THE SECOND準優勝ザ・パンチのボケツッコミは寄席漫才の理想

第2回を迎える漫才の大会THE SECOND。
観るのは予定していたが、外に出ていて第1試合の「ハンジロウvs.金属バット」は見逃した。それ以降は全部。
放送長いなあ。終わったら11時だった。もっと詰めろ、なんて言うのはおこがましいけど。
お涙頂戴アオリV以外は、構成別にイヤじゃないんですが。

実に面白かった。
この一見地味なメンバーで盛り上げるってすごいよね。
誰も地味なメンバーを揃えようなんて思っておらず、ガチにやったらこうなったわけだが。
地味なメンバーの中に、ご存じタイムマシーン3号が混じっていたりして。
寄席の世界からは、母心も予選に出ていたのだな。母心のボケ・嶋川は、高岡市議から富山県議に乗り換えていたのを初めて知った。
県知事でも目指しているのだろうか。

自分自身おや、と思ったことがある。主観的評価と客観的評価について。
決勝審査発表前、「俺は主観でザ・パンチが面白いと思った。だが客観的に見て優勝はガクテンソクで間違いない」と判断したのだ。
別に客席のウケの具合を判断してではない。
ガクテンソク(つい先日まで学天即で覚えていたが)の技術の高さはすばらしい。こちらが勝つだろうと理性が言う。
だが、私は3回見たザ・パンチがすっかり気に入ってしまい。
ガクテンソクとザ・パンチの主観評価を分けたのは、ツッコミのあり方。

ザ・パンチのツッコミ、こういうの大好物。
前面に出て小技を繰り出し続けるボケに逆らう(対立する)ことはなく、常に優しく寄り添っていくツッコミ。
相方にグーパンチしてすらなお。
たまにはパワーワードも発する。「砂漠でラクダをなくした」という見事なたとえツッコミ、しかしこれはボケの解説としておこなわれる。
こういう、しっかり仕事をしつつボケを立て続けるツッコミがほんとに好きで。

ザ・パンチは吉本だから出ることはそうそうないが、これはまさに寄席漫才の作法。落語の寄席。
ナイツも宮田陽・昇にロケット団、最近では新宿カウボーイやらもそう。
ツッコミが仕事をまっとうしてくれると、ボケも安心して攻められる。
客が引くまでボケすぎるというのはよくないが(数人そんな審査客も出た)、限度を定めた上で思いっきり跳ね回る。

いっぽう、ガクテンソクのツッコミも素晴らしいのだけども、漫才のオチまでみんな持っていく。
ツッコミと言いつつ、実はボケ。パスを回してもらってゴールに叩き込むストライカー。
こういうタイプ自体が嫌いなわけじゃない。ボケツッコミではなくて、トスとスパイク。
ミルクボーイだって、ツッコミは実質的にはボケ(スパイク)である。
ただそう考えたとき、ガクテンソクのトスはもっとやりようがある気がする。
ガクテンソクは、表面的に観察すると、ボケとツッコミがウケを張り合っている気がしてならない。
最初はツッコミが持っていく漫才だな、と思って観ているのだが、3回続けて観ると、ツッコミ主体漫才なんだなと最初からみなしてしまう。
そうすると、妙に不安定な感触が残る。
銀シャリみたいな「ボケとたしなめ」なら穏やかなのだが。

ちなみに好きと結果予想が分かれたシーンが、大会で決勝以外にふたつあった。
ひとつが「ななまがりvs.タモンズ」。
ななまがりは売れている、とまでは言えないかもしれないが結構有名なコンビで、私も大好き。
ぜひ勝ち上がって欲しいと思いながら、2席終わってこれはタモンズだろうと。
ちなみにタモンズも、ザ・パンチと同じくボケに寄り添っていくタイプ。ツッコミで落とす傾向がやや強いが。
ただタモンズのボケは自立しているから、ツッコミが仕事するとなると、ボケ返したりするしかないのはある。

そして次のタイムマシーン3号と、ザ・パンチ。
タイムマシーン3号は昔からファンで、ぜひ頑張って欲しいと思いつつ、これは勝てないと。
まあ、仕方ないね。ネタもあちこちで露出して擦り切れてるし。
その1戦ですっかりザ・パンチ好きになったが。

ザ・パンチもこれで売れるのだろう。どこまで売れるかはさておき。
売れたら吉本の劇場で食っていける。
だが、東京の寄席漫才に切り替えてもやっていける。そちらが儲かるなんてことではないけれど。

先日演芸図鑑で出ていた柳家花緑師の同時代落語を批判した。
その際ちょっと、同じ放送に載っていたウエストランドに触れた。褒めたのである。
その後すぐ、河本がやらかした(タクシーとトラブル)。
河本はボケということになっているが、ボケることはない。そしてツッコミとしても、あまり機能していない。
お笑い好きは、こういう地味なのがコンビを支えていると考えがち。わかるわかる。
でも最近、支えるどころか井口の足を引っ張ってばかりなのが世間にも、世間と違った角度を誇るお笑い好きにもバレてきた。
舞台の前面に出ているほうに寄り添わない仕事は、それを相方が望んだ結果であるにしろやはり物足りない。
結局中川パラダイスじゃねえかと。
こうなると、コンビ自体の評価も徐々に下がってきそう。

(追記)

「和牛みたいなボケとたしなめ」と書いた。
かろうじて意味がなんとなく通っているけど、食い物つながりでコンビ名間違っちゃった。
解散したコンビでなく「銀シャリみたいな」と書きたかったのです。橋本のツッコミ。
あと、寄席漫才に移りつつある例で、私の好きなツッコミとして、エルシャラカーニ(芸協準会員)も挙げておきたい。

作成者: でっち定吉

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