渋谷らくご(中・三遊亭遊雀「十徳」)

思い出したが、わさび師登場の挨拶が、「高島屋から純金の茶碗を盗んだ男に似ていて申しわけありません」だった。
ちなみに、「DV男の特徴」を表したイラストにも似てるんだそうだ。
笑点の悪口も言ってた。
そういえば若手大喜利は、全員リセットされたらしいね。

落語協会では、「噺を崩すな」という教えを説く人が多い。
お前は、こないだテレビでやってたあいつみたいな崩し方でウケを狙うななんて言われる。
でも、今の落語の主流は、どう崩すかじゃないか、一之輔みたいなと不満げなわさび師。

お父さんが亡くなったあとのお母さんの再婚についても語ってたが、これはどんな文脈だったか?
とにかく毒を吐きまくるが、何についてそんなに不満があるのかはさっぱりわからない。
でも、なんだか面白いブラックわさび。
晴の輔師でなくわさび師の笑点入りを期待していた人の多くも、こんなブラックわさびは知らないわけだ。
その前にブラック宮治を知っている人も少ないけど。

結局この人も新作。
私にとってわさび師は、「新作の経験で創作力が高くなり、その資質が結局古典落語に活かされた噺家」である。
ああ、まだまだ新作やるんだなと意外に思った。
そして、この新作「ヤンママ」がとてもよくできた作品で、非常に驚いた。
新作世界のまんまん中にあるから。
中途半端な新作しか作れない人は、この世界から実に簡単に落っこちる。
父子家庭の父娘喧嘩に後妻問題、家出にタイムスリップを絡めて、まったく踏み外さない。
新作落語の見本みたいだ。私が重視する「飛躍」もしっかり入り。
こんな人が古典メインなんて、まったく信じられないのだが?
落語協会では、両方やる人は新作派として扱われる謎ルールがある。
その境界線の古典側にいるらしいわさび師、こんな完璧な新作作る才能はスゴイ。
そして、語り口も古典と違うものだ。

ストーリーはちゃんと作った上で、笑いの主体はもっぱらセリフ自体。ヤンキーの名乗りであるとか。
昇々師と同じく、コントの匂いも感じる。

笑点入れなくてフててるのか知らないが、そんなわさび師の会にも行って見ようかな。
らくごカフェで、「月刊少年ワサビ」やってるのは知ってる。

仲入り休憩はないが、2分のインターバルがある。
電源切ったスマホを立ち上げる暇もない。
しかしこの渋谷らくご、一席が長い。それぞれ30分程度。
こういう落語会に昨年行った。日本の話芸収録の、東京落語会。
長講3席連続で結構くたびれたのだが、今回は全然平気。みなさん、マクラでちゃんと楽しませてくれているからだ。
寄席で色物が果たす役割を、噺家自身がしっかり果たしている。

続いて三遊亭遊雀師。今年2席目で嬉しいことである。
芸協の柳家蝠丸師について、寄席の評価がメディアの評価に追いついていないんじゃないかと書いたばかりだが、同じことが遊雀師にも言えるかもしれない。
いや、トリも取ってるけど、まだ少ないと思うのだ。

若手二人が新作やったけど、と遊雀師。
あんななよなよした噺やって、けしからんことだね。
いま、ふたりとも辰ちゃんに殴られてるよ。
われわれは古典でちゃんと締めるからね。
辰ちゃんは今年還暦、アタシは来年。
楽屋では、帯状疱疹の話で盛り上がったよ。
昇々ちゃんにトシ訊いたら、40だって。
だから我々がはたちぐらいのころに、あいつら生まれてるんだね。

聞こえなかったか、前列で携帯が鳴ったらしい。
遊雀師それを拾って、まだ大丈夫だからね。
辰ちゃんの高座だったら、大変だけどね。
伯山の高座だったら、コロされてるけどね。

新作つながりで語られたと記憶するが。
それにしても、三遊亭白鳥があんなに出世するなんてね。ビックリだよ。
三三ちゃんにまで自分の新作やらせてね。
三三ちゃんにやらせるような噺じゃないよ。

着物の話。
辰ちゃんとアタシは、そこそこいい着物着てるからね。
昇々ちゃんやわさびちゃんも、一見キレイな着物だけど、わかる人にはわかるからね。
別に、「いい着物だろ」なんて見せびらかし方はしないけどね、野暮だから。

と振って、十徳へ。
どこかで聴いたが、どこだろう。
聴きながら思い出したが、昔の浅草お茶の間寄席である。
総集編で、喬太郎師の「ハンバーグができるまで」とセットで放送されたのだ。
遊雀師の十徳も繰り返し聴いたが、パワーアップしている。
普段そんなにやらないんじゃないかな。

続きます。

 
 

作成者: でっち定吉

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