ささはた寄席(下・古今亭駒治「ロック・ウィズ・ユー」)

一席終えた始さんが、高座の後ろから釈台を取り出し据え付ける。
続いて神田菫花先生。
釈台を控えめに叩く人だ。

落語は座布団だけあればどこにも行けてカッコいいですね。座布団だってだいたい先方にありますし。
講談はこの釈台を持っていかないとなりません。
お客さんに、どうぞくつろいでくださいと声を掛けたら、くつろいだおばさん客が釈台にみかんを置いてくれた。
前座のころ講談協会に電話され、「あの神田すずという前座、もっと化粧をちゃんとしたほうがいいんじゃないか」と言われた。
自宅がすぐそばなのであらかじめ着物に着替えてくるが、今日は失敗して裾が上がってしまい、じろじろ見られたという。

大久保彦左衛門を振る。一心太助の名も(出てこないが)。
「盥(たらい)の登城」という読み物。
江戸城への新年の登城において、お旗本と外様大名が駕籠のあとさきで大げんか。
怒りの旗本は大名駕籠を堀に投げ込んでしまう。喧嘩両成敗にならず旗本だけが割を食うので、旗本の家来衆が彦左衛門に相談に。
彦左衛門、江戸いちばんの桶屋を呼び、巨大なたらいをこしらえさせる。
たらいに乗り、これを吊ってもらって登城する彦左衛門。
結果、五分でない沙汰は取り消され、旗本の駕籠登城禁止も解けて一件落着。

講談も楽しいもの。もう少し聴いたほうがいいなと思う。
菫花先生は、二三セリフで入っていたギャグ以外は、ほぼ入れない。
落語の地噺のように、物語を離れて入れるギャグが講談は多いけども、あんまり効果的に感じたことないのだ。
それを言っちゃおしまいな気もするが。

始さんが25分、菫花先生が28分の長講続き。
仲入り休憩はなくて、トリは駒治師。
ギターを持参して高座に上がる。
これはもう、ロック・ウィズ・ユーである。
日本橋亭でもって、コロナ禍なので戸を開けている。なのにアンプをつないでギターを鳴らすため、あらかじめ近所に断りにいったという。
今日はアコースティックギター。

駒治師はこのたびついに、鉄道ファンの聖地であるてっぱくで落語会を開いてもらって感無量。
館長と副館長が、ぜひにと反対を押し切ってくれた。反対があったとか、あまり内幕まで知りたくなかったが。
館長たちは、鉄道150周年の企画でもって、十条で開いた落語会を聴き、いたく感銘を受けたという。
その際掛けたのはご存じ「十時打ち」。東京駅と上野駅が激しく戦う物語で、どう考えてもJRを褒めていない。どうしてあれに食いついたのだろう。
てっぱくの落語会はまた定期的にあるらしい。

鉄道ファンはちょっとアレな人が多い。駒治師に近づいてきていきなり、「新幹線が好きです」という人。
てっぱくの落語会は、硬券を入場券にして、駒治師が入鋏するという本格派。
この切符を切るハサミ、博物館だから実物はたくさんある。でも展示品なので使えない。なのでメルカリで買ったんだとか。
博物館がメルカリでハサミ買うんだなと驚く駒治師。

韓国語を最近習っているそうで。
韓国旅行の際にも地元のおじいさんに切符の買い方を尋ねられる駒治師、韓国人に間違われることが多い。
だが、教室でもって韓流好きの女性にまでそう尋ねられる。韓国の人は韓国語講座に来ない。
すぐにハングルも読めるようになり、韓国語にハマっている駒治師、次回のささはた寄席では韓国語落語をするかもしれません。
お客さんにわからないですね。

コロナで仕事のない最中、噺を作ろうと思ったら歌ができた。
せっかくなので、歌のために作った落語をやります。

部員2人の文芸部で一緒だったあの娘が転校してしまう。
思いのたけをぶつけろと、友人、通称キースに声を掛けられる主人公。
バンドのボーカルを任せられ、呼び名もミックになる。
ミックの作った関東平野の歌で、宇都宮に引っ越すあの娘に告白するんだ。

幸いキースには大人のバンド仲間がいる。銭湯の二代目ビルと、友人のワッツ。
せっかくだからピアノも入れようと音楽の女教師にも声を掛ける。

駒治師がステージ、じゃない高座でギターをかき鳴らし、「ヘイ!」の後、客に「ヤ!」とコール&レスポンスを強制。
やりたい放題だが、つ離れしない会でやるネタじゃないね。
日本橋亭では、それは盛り上がっていたけど。
駒治師、最近聴いた落語はほぼ観客参加型である。

この日の客に合ってるとはまるで思わないが、楽しいものだった。
しかし、忘れ掛けていたこの噺のストーリーが完全に頭に入ったところで、あとでやや不満が出てきた。
駒治師の新作落語の特徴は、必ず1か所以上、飛躍を入れてくるところなのである。
飛躍は、新作落語を観察して、ほぼ必要だと私が認識している概念。
駒治師はストーリー的には噺を壊すだけで無意味かもしれない飛躍要素を必ず放り込んでくる人なのだ。
神宮球場のビール売り子がライバルに負けて金魚売りに転身しているとか、チアリーダーが陰謀で負傷した仲間を背負ったまま踊り続けるとか。
ある種不要な飛躍が、たまらない魅力となる。
ロック・ウィズ・ユーは、結構ぶっ飛んでいるようで、日常から飛躍をしていないのだった。

初めて行った地域寄席は、なかなか濃いものでした。
またそのうち。
駒治師の野球落語が聴きたいんだよねえ。

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作成者: でっち定吉

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