なかよしおじさんズ(中・瀧川鯉橋「青菜」故小柳枝が二重映し)

昨日は2記事出したおかげでアクセスを維持しました。
THE SECONDの記事は伸びそうにない。

三笑亭夢丸師は「のめる」。
隠居のうちに来て、こんな約束をしたんだとフラッシュバックで語るシーンから入るタイプ。

例によってカミシモの入れ替えも早く、上ずり気味で楽しい高座。
ちょっと高座に近寄りすぎたかな、と思って客としての視点をちょっと奥にずらす。するとピントがぴたっと合って、さらに楽しい。

サゲに見たことのない工夫が。
「つまらねえ」の野郎が「一杯飲める」の主人公についに詰将棋で1円取られる。
恐れ入ったと、色を付けて「1円20銭」支払うのだ。
「やった!一杯飲める!」「そうら、返してもらおう」
通常、2円渡して「一杯飲める」を引き出すのだけど、別に儲からないのである。
この楽しい噺、以前からサゲだけ変だよなと思っていた。「おっとさっぴきだあ」とか言うんだが。
噺に疑問を持った夢丸師、「20銭出して1円引き出す」というワザを導入したのである。なんと画期的な。

続いて瀧川鯉橋師。深々とお辞儀して登場。

夢丸さんは41だそうで、小助六さんが43だったかな(実際は42)。
私は入門が27のときでちょっと遅くて、53です。
キャリアはちょっと先輩というぐらいであまり変わらないんですけど、トシは一回り違います。彼らは高卒で入ってますから。
また仲悪くなるなんて小助六さん言ってましたけど。でもなかよしおじさんズです。
会の名前は、お客さんから公募したんですね。始めたときはふたりは30代でしたから、おじさんは失礼だったですけど。私はばっちりおじさんでした。
でもいい名前です。
トシは違いますけど、彼らは昔から落語詳しかったですよ。私は全然わかりませんでした。
楽屋に詰めててネタ帳付けるとき、演題がわからないんですよ。でも、だいたいどちらかがいますから、訊くとすぐ教えてもらえます。重宝しました。

噺家で食えますかと訊かれますが、食えません。
食べられないときは、食べないんです。たまにごちそうしてもらえるときにありつく感じです。
先輩で細い人がいまして、若いころ税金正直に申告してるのに、税務署で訊かれたんですって。
「あなたこの収入でどうやって食べてるんですか?」「食べません」
それでようやくハンコもらったという。

だいたい入門するときも、師匠にまず釘を刺されます。食えないよと。
食えなくてもいいですと言ってようやく、好きなら仕方ないかと弟子にしてもらえるんです。

先日、イヌサフランの中毒事件というのがありました。ギョウジャニンニクと間違えたそうで。
ニラと間違えてスイセンで中毒起こすなんてこともよくありますから、怖いんですよ野草は。
瀧川一門は、師匠に最初に食える野草の見分け方を教わりますから。
アジサイなんてのも、毒があって下痢します。ただ、便秘薬には配合されたりしているようですが。
最終的には、自己責任で食べます。自分で少量ずつ確かめるんです。
縄文時代の人だって、そうやってきたと思うんですね。

先輩の痩せた人って、柳家蝠丸師のことかな。
野草の話とつながるかどうか知らないが、「植木屋さんご精が出ますな」と青菜へ。

まさに本寸法、と言いたい見事な一席。本寸法って誉め言葉はそんなに好きじゃないのだけども、他になんて言えばいいのか。
余計なクスグリなく、入れごとなく、まっすぐ突き進んでいく青菜。
とはいえこういう落語には落とし穴もあって、客の耳を通り抜けてしまったりする。
鯉橋師の落語は、耳を抜けない。しっかり残る。
ストーリーの節目ごとに、主人公である植木屋の感情がしっかりくっついているからだと思う。

奥様が控えておいでとはさすがお屋敷。
柳陰がよく冷えてる。
鯉の洗いなんて初めて食べる。オツなもんだ。

植木屋がいやしくも氷を口にするあたりも、いちいち突っかからない。「喉乾いたので」という理由付けで、流れるように口にする。
そして旦那、植木屋のわりと珍妙な言動の数々について、まったく気にしない。非常におおらか。
この旦那、ちょっと言葉の端々に上方出身らしい感が漂う。そんな裏設定は初めて耳にする。

家で早速、大工を相手にお屋敷のまねごと。
かみさんは口は悪いが、亭主の心中をざわつかせるようなところは一切ない人。
大工を相手に、「ときに植木屋さん」と語るのは、三度目ぐらい。それまでは、「あんた」。
この型は、同じ芸術協会の桂鷹治さんからも聴いたので、あるのは知っている。
だが鯉橋師の場合、マネモードが強すぎて、ついうっかり植木屋さんと発してしまったことがよくわかる。
既存のものも面白いけども、あんた与太郎かよと思わないでもないのだな。

戸棚から出てきたかみさん、手ぬぐいで汗をぬぐいながら植木屋に返答。地味にいい工夫。
つまり、意識がもうろうとして間違えてしまったのだ。
すばらしい青菜です。

そして、高座でもってじっくり語る鯉橋師が、一瞬亡くなった春風亭小柳枝師に見えたのだ。本当だ。
顔が似ているというのもあるが、実際教わってると思う。
芸協で青菜といえば小柳枝師だったと思う。私も日本の話芸あたりで聴いている。
しかし、繰り返し繰り返し脳内で再現できるほど聴き込んだわけでもない。なのに小柳枝師が見えた。
面白いものである。

続きます。

(2024/5/25追記)

「続きます」のリンク先が「上」になってました。申しわけありません。
THE SECONDの記事は、その後普通に伸びてます。

 
 

作成者: でっち定吉

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