
指導する女流棋士も、ネイルに工夫を凝らしてるそうですよ。駒の絵なんかデザインして。
そのうち、ネイルの立派な方が勝ち、なんてことになったりするんじゃないですか。爪将棋といって。

将棋から、碁の噺へ。
2月にして、今年二度目の笠碁。外が雨だからなんでしょう。
笠碁は仲入り向きの噺だと思うが、国立の場合はヒザ前の持ち時間が長いので、大きめのネタでも出せるようである。
それに鯉橋師の持ち味は、トリの妨げにならない。

鯉橋師のような実力者を、いかに陳腐でなく評するかが私のひとつのテーマ。
こういう人を「本寸法」「いぶし銀」と評することだけはしたくない。それは負け、ボキャブラリー不足というものだ。
なので、ひとつデジタル評価を考えた。

  • 劇中のテンション↑ × 演者のテンション↑ =(a)
  • 劇中のテンション↑ × 演者のテンション↓ =(b)
  • 劇中のテンション↓ × 演者のテンション↑ =(c)
  • 劇中のテンション↓ × 演者のテンション↓ =(d)

aは一見楽しそう。
だがこれはややもすると「一生懸命ボケる」「一生懸命ツッコむ」芸であったり。
噺の盛り上がりでもって演者が気合を入れ過ぎる。すると、客の思わぬ不快スイッチが発動する可能性がある。
一席終わって、「なんだかあざといな」「気持ち良くないな」という高座がこれ。
差支えのない例として、林家三平師匠。
もっともこんなスタイルでも、決して不快スイッチを発動させない高座もある。終始うたい調子であったり、演者自身の楽しさが伝わってきたりする高座。
だがこの武器は、鯉橋師は持っていない。持っていないのは欠点ではなくて、個性。
なので鯉橋師は、bとcの組み合わせで一席を乗り切る。
噺が盛り上がってくると、演者が一歩引いて登場人物を背後から緻密にコントロールする。
逆にダレ場であると、演者が前に出て、語りのテンションを高めに維持する。
こういう掛け算の芸なのではないか。

続きます。

 
 

作成者: でっち定吉

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