池袋演芸場32 その1(二ツ目昇進、駒平・萬都)

ここ数年、三遊亭白鳥師はあまり聴いていない。
避けているわけではないが、最近の連作モノについていけていないのは事実。
池袋演芸場は、その白鳥師がトリを務める。どこかで1日行くのはこれは早い段階で決めていた。
仲入りが馬石師。
池袋演芸場は今年3度目。
梅雨の晴れ間、極暑の月曜日だ。私は雨が降ってても全然構わないほう。
だがこの日に来たかった。
ネタ出し(寄席が発表してるものではなく、師が事前に告知しているもの)によると、マニアック度★★★の、「3年B組はん治先生」とのこと。
なんだか面白そう。
楽屋ネタ満載の新作というと、百栄師の「落語家の夢」みたいなものか?

その「3年B組はん治先生」は最高に楽しいものでした。
「その4」をお楽しみに。

たらちね わたし
ざる屋 駒平
長短 萬都
演題不明(定年退職) 彩大
如月琉
初恋エンマ
鮑のし 馬石
(仲入り)
再配達 青森
辰巳の辻占 燕路
ウクレレえいじ
3年B組はん治先生 白鳥

前座は初めて遭遇の隅田川わたしさん。
今席は特別興行でして、このあと二ツ目昇進のアニさんが二人出ますと。
大きな声でと師匠から言われているのだろう。大きな声のため、顔を最大限に動かしているのが面白い。

最近の前座はみなすごい。
前座噺を教わったままやる人いないものな。
この人のたらちねも、さり気なくアレンジが多い。
セメントとかサイとかウケなそうなクスグリは抜く。へんずったねも。
あっしだったらこう返すねは親父の戒名だけ。
セリフすべてを、自分自身納得いくようにスムーズにしている。

若干知っているものと言い立てが違う。
「母三十三歳の折ある夜丹頂の胎内におりしを夢見てわらわを孕めるがゆえ」だ。
お嫁さんの本名が千代女。
偕老同穴もなくて、たまに聴く別のフレーズ。
とにかく引っ掛かる部分のない、マイルドブレンドな前座さん。この後今度は逆に、なにか引っ掛かる落語をしていくのでしょう。

二ツ目昇進披露で、新二ツ目2人が一週間出ている。
まずは金原亭駒平さん。初めて。ややロン毛。
大岡山のぐっどすとっく落語会とか行っていたらば聴いているのだが。検討だけで行ったことがない。

披露目なので声も飛ぶ。
次の萬都アニさんともども前座を6年間やったと。萬都さんにも、今の拍手がなかったかのようにお願いします。
初高座は池袋下席夜、師匠世之介の会でもって、見習い時代に務めたという。
折しも2018年。世間は日大悪質タックル問題でざわついていた頃。
日大出身の駒平さん、ウケなかったら客にタックルするよう師匠に命ぜられる。

この人は口調が実にスムーズであり、感心した。
マクラの中身のほうは大したことないけど。でも、面白いことを思いついても喋れないなんて人もいる業界である。口が回るのは本当に大きなギフト。
アドリブにも強いのだろう。セリフを先取りして、ブレスを入れずに喋りきってしまうなんてことが軽々できる。
そしてこの特質は、金原亭の看板、ざる屋でもってフルに活かされる。
調子がいいものだから、ざる屋の軽い、人を食った感じの主人公が非常にマッチしている。
男前でもあり、強いタレント性を感じる。
たぶん、2~3年したら笑点特大号の若手大喜利に呼ばれていると思う。そんな門下であるし。

さらに上手いのが、次の萬都さん。
先日、前座として白酒師の会に出ていたのが久々の遭遇だった。
私はこの人が真打昇進時に圓窓になると思ってますが。

普通前座は3年から4年ぐらいだが、コロナもあって我々はとにかく前座が長かったと。
ある師匠に、前座って言うのは懲役だねと言われた。
確かに、師匠の家に行って寄席に行って、夜は落語会に行って、自分の時間がまったくない。
ようやく釈放されました。
6年という懲役がどの程度の罪か、知り合いの弁護士に訊いてみた。すると、重い痴漢だろうと。

まんとが二ツ目で萬都になった。
四万十の出身なので、「萬十」という字の予定だったのだが、体型的に「まんじゅう」としか呼んでもらえないので慌てて字を探してきたとのこと。嘘ばっかり。
その故郷は、隣家まで2.5㎞あるようなところ。
今から江戸弁で喋りますが、大目に見てください。
ちなみに高知県民は、東京に出ることを脱藩と言います。

演目は長短。これがベテラン師匠みたいな味で。
いや、若さに欠けているということではない。噺の組み立てが実に達者で。
長短は、得てして気の長い長さんだけがフィーチャーされがち。
萬都さんは、短さんもしっかり面白い。それも無理に面白くする感じでなくて、ネジがちょっとはまっていない感じが。
そして長さんも、客のウケを取るためにわざとゆっくり喋っている感じが漂うこともなくはないが、そんなわざとらしさは皆無。
長さんも短さんも、ちゃんと自分の人生を生きている感があって好き。

長短って言うのは、セリフだけでできた噺と思っている。
だが、萬都さんが語ると、ちゃんとストーリーが見えてくる。ストーリー、あったっけ?
でも見えるから不思議。
お互い、コミュニケーションを深掘りしていこうというのがストーリーだろう。会話を深く楽しんでいる感が。

楽しい2席でした。

続きます。

 
 

作成者: でっち定吉

落語好きのライターです。 ご連絡の際は、ツイッターからメッセージをお願いいたします。 https://twitter.com/detchi_sada ブログコメント欄でのご連絡でも結構です(初回承認制)。 落語関係の仕事もお受けします。