桂吉弥「ちりとてちん」(神戸新開地喜楽館配信)

産経らくごの配信、1か月経ったので解約しようと思っていたが、昨日忘れて寝てしまった。
兼好師の「磯の鮑」聴いてたら途中で通信途絶になって。

仕方ない、またひと月聴くことにする。
柳家さん喬独演会が丸ごと聴けたりして、しゃぶり尽くすつもりならなかなかいいのだけど。
どちらかと言うと、寄席をそのまま流している喜楽館の配信が好きだ。
軽くて。
なじみの薄い人が出て、見事な高座を披露するのもいい。

毎週火曜日に喜楽館の配信「元気寄席」が更新される。
今週は前座相当、二ツ目相当の演者が出ず、トップバッターでいきなり桂吉弥師が出てきてたまげた。
同期4人の会らしい。

ちりとてちん吉弥
私がパパよ三若
お玉牛かい枝
胴乱の幸助文鹿

私は最近、土曜日は吉弥師のラジオを聴いている。
相方は元関テレの桑原征平アナだ(関西では極めて有名な方)。
先日そのラジオのブックレビューで、谷川俊太郎の詩集に絡め「覚和歌子」という名前が出た。
ラジオでなにも触れられなくて残念だったが、入船亭扇辰夫人である。千と千尋の神隠しの主題歌作詞したことで有名。

本来であれば出番を巡ってつかみ合いの喧嘩でもするところだが、吉弥師の希望でトップバッター。
なんでも、阪神vs.楽天のチケットがあるので、早く行きたいんだと。
すでにゲームは始まっており、阪神は0対2で負けている。
客からも「負けてんで〜」とかツッコミあったみたい。
昨日も負けてるというのだから、3連戦の中日、6月5日水曜の収録みたい。

落語どころでないと言いながら掛けたちりとてちんは、見事なものでした。
この季節はずいぶん聴く噺ではあるが、東西合わせて抜けたデキ。

昼席も芸歴30年の会で盛り上がったようで。
今は寄席小屋もたくさんあり、隔世の感があると。
動楽亭を作ったざこば師を軽く持ち上げる。この収録日はまだ存命だったのだ。
師匠・吉朝はじめ、先代文枝などええ人ははよ亡くなるね。
ざこば南光がまだでっけどと。

さて本編。
こんなちりとてちん。

  • 調子いい男(金さん)は、ヨイショより、冗談と軽口でもって旦さんを喜ばせている
  • 自分が楽しむことで、旦那が喜ぶのがよくわかっている
  • 腐った豆腐は、客の意識にはまったくない。楽しい会話がずっと続いていて、客はずっと惹きつけられている
  • ギャグは絞り込む(船場吉兆とか)。むしろ、ギャグで笑わせすぎないよう、抑え気味
  • あらかじめ、金さんが自覚してごく軽く失礼な言動を挟み込んでいくので、「ヨイショしすぎて不愉快」というスイッチは決して発動しない
  • 金さんは退場しない
  • 愛想の悪い竹さんは、直接描写では、さして口の悪さは描かれない。エピソードで間接的に描かれたあとは、ごく軽い
  • 腐った豆腐にワサビと梅干しを加えるのは、現代のコンプライアンスによる
  • 竹さんは食事には手を付けす、いきなり珍味を希望
  • 腐った豆腐を食うシーンは、あっさり

東京でも、すべて使える手法だ。
愛想悪い男で軽く笑わせようとするなら、愛想悪くしなければいいのだった。
会話だけで前半乗り切るのはなかなか難しそうだけど。
誰か若手が教わらないかな。

東京の落語好きのイメージする上方落語からすると、豆腐食いの場面はこれでもかとやりそうじゃないか?
もちろん、演者によるのだ。
吉弥師は綺麗な落語をする人だが、アッサリ落語のイメージもない。
だが、ちりとてちんに関しては、強い描写は一切ない。
ギャグも刈り込み気味に、しかし最大限の効果をもって入れる。
筆の立つ女中に、「ちりとてちん」のラベルを書かせる場面、「ん」の尻をこうぐるっと上に回してなと命ずる。よくあるやろ。
マイナス要素を加えないという制限を強く意識しつつ、最大限のプラスを詰め込んだ感じ。
たぶんラジオで一度聴いているはずだが、でも今回の配信の吉弥師のものは、どこでも聴いたことのない内容だった。

一席終え、鳴り物がどんどんと鳴ると、猛ダッシュでハケる吉弥師。
ちなみにこの日も翌日も阪神は楽天に敗れ、3連敗だった。

二番手は桂三若師。寝起きのジュリー。
マクラで語っていたが、東京にも家があるそうで。
そういえば、東京の吉本落語会で名を見た気がする。

マクラというか、漫談が爆笑だった。
本編は師匠・当代文枝作「私がパパよ」。
いかにも文枝落語という一席。

明日は後半を。

 

作成者: でっち定吉

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