柳家喬太郎「仏壇叩き」

浅草お茶の間寄席が観られなくなった今、テレビの落語はNHKとTBS頼み。
だが、たまにそれ以外のBS局でも放映がある。
今回は、BS松竹東急で柳家喬太郎師の「名人長二 仏壇叩き」が録れた。
この圓朝ものが絶品で。

話はそれるが、最近テレビといえばBSですね。それも比較的古いBS11やトゥエルビ以外にも多くの局がある。
BS松竹東急は、最近野球中継を観る。
夢グループのCMが相変わらず話題だが、BSが全国区だからこそでもある。
地上波笑点を放映していない沖縄でも笑点が話題になっているそうで、これはもうBSの力であろう。
喬太郎師も、ドランク塚地の立ち食いそば番組でナレーターを務めている。

収録は、2022年2月のさん喬一門会。喬太郎師はトリ。
釈台は出してない。
トリだが、わりと短くて24分。だが、そんなに短いのかと驚く中身の濃さ。
いずれ、日本の話芸でやるんじゃないでしょうか。落語研究会だと、さらに出やすいと思う。
同じ放映のカップリングは、同じ日の収録である柳家喬之助師の「錦の袈裟」。これもよかった。

名人長二は現場でお目にかかったことはない。
唯一聴いたことがあるのが、YouTubeだったか、五街道雲助師の仏壇叩き。
喬太郎師の芸は、雲助師のようないわゆる名人芸ではないかもしれない。だいぶ抑え目だけど多少ふざけているし。
でも、たまらない。
滑稽噺ではないけれども、全編を通してユーモアが漂っている。このユーモアは、二三ふざけてみせる部分とはまた別の要素だ。

仏壇叩きは、超人ものともいえる。
ある種、甚五郎ものや抜け雀の系譜にあるといえるかも。
ただし指物師の長二は、リアル超人。
本当は、才槌で叩きまくった仏壇がまったく壊れないなんてリアルではあり得ないけども。

そんなバカな、をやや過剰気味のリアリティで語るのが喬太郎師。
喬太郎師は、長二を、作った男前の声で喋る。
そして噺の悪役である坂倉屋助七は、当初は貫禄のある旦那として、途中からは裏返った情けない声を出す男として描く。
そんな、微妙にわざとらしく、わざとらしさを外側から十二分に自覚したやりとりに、喬太郎師ならではのユーモアが終始漂っている。

途中で「この噺は笑う箇所がないものですからな」とあえて脱線する喬太郎師だが、そこがなかったら耐えらえないなんてことではない。
十分楽しく、快が持続し続ける落語である。
笑いのない落語といってもいろいろで、喬太郎師は恐怖や気持ち悪さで支配された噺も得意にしているが、そういった系統ともまた違うものだ。

笑いどころのない噺に、喬太郎師は全編を貫くユーモアと、そして笑いどころを3か所入れた。
笑いどころは次のとおり。2つめ、3つめはメタ。

  • 小僧、三吉の無礼振り
  • 上方落語ではこうやる、と言って仏壇を音付きで開ける
  • 女なんてものは着飾ってばかりだと、かみさんをもらう気のない長二に対し坂倉屋が、今半分を敵に回したぞと

冒頭、マクラ抜きで本編に入り、ストレートに不器用長二の説明に入る。
最初に活躍するのは坂倉屋の小僧、三吉。
喬太郎師の得意な、ふにゃふにゃ喋る小僧さん。小僧さんが長二を怒らせて帰ってきたので、主人自ら依頼に出向く。
依頼するのは仏壇。名人長二を見込んで何百年(とっぴゃくねん、と言う)も長持ちする仏壇を。
火事のときに運び出す際、ぶつけても壊れない。
さりとて無骨でない、洒脱なものをという難しい注文。
引き受けるが、一切催促しないでくれと断る長二。手付もいただかない。
それに快く応じる人間の大きい坂倉屋。

予告通り時間は掛かるがちゃんと作って持ってくる長二。
坂倉屋は大喜び。作ったばかりなのに年季が感じられるのだと。
やがてこの仏壇に入るのかと思うと、死ぬのが怖くないとバカなホメよう。

だが、カネの話になって、平和なやり取りはぶち壊れる。
料金は100両だという長二。100両の仕事は100両もらう。今回は100両の仕事。
そこまで鷹揚だった坂倉屋、「たかが仏壇じゃねえか」と怒り出す。
どこまでも冷静な長二は、釘1本に精魂込めた仏壇だ、壊れることはないと断言。
怒る坂倉屋に、なんなら今買ってきたばかりのこの才槌で叩きのめしてご覧なさいと。

仏壇を叩くから仏壇叩き。非常に落語らしい演題。

基本的に終始鷹揚で、人格者と言ってもよさそうな坂倉屋が、裏返った声(喬太郎師の落語では、しばしばウケどころとなる声だが、そんな場面ではない)で長二に食って掛かり、そして今後は深い反省を見せることになる。
なのだが、別に私が日ごろ関わっているスカッと系のように、ざまあみろという快感を味わう噺でもない。味わってもいいけれど。
自分の仕事に絶対の自信を持つ長二が、そこまでおっしゃるなら試してみなさいと水を向けた、ただそれだけなのだ。
壊れない、しかし傷だらけとなった仏壇を子孫に残すと引き取る坂倉屋。
そして坂倉屋が心から悔いて祝儀を弾もうとしているのに、決めた100両以外もらう気のない長二。

やはり噺家としては、長二の超人芸には思うところがあるようだ。
なに、スキのない構成を作り上げている喬太郎師も、雲助師とは違う意味でやはり名人ですよ。

作成者: でっち定吉

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