国立演芸場寄席@内幸町ホール(下・三遊亭遊雀「二番煎じ」)

鯉橋師の落語がなぜ耳に心地いいのか、秘訣がちょっとわかった気がする。
結局、テンションの細かい調整のたまものなのだ。決して突出せず、決してダレず。
同じぐらいのキャリアでも、バランス悪い人多いもんな。ギャグのセンスが欠けているくせに一生懸命ぶっこんで行ったり。
鯉橋師は、全編通じて違和感を覚える部分がない。もっとも、そんな芸なのにまるで刺さってこない人もいて。
バランスを崩すとすぐダメになる。落語は難しい。

碁敵を迎え撃つほうの主人(屋号不明)の、喧嘩後のお店での小言は見もの。
実に細かいのに、全然不愉快さなし。
小言なんだから、イヤミじゃないと意味がない。でも客には響かないという。
番頭さんが、阿吽の呼吸で小言をいなしているからだろう。

先月聴いた馬治師と同様、仲直りがドラマチックでない、私の好きな笠碁。
喧嘩も仲直りも日常。

ヒザの正二郎師の太神楽でちょっと寝せてもらってリフレッシュ。
トリは三遊亭遊雀師。
お足元の悪い中ありがとうございます。
今日雨だけどね、数日後には雪まで降るみたいだから。

徳島行ってきたのよ。
NHKラジオの真打ち競演の収録だよ。
で、飛行機でトンボ帰りして、今度は群馬だよ。
「日本の話芸」を撮る東京落語会だよ。東京落語会、今地方を回ってるんだよ。
何が言いたいかというとね、皆さんが思ってるより今売れてるんだよ!(客、拍手)
今がピークだよ。

ストレートな売れてる自慢、ステキ。
とはいえ、順風満帆にやってこれた師匠ではない。本当に感慨深いのだと思う。
鬱屈したまま沈んでいく芸人だって無数にいるんだから。
ついに日本の話芸か。
大阪のほうはそうでもないが、東京収録はお爺さんにならないとなかなか出られない。来年還暦の遊雀師、ついにここまで来た。
なお遊雀師を見習って、私もブログが世間で話題になったときはどんどん自慢していこうと思う。

ここ内幸町ホールで独演会やるとね、お客が笑わないの。
雰囲気が重々しいみたいでね、構えちゃうんだね。
その点今日は寄席だからね。寄席だと空気が違ってていいね。
また寄席にも足を運んで下さい。
われわれ結局、寄席のトリのためにふだん頑張ってるんだからね。そのために独演会やって種まきしてるんだから。

寄席と噺家の関係を手短に言い切る遊雀師。
収入の面では、寄席で顔を見せておいて地方に呼んでもらうというのが効率的だろう。
でも師の場合、寄席こそ仕事場。カッコいい。

昨日あたり暖かったから、春の噺やりたかったんだけどね。
こんなに寒いとね。今日は冬の噺でいいかな。
ということで、二番煎じ。
好きな噺が好きな師匠から2月に聴けてありがたい。寒いのも悪いもんじゃない。
春の噺は花見の仇討かな。
師の二番煎じは現場以外でも初めて。

噺の展開自体は、抜いた部分が多いが特に変わったものではない。
なのに遊雀師の語りが、世界を変質させていく。たまらない一席。
そして、頭の隅でまた違うことを考えた。
元師匠(権太楼)の二番煎じを、軽く凌駕している! 名前出して申しわけないけど。
元師弟だから、ふたりの同じ噺に関係がないわけはない。
だが、元弟子の噺に元師匠の要素はかけらもうかがえない。とにかくやたら面白い。

遊雀師の二番煎じは、番屋の中を舞台にしたシチュエーションコメディだ。
八嶋智人とか、梶原善、白井晃などという役者が浮かぶ。押しつけがましくないが存在感たっぷりで、口を開くだけで何かが面白い人たち。
でも、落語なのですべてが楽しい遊雀師の分身でもある。特に月番は、100%遊雀師っぽい。

二番煎じは誰のものを聴いても、夜回りの説明をしてから入るもの。
だが、いきなり一の組と二の組の組み分けからスタート。客を信頼しているのかもしれないが、乱暴に見える。
店の主人たちが集まってるのだが、奉公人は寝てるなんて嘆きはカット。これは最大の工夫かもしれない。
夜回りは手短だが、火の用心の声掛けは強く押す。3人の声掛けをしっかり演じ分けてすばらしきメリハリ。
謡の黒川先生の火の用心を、月番が「結構です」と一言止めるだけで爆笑。

黒川先生が、娘に酒を持たせてもらう。
月番があなたなにしてるんですかと怒る。
このくだりが私は嫌いで。だいたい、怒り過ぎなのだ。しっかり怒るべきなんだと思ってる演者もいっぱいいそう。
でも遊雀師は、「一応怒りました。シャレです」が全面に出ている。
終始苦虫をかみつぶしたような顔とセリフ回し(この場面だけでなく、演者としてずっと使っている)でもって、宗助さんに「急須の中身を出して、ゆすいで、ふくべの酒を入れて」と指示するあたりがたまらない。
そして破顔一笑。シャレですよシャレ。たまらないね。

ちなみに、茶碗が一杯、食器も一組しかないらしいことも、ほとんど説明しない。
なんでこの人たち、順番待ちしてるのかしらと思った客もいるのでは? でも楽しい。
ししの肉を楽しむくだりでも、ネギで挟むシーンもカット。結構大事なところを削ってしまう。

黒川先生もとぼけた人で、ししの肉の講釈をぶちながら、あらかた平らげてしまう。
もしかしたらこの噺、役人が出る前に終わるんじゃないかと一瞬思った。そんなの聴いたことないが、それでもいいやと。
やや時間オーバー気味に、ようやく見回りの役人登場。
役人もしっかり怖いが、手早く煎じ薬をたしなみ、鍋をつつく。
鍋の出どころの描写は控えめで、この話のわかる役人をひどい目に遭わせてやる感はない。
でも、「(ふんどし)絞らないのー!」に爆笑。

旨い酒、旨いものを口に入れた際の舌鼓、先に聴いた遊かりさんとまったく同一でした。さすが師弟。

トリ以外の出番では、寄席でやたら「熊の皮」「悋気の独楽」などやってるイメージの師匠だが、トリで持ってる大ネタの破壊力はすばらしい。
日本の話芸でなにが放映されるのか知らないが、楽しみです。
師匠、CD出しませんか。広告張るのがなくて。

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作成者: でっち定吉

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4件のコメント

  1. 遊雀師の噺 いいですよねぇ。特に酒の噺が好きです。
    売れてる師匠なのに仙台花座の初席にも毎年来てくれるし。
    道楽亭での独演会からの飲み会なんて最高!
    直のお弟子さんは遊かりさんしかいませんが、芸協の若手の兄貴分としても頑張ってくれてるんでしょうねぇ。

    1. いらっしゃいませ。
      一度しくじった噺家でもここまで出世できるとは、びっくりですね。
      そういえば、今回聴いた二番煎じに関しては酒の噺じゃありませんでした。
      酔っ払いの見事な師匠ですが、いろいろこだわりあるようで。

  2. コメント失礼します。
    遊雀師匠のCD、出してほしいですね。
    遊雀師匠の他にも芸協のベテランの方々(蝠丸、伸治、笑遊、南なん…等)も音源を出してほしいなとも思います。

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