池袋演芸場32 その4(三遊亭白鳥「3年B組はん治先生」)

落語協会新会長に柳家さん喬というニュースは心底驚いた。
明日あたりに書くかもしれない。
広い落語界で、さん喬師を唯一揶揄して平気なのが白鳥師。

ヒザ前は代演で柳亭燕路師。
ここは辰巳の辻占かなあと。あたり。
辻占の2本目が、あまり聞かない文句だった。あいにく忘れてしまって残念だ。

ヒザはウクレレえいじ先生。
3月に初めて聴いて、数年後色物の栄誉であるヒザを務めるだろうなんて書いたら、もう務めている!
ずいぶん早い。それだけ落語協会において高い実力の持ち主だということ。
トリの師匠の邪魔になる芸風でないのも強み。

登場の際に、客に「えいじ!」と声を掛けさせる新たな展開。
マニアックモノマネには、「牧伸二」「なべおさみ」など、先輩芸人が入っていた。
この人たちの楽屋の様子なんてわかるはずないけども、妙に楽しい。
しまいは「千と千尋の神隠し」「もののけ姫」のウクレレ演奏。
いい感じに着地し掛けたところで、カウンターテナーの出ない声で歌ってオチをつける。
実に楽しいエンターテインメント。
近いうち池袋下席夜で独演会やるのでは? 行ってみたい。

さて、トリの白鳥師の「3年B組はん治先生」。
落語界の楽屋ネタで固めた爆笑の1席。だが、単なる内幕もの、暴露ものではない。
これはなにか。三遊亭白鳥の落語論であり、エンタメ芸談である。
ふざけた噺の根幹には骨太の本音が筋として1本通っている。
新作落語論であり創作論であり、古典落語論であり、女流論で寄席論で笑点論でもある。
弟子を捨て育ちする白鳥師の師弟論でもあって。
つまり落語界のすべてを詰めこんだ大作なのだ。
このあと封印されるようなのが残念だ。

満員の客を前に、「土日より多いってどういうことですか」と白鳥師。
今日知らずに来てしまった方もいると思います。今日のネタが一番初心者向けじゃないんですね。
内容、わからないかもしれませんけど。
もともと三三さんとの会で、宿題もらって作ったネタだったんですね。学園ものというテーマで。
確かに学園ものは私も作ったことがありません。
あと、名作ドラマのシーンが二つほど入っています。
いずれにしても、フィクションですのでそのつもりで。
テレビに出ない芸人です。喬太郎も白酒も、こうした世界から出てきたんだ!

落語界、すっかり弟子入りが減少した(すでにフィクションです)。
弟子が師匠を訴えるという事件があったのがきっかけだ。客爆笑。
殴られて訴えるなら、パイプ椅子で殴られたオレも訴えてよかった。まあ、時代が変わったのだ。
落語界、危機感を覚え、弟子の育成は学校法人を作っておこなうことになる。
その、落協学園の物語。

登場人物は、はん治先生、委員長の柳家三三、スケ番の柳亭こみち、そしてサモアからの留学生にして転校生、パパラギ。
名前が出てきたのが、馬石、遊雀、小痴楽、宮治、一之輔、昇太。

パパラギは、言わずと知れた師匠・円丈の作品。
その説明も入れるが、白鳥師自体も演じたことは触れない。
留学生パパラギは、その落語と、さらに新作を故郷に持って帰りたいのだ。

はん治先生は髪をかきあげながら登場。
はん治先生、鈴本でトリ取ってていないじゃないか。仕方ないんだ、釣りで一緒に対馬に行った際に作った噺なんだから。

落協学園はいつものとおり落語の大会に出場する。
相手はいつもの芸協学園。楽勝だろう。
どうせエセ古典の遊雀、小痴楽ぐらいしかいないし。
と思ったら、芸協学園は生徒が減っていて今回は辞退。今年の相手は笑点学園の一之輔に宮治。
宮治なんて寄席を抜き気味で、地方の落語会で笑点ネタばかり披露し、最後にちょこっとだけ落語をやるような、あんなのに負ける気はしない。
一之輔も、千早ふるにデビルマン入れて来やがって!なにが妖獣シレーヌだ!
三三は本寸法の道灌で、こみちは一之輔に教わった短命で勝負。
しかし落協学園、笑点学園の前に惨敗。
「お前ら悔しくないのか!」「悔しいです!」

ここで、徹底した笑いの中で白鳥師の芸人論が語られるのである。
笑点なんて、台本があるから簡単だろうと思うな! なら三平ちゃんは辞めてない!
先生は昨年出たから知ってるが、台本があってもジジイ3人は好き勝手に脱線するんだ! それにアドリブでどう応酬するかが見せどころなんだ!
そういう世界で鍛えたやつを甘く見るな!

「いかにもつまらなそうな落語」で悦に入っている三三にはん治先生は、「小三治は死んだんだ!」。
メチャウケていたが、わけわからん。
こみちに対しても、女が本寸法の落語でいいのかと熱い先生。

そして最大の敵は、古典落語絶対の伝統芸能学園。
パパラギも、新作がやりたいと言ったら退学させられたのだ。
そこの理事長が落協学園に乗り込んできて、またすったもんだ。
パパラギが反対にあちらに乗り込んでいって、俺は腐ったミカンなんかじゃない。
警察がやってきて、中島みゆきが掛けられる。やりたい放題。
そして白鳥師の新作落語論が語られる。

腐ったミカンを回収し、千両みかんでサゲる。
中村仲蔵とか、こういうこじつけ好きですね。

それにしても白熱の一席でありました。
芸談も熱い。
白鳥師は新作だけでなく、落語界全体にいても立ってもいられない、たぎる気持ちが溢れているのだった。
私ももう少し白鳥師を聴いていこう。

(その1に戻る)

 
 

作成者: でっち定吉

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