そういえば馬石師は前日、池袋夜席の独演会で白鳥作「ラーメン千本桜」を出したという。これについても白鳥師、言及していた。
甚兵衛さんをやる馬石師、つい鼻をフガと鳴らしてしまい、「鼻鳴らしちゃった」。
甚兵衛さんになると鼻も鳴るのだ。
鮑のしを続けて聴く以上、私もなにか拾いたいものである。
今回見つけたのは、甚兵衛さんが案外自立していること。
強烈なキャラは、他人からの視線をピンポイントで描くことで確立しやすい。
「甚兵衛さん、今日も飛ばしてるね」みたいな。
魚屋の親方にこう言わせておけばいい。実際かつて入っていたかもしれない。
だが、そういう他人目線の描写はどんどん減っているかもしれない。
かみさんも、等身大の甚兵衛さんについてあまり指摘をしない。口上のレクチャーも、こういうものだと理解して先を行く。
結局、客が甚兵衛さんをほほえましく見守るのはいいのだけど、甚兵衛さんは客を笑わせるために生きてるのではない、そういうことではないか。
にもかかわらず、白鳥師には、新作に匹敵するその強烈なキャラが響いたようで。あざとさゼロのキャラ。
外がかんかん日照りの日、甚兵衛さんのセリフにも天気に関するものが多かった。外が雨ならまた違うのだろう。
仲入りなので「1円ください」で終わるのかと思っていたら、先を行く。
ここから先はまだ二度目なので、全然煮詰まっていない。
それにしても、大家は本当に怒らない。
甚兵衛さんがせっかくつなぎのほかを持ってきてくれたのに、受け取らなくて悪いとも思っている。
そうはいっても、磯の鮑の片思い、さすがに縁起が悪いだろうと。
そして、おかみさんの知恵かどうかも訊かない。あくまでも、婚礼を上げる立場の意見を述べているだけ。
このやり取りで大家と甚兵衛さんが対立したわけでもない。
甚兵衛さんもお腹ペコペコで弱っているだけであり、大家と喧嘩しようなんて気持ちはない。ただ、魚屋のプライドは焚き付ける。
実は魚屋と大家の代理戦争。
なんとかご飯を食べたい甚兵衛さん、代理戦争に乗っかってのしのぽんぽんをまくしたてる。
大家は察しがいいので、のしの講釈をだいたい理解する。
海女の肌に吸い付いたあわびをうらやましいだろうと甚兵衛さんに言われて、「あたしは歳だからそれほどでもないがね」。
そして気の悪い人間でもないので、たぶん甚兵衛さんに10円やるんではないかな。
つくづく平和な世界。
熱演だったのか、仲入り休憩は短かった。
クイツキは、放任主義者の白鳥師の「ノラ弟子」、二ツ目の三遊亭青森さん。
出囃子は「展覧会の絵(プロムナード)」。三味線では弾きづらいぞ。
この芝居は青森、ぐんまの交互である。
青森さんは久々。なんと7年振り。
イオン葛西店の駒治師(当時二ツ目で駒次)の会の前座を務めていたのだ(当時あおもり)。
その際は、「水屋の富」を掛けて驚いた。
最近NHKラジオで聴いた1人称の新作は尖りすぎの気がしたが。
青森さんは短髪で金髪。こんなサルいるよなと思った。すみません。
弘前に行ってきましたとのこと。いろいろなご縁がありますと本編につなげる。
宅配便の不在票を受け取り、再配達を依頼するという、シンプルな噺。
最後にご本人が語っていた演題は「高橋運輸繁盛記・再配達」とか、そんなのでした。
これはほぼ、陣内智則の一人コントである。
電話のプッシュボタンを指定されるまま押していくが、あり得ない返答が出てくるという。
新作落語とコントと、近いところもあるが、そうはいってもコントっぽい新作落語は珍しい。
先日、春風亭昇々師の「ザ・卓球」にコントとの強い親和性を感じた。
ただ、これは会話の相手がいる。
青森さんのこの噺は、相手がいない。自動応答してくる音声が相手。この点まさに陣内コント。
青森さんの相手の声が再生され、さらにモニターにその音声が表示されているという舞台のビジュアルも浮かばないではない。
だがやはり落語だ。不思議なぐらい落語。
ナビダイヤルで課金されるから、急いで再配達依頼を済ませたいのにトラップだらけ。
「ж」ボタンを押したいのに、なぜか押す前に締め切られてしまう。
すると「2を5回、7を4回押してください」。その通りに押すと、なんだ「コメ」か。
どうでもいいけど、米印じゃなくて、一般的に使われるのは「#」じゃないのかと思ったが。
ナビダイヤルの女の音声はどんどんエスカレートしていく。男に裏切られた恨み節までを語るナビダイヤル。
ああ、やっぱりコントというより落語。陣内さんのコントもだいぶ飛躍するけども、落語はさらに上を行く。
ナンセンスを目指すにあたり、風刺から始めるというやり方、筒井康隆がエッセイによく書いていたなと思い出す。
風刺にとらわれている批評家は、「風刺が効いてない」なんて批判したりするのだが、作者の目的はその先にある。
青森さんも、混沌とした世界を描くために、再配達の依頼が大変という日常のあるあるからスタートしてるのだと思ったのだ。