亀戸梅屋敷寄席34(下・三遊亭好楽「三年目」)

仲入りは、相変わらず挙動不審の三遊亭鳳笑師。
好太郎師の代演なのだが、本来の番組はすっかり忘れていた。

師匠から教わった幽霊の所作は、両手とも2本指でやる。
しばしば金縛りに遭うが、金縛りから逃れるときに、母親がクリスチャンだったのでそちらの経を唱えるが、逃れられない。
幽霊はキリスト教を知らないのだろう。
般若心経でやってみたが、日夜唱えていたら「伊藤さんの2階に幽霊がいる」と近所に言われてしまう。

へっつい幽霊だが、以前柳家圭花さんから聴いたスタイル。
博打で勝った熊さんが、古道具屋を覗いてへっついをみつけるのだ。実に手っ取り早い。
圭花さんのオリジナルかと思っていたら、あるのだな。
そして、若旦那のいない短いバージョン。仲入りで長いのはできまいが。
あいにく、急に眠気に襲われて寝てしまう。
鳳笑師、非常に面白い人ですがとフォローしておく。

仲入り休憩も寝続ける。
クイツキ兼ヒザは三遊亭小円楽師。
錦の袈裟という噺、改めて面白いなと。
サゲは、「お寺に怒られちゃう」だった。かみさんが「お寺しくじらないように」と言ってるから、それでいいように思ったが?

とにかく廓噺を聴いて「大吉原展」が日曜で終わりなのを思い出し、翌日(本日)行ってきました。
気が向いたらなにか書きます。

小円楽師、語りがちょっとモタつく場面がある。
それ自体は欠点でもなんでもない。
だが、モタつく際に特に個性が感じられない点は欠点なのだろう。
この次、トリの好楽師の魅力を、意外なところで再発見したのだった。

その好楽師、楽屋がないから袖で話をしてるわけだが、ちょっと声が大きくて客席まで聞こえてます。
声はでかいわ、電気シェーバーの音は漏らすわ、困ったお人。
そんな困ったお人を聴きに今日も参りました。

好楽師はいつものピンク色だが、珍しく袴をつけている。

最近夢を見るとなると、昔の師匠がたの夢ばっかりです。
私はふたりの師匠に仕えまして。
彦六で亡くなった先代正像と、五代目の圓楽です。
圓楽は面白い人で。今でも笑点の楽屋で話題になるのは、談志でも前田武彦でも三波伸介でもなくて、圓楽ですよ。

圓楽はわれわれ古い弟子には厳しかったですけど。
王楽が入ったころはもう、孫に接するようなもので、優しくなってました。
王楽なんて名前、びっくりしましたよ。これ以上上のない名前じゃないですか。
圓楽がある日、囲碁の番組を観てました。王楽は興味ないですけど、師匠が観てるから仕方なく眺めてます。
師匠が言います。「こっちが負けるね」。
「どうしてですか」
「太ってるからね」
「…どうして太ってると負けるんですか?」
「そりゃあその…(考えてる)みっともないだろ」

古い弟子は師匠には一切逆らわないし、聞き返したりもしないんですけど、王楽になると平気なんです。
「師匠、この世の中でいちばんくだらないことってなんでしょう?」
「…(一生懸命考えてる)許してちょんまげ、かな」

笑点の楽屋でも平気でウソ付くんです。
中国の話してたら、師匠が中国行ったっていう話になったんです。絶対行ってないんですけどね。
中国に行ったら、路地で二人の男がずっと向かい合ってるんだそうです。足元には、お金がカゴにいっぱいで。
日暮れまで、1日じゅう男たちは向かい合ってました。師匠もそれをずっと見ていました。
ついに日が暮れて、片方の男がもうひとりにお金の入ったカゴを渡してなにやら声を掛けてます。「お前の勝ちだ」。
なんでも、今日雨が振るかどうか掛けてたんですって。

今日はそんな師匠に教わった噺をやります。

「許してちょんまげ」は以前も聴いたことがあるが、囲碁の話、中国の話は初めて。
好楽師のむかし話は無限に続けられるのだ。
なんなら馬風師みたいに、それ専門でやったって全然許される。
私は噺も聴きたいが。

ところで、弟子の「夢の酒」に触発されて夢から話を始めたのはいいとして、「三年目」は「へっつい幽霊」とばっちりツいている気がするのだけど?
幽霊は2本指ではない。

三年目は最近、もっぱら好楽師しかやらない噺だろうか。
文治師からも一度聴いた。出どころは同じみたい。

なにしろうろ覚えの好楽師、毎回細部が違う。
今回いいなと思ったのは、「後添は、先の奥さんとそっくり」という部分。
親戚のおじさんおばさんは、ちゃんと亭主の好きな女を連れてくる。
そして先妻と同様、気立てもいい。
顔も知らない先妻の法事をきっちり務めてくれる。
これなら、化けて出るはずの女房が、後添を気に入ってくれたのだと解釈しても無理はないのだ。

好楽師、まだまだ老け込むトシでもない(一般的には老け込んでもいいトシだが)ので、まだまだ魅惑の昔ばなしと噺を聴かせてくださるでしょう。

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作成者: でっち定吉

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